触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき

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隠れ家

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 森に着く度、シオン様に見られないようにこっそりとパキュの体液を摂取し、神聖力を蓄えた。最後の森では入念に。おかげで自分の中に力が溜まる感覚を掴めるようになった。

 王都の灯りが遠くに見え始めた頃、シオン様は一軒の小さな家の前で馬を止めた。


「シグルズはここで待機してくれ。借り上げた民家だから風呂もベッドもある。食料は冷蔵室と地下の貯蔵庫に置いている。全て自由に使ってくれ」
「ああ。……これを着ればアオバに同行」
「駄目です。そんな布でシグルズ様のオーラを隠せると思わないでください」

 狩猟用の服と帽子を見つけたシグルズに、ジンがきっぱりと言い切る。

「確かにオーラ隠せないわ」
「ですよね」
「何故だ」
「シグルズは何着てもシグルズって分かる」
「……それは、君が私を愛して」
「違うけど、シグルズってすぐ分かるわ」
「アオ様、別れ際くらい優しくしてあげても……」
「でもすぐ会えるし」

 そこでふと考える。これから向かうのは戦場だ。俺は安全な場所で治療に専念することになってるけど、戦場なんて場所、何が起こるか分からない。

「すぐ会える気しかしてないけど、一応言っとく。……恋愛の好きじゃなくても、俺はシグルズが好きだよ。一緒にいると楽しいし、ツッコミ入れるのに絶妙なボケをパスしてくれるし」

 なんか違うな。一度口を閉じる。


「抱き締められるのも、キスも嫌じゃない。全部終わったら、ちゃんとあんたのこと真剣に考えるから、次会ったらまずは抱きしめてくれよ」
「アオバ……」
「今じゃなくて」
「離したくない。行くな、アオバ」

 きつく抱き締められ、そっと息を吐く。シグルズの体温が心地よくて、ずっとこのままでいたいと思ってしまう。

「……俺もシグルズと離れたくないよ。でも、行かなきゃ」

 シグルズの胸を押し返す。揺れる氷河の瞳を見上げて、安心させるように笑って見せた。

「シグルズ。聖者様のお命は必ず守り抜くよ。そう約束しただろう?」
「ですが……」
「家門のことを除いても、君がこちらに付いたと知れれば戦いは激しくなるだろう。聖者様を守るためにも、ここでおとなしくしていて欲しい」
「……アオバを、必ず無事に帰してください」
「ああ、約束する」

 シオン様はそう言い、シグルズの肩を叩いた。

「じゃあ、シグルズ、言ってくるよ」

 シグルズは俺の唇に触れるだけのキスをして、泣きそうな顔をする。こんなシグルズを置いて離れたくないけど……でも、行かなきゃな……。



◇◇◇



 シオン様は、王都の入り口付近の屋敷へと向かった。
 俺はジンの案内で、城の裏手にある森に入る。そこにぽつんと建つ小さな小屋は、狩りの時期にだけ使われる見張り小屋らしい。

「アオ様はこの部屋で、負傷した兵の治療をお願いします。パキュロスを一体連れて来る予定ですが、兵たちはドアの向こうで部屋には入りません。ドアは開けたままカーテンで仕切り、風の神聖石の力で音は消します」
「それはありがたい」
「……こちらこそ、感謝しております。まさか聖者様が我らにお力をお貸しくださるとは……」
「ジン?」
「すいませんっ……俺、緊張してて……」

 真面目な口調になっちゃいました、とジンは笑う。

「聖者様をこんなとこにお泊めして申し訳ないっすけど、ここは安全なんで明日の夜まで待機しててくださいっ。屋根裏にベッドもあるって聞いたんで、チェックしてきますねっ」

 俺をソファに座らせて、ジンは部屋の端にある階段を登って行った。


 家具とロフト付き、吹き抜けの十二畳くらいのワンルーム……。
 あっちの世界の俺の部屋より広くてちょっと切なくなる。ソファは革製だ。立ち上がって、近くの扉を開けてみる。一つ目はトイレ、もう一つは収納。近くに流れていた川が、風呂と水汲み場を兼ねているのだろう。

「普通に優雅に暮らせるわ……」

 水道と電気がないのは不便だけど、部屋は広くて、電車や工事の音もしない。星空も綺麗だったし、疲れすぎて眠れないこともない。あっちの世界より確実に健康的に暮らせそうだ。

「てかこれ、憧れのログハウスじゃん……」

 ソファに戻って息を吐いた、その時――

「ッ……!」

 何かに口元を覆われ、薬品の匂いを感じた瞬間、クラリとした目眩が襲う。
 ジンに助けを求めようと口を開いたはずが、その感覚もなく、意識は遠退いていった。




◇◇◇




「ん…………ここ、は……?」

 目を開けると、周囲は薄暗かった。石壁の横に、木の扉。先程までいた小屋とは違う。

 ……そうだ、俺、薬で眠らされて……。
 あの小屋から、この場所に運ばれた……?

 頭はまだぼんやりしているものの、頭痛もなく息も出来る。嗅がされた薬は後遺症を残す物ではなかったようだ。
 腕は後ろ手に縛られ、脚首もしっかと縛られて、横向きに転がされている。ご丁寧に、床ではなくベッドに。
 殴られたような痛みもない。俺を殺す気は、ないのかもしれない。

「拉致られるとか、定番すぎて笑える……」

 思わず苦笑した。あまりに王道の展開。
 それでも、ここは現実だ。殺されずとも、拷問をされるかもしれない。
 急に背筋が凍る。そうだ……ここは、現実……。
 ふと脳裏をよぎったのは、シグルズの顔。でも、シグルズが助けに来てくれる確率は低い。それでもこの薄暗い中、シグルズを思い出すだけで、泣き出しそうな恐怖を和らげてくれた。


「目が覚めたか」

 そこで扉が開き、体格のいい三人の男が入ってくる。シンプルな服装だけど、山賊にしては身なりが立派だ。まるで裕福層か貴族のような……。
 彼らは腰に下げた剣をテーブルの上に置き、近付いてくる。ただ見つめるだけで、何もして来ない。

「……ここ、どこ?」

 敬語で言えば良かった。ハッとしたけど、彼らは顔を見合わせて大声で笑った。

「さすが聖者だな。怖がりもしないのか」

 皮肉を込めた笑いに、俺は眉間に皺を寄せる。

「……聖者、って?」
「しらばっくれんなよ。パキュロスが力の源だろ?」
「なんでそれをっ……」
「ある人から聞いたんだ。まさか今回の聖者の属性がパキュロスとはな」

 また笑いが起きる。
 ある人……俺の属性を知ってるのは、あの三人だけだ……。
 シグルズは馬鹿正直なうえに、俺を拉致させる理由がない。シオン様は、回復出来る聖者を手放すはずがない。
 疑いたくはないけど……ジンが屋根裏に上がった隙に俺は襲われた。それは、偶然じゃなかった……?
 ……いや、シオン様もわざわざを守ると言った。命以外を守るとは言ってない。でもシオン様には、動機がないのだ。


「あのさ、俺馬鹿だから教えてよ。俺を拉致してあんたらにどんなメリットがあんの?」

 下手に出たら不利になる気がした。彼らには、頭の悪い奴だと思われた方が良さそうだ。

「聖者様は、状況が分かってないのか」
「聖者を拉致して二晩閉じこめるだけで、一生遊んで暮らせる金が手に入るんだよ」

 俺を馬鹿にして笑いながら、欲しい答えを喋ってくれた。
 二晩なら、シオン様たちの奇襲が終わるまでだ。奇襲の情報まで漏れてること、彼らが王か宰相側の人間だということ、それから、明日の晩までは殺されないことは分かった。

「俺、聖者って言ってもまだ何の力もないんだけど」
「回復力があるんだろ?」
「あー、あるにはあるけど、擦り傷を治せるくらいだし。頑張って練習したけど……やっぱ自然が属性じゃないと駄目なのかなぁ」

 役立たずの聖者つれぇ、と溜め息をつく。聞けばポロポロ情報を零す奴だと思わせられただろうか。

「は? うわっ!」

 下げた視線を上げると、間近に男たちがいた。彼らは俺を仰向けに返して、脚の拘束を解く。

「えっ、ちょっ……!!」

 どういうことか、下着ごとスラックスを脱がされた。



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