触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき

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番外編6

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「遠縁だが、王族の血筋で、正義感が強く聡明で心優しい子を見つけた。その子を養子に迎えるつもりだ」

 その手できたか。それなら、パキュたちに追い出して貰う必要なくなったな。

「貴族たちには、私は子を成せない体だと説明するよ」
「えっ……」
「ジン以外愛せないのだから、嘘ではないよ。それなら、結婚相手が女性の必要はないだろう?」

 抜かりない。なんか……今のシオン様なら、ジンを絶対幸せにしてくれるって信じられるな。
 シオン様は戸惑うジンの頬を、そっと撫でる。


「ジンが嫌なら、私と結婚しなくてもいい。ただ……そばにいて、昔のように、笑って欲しいんだ」

 シオン様は、寂しげに微笑んだ。
 子供の頃に身分を伏せてた理由のひとつはきっと、ジンに笑顔を向けて貰えなくなるのを恐れてたからだ。この国で王族と平民は、それだけの身分差がある。

「でも……私はジンの伴侶になりたいから、後継者に王位を譲ったら、改めて求婚するよ」
「!」

 左手の薬指にキスされて、ジンはびくっと跳ねた。
 視線が俺に助けを求める。でもシオン様がジンの頬を両手で包んで顔を戻した。

 今のジンの気持ちは……。嬉しいけど、断らないと。シオン様は国王だから、身分が。そんな感じか。
 それならシオン様を応援したいけど、あうあう言って涙目になってるジンがさすがに可哀想になった。


「シオン様。俺はシオン様を応援する側なので」

 前置きして、ジンの頭をぽんぽんと撫でる。そのままジンを引き寄せて抱き締めた。

「大人になったジンには、シオン様の本気は刺激が強いよな」
「はいっ……」
「好きな人だから尚更な」
「はいっ……っ、あのっ、違っ」
「ジン。身分を理由に断ったとしても、シオン様は諦めないし、一生他の誰とも結婚しないと思う」
「ああ。ジン以外と結婚する理由がない」

 シオン様はそう言ってジンの手を握った。
 後継者問題は解決しそうだし、シオン様はジンを王配にするつもりはない。王配になったらジンは護衛騎士のままではいられないから。

 王配になるための教育で苦労させたり、王城や社交界でジンが冷遇されるくらいなら、王と騎士として、そばにいることを望んでいる。


「ジンはさ、一応身分高い俺とも友達になってくれただろ? その感覚でいいんだよ。ここにいるのは、ジンが大好きだったあのお兄さんなんだから」

 ジンはぴくりと震える。

「ジンの店のパイが大好きで、ジンのことが大好きな、あのお兄さんだよ」
「…………しぃにーちゃん」
「っ、ジン……」

 シオン様が俺からジンを奪う。この勢い、なかなか見どころがあるな。

「っ……もう大人なのでっ、恥ずかしいのでっ、シオン様っ……」
「それなら、シオンと呼んで? 敬語もいらないよ」
「し、シオン……にぃさん……」

 うん。頑張ったな、ジン。


「…………ジンを、亡き叔父の戸籍に」
「陛下。恋人を従兄弟にしてどうするのですか」

 それな。

「そうだな……数年越しにジンに兄と呼んで貰えて、感激のあまり……」

 気持ちは分からんでもない。ジンが弟だったらいいなって俺もわりと本気で思うし。

「それから、遠回りをし過ぎです。国王なのですから、先に婚姻届を出してから話を進めれば良かったのです」
「そこから心を動かせるほど、私はシグルズのように自信がないからね」
「てかそれって公文書偽造じゃ……」
「事実が後から付いてくれば問題ない」

 ぼそりと呟いた俺に、清々しいほど堂々と言い切った。
 その間に、ジンの手がパタパタ動いて俺の服を掴む。なんか……雛が母鳥探すみたいで可愛いな。ジンにとって俺って、母親みたいなもんなのかな。

 ……なにそれ愛しい。

 ジンの手を握り、ぽんぽんと背を叩いた。


「ジン。ひとまず結婚の話は置いといてさ、シオン様に伝えたいことあるだろ?」

 ジンもだけど、なんかシオン様も恋に不器用で、お節介したくなった。

「あの…………シオン様の騎士として、一生を捧げます」

 うん、そうだけど違うんだよな。

「し…………シオン様が、……大好きです」

 かっ、可愛いっ……!
 思わず抱き締めそうになったけど、先にシオン様がジンを抱え込んだ。王様剥がしたシオン様って、かなり嫉妬深いし人間味あっていいな。

「私の信頼する者たちと養子には、ジンが恋人だと伝えても……いい?」
「っ……はい」

 おねだりを使い分け始めた。なかなかやるな、シオン様。

「養子といっても、ジンと同じ歳なんだ」
「そうなんですかっ?」
「婚約者もいるよ。彼女は、シグルズも知っている人だ」
「私が?」

 シグルズは眉間に皺を寄せる。社交界に興味がないから、知ってる女性が思いつかないんだろう。


「彼の婚約者は、シグルズの姉君だ」

 ま、まさかの……。

 どっちだ、とシグルズが呟く。

「…………辺境伯の、第三子の」
「ああ。本人は庶子だと言っていたが、母親は王族の血筋だ」

 なるほど。辺境伯と王族の血筋で、シグルズのお姉さんが婚約者なら、他の継承権を持つ人や貴族を黙らせることもできる。
 シグルズに聞いたけど、継承順位高い人たちはシオン様のはとこ……祖父の弟の孫らしくて、その人たちは継承権を放棄したいらしい。

「確かに姉は常々、彼を辺境に置いておくのは勿体ないと……」
「そうか。姉君のお墨付きならますます安心だな」

 だよな。シグルズのお姉さんなら身分も高いし、社交界での影響力もあるって聞いたし、何より貫禄があるから今すぐにでも王太子妃になれる。
 挨拶に行くより先に街で会った時、なんか……女帝って感じだった。

「彼が王に相応しくないなら、姉を女王にするおつもりですか」

 やっぱ女帝、いや、女王か……。
 お姉さんとまだ見ぬ婚約者さんには申し訳ないけど、世界を支配する女王になれると思う……。

「彼に継承権を譲った後のことは、彼に全て任せるつもりだよ」

 シオン様はにっこりと笑った。上手いかわし方だ。


 そこでふと気付く。いや、わりとはっきりめにそうかなとは思ってたけど……。

「……あのさ、シグルズの家ってさ」
「公爵家だよ」
「陛下。アオバには伏せていたのですが」
「君が何だろうと、聖者様は気にしないのでは?」
「まぁ……貴族の身分の違いとかいまいち分からないし、公爵家でも男爵家でもシグルズが偉そうなのは変わらないので……」

 本音を零すと、シオン様はクスクスと笑った。

「シグルズ、聖者様以上に愛してくれる人はいないよ。愛想を尽かされないようにな」
「言われるまでもなく」

 ちょっと、それ殺気。俺でも分かる。

「陛下こそ……」

 ジンに、と言いたかったんだろうけど、ジンがこれからもシオン様一筋なのは火を見るより明らかだった。

「……姉と婚約者を仲違いさせるようなことは、決してなさらないでください。二十五でようやく姉を恐れず懐いてくれる者が現れたのです。必ず結婚まで漕ぎつけてください」
「そうだったのか……。神に誓って、約束しよう」

 お姉さんかっこよくて美人で迫力あるけど優しい人なのに、この世界の貴族令息的には無しなのかな? 勿体ないな。


「さて。後継者は問題ない。求婚は、私が王位を譲った後に決まった」

 ジンと同じ歳ならわりと早めに王位譲れそうだけど、シオン様は国王として全てをやり遂げてから譲るんだろうな。

「後は……ジンが護衛騎士として平静でいられるよう、恋人としての私に慣れて貰うだけだね」
「!?」
「ジン、愛しているよ」
「っ……む、むりですっ……」

 吹っ切れたシオン様は、ジンを抱き締めて可愛い可愛いと言う。

「愛情表現がパキュロスに似ているな」
「俺もそう思った」

 ぎゅうぎゅう抱き締めるところも、髪や額にキスするところもそっくりだ。これは一緒にいる時はひと時も離して貰えないだろうなぁ。

「ひぇっ……うぅっ、むりですっ……」

 間近で見つめられて、真っ赤になったジンはめそっと泣き出してしまう。好きすぎてつらそう。
 困ったことに、ジンが護衛騎士としての教育を終えるより、シオン様に慣れる方が時間がかかりそうだ。



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