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番外編7
しおりを挟む「ジン……ジンジャー、愛しているよ」
「っ、ぅぁ……」
それから十数分。シオン様は、ぷるぷるするジンを抱えたまま離さなかった。
その勢いがあるなら最初から押しまくったら良かったのに、と今なら思えるものの……。ジンのお父さんのこともあって、シオン様はあの王の息子で、計り知れない葛藤や恐怖があったんだろう。
「ぁ……アオ様っ……」
「ジンは、私より聖者様が好き?」
で、それを乗り越えたらこれだよ。
「シオン様がジンのこと大好きで、独占欲つよつよなのは分かりましたけど、そろそろジンが死にそうなので失礼します」
軽くジンの腕を引いてみる。勿論シオン様は離さない。そこで突然、ノックの音が響いた。
シグルズが少しだけ扉を開けて対応する。
「陛下。会議の時間だそうです」
「………………そうか」
わぁ、シオン様、見事な舌打ち。
「ジン。今夜、……明日の正午に、また会えないだろうか」
だよな。今のシオン様、夜に会ったら絶対色々我慢できない。
ジンはすぐに答えず、チラッと俺を見る。シオン様の嫉妬もビシビシこっちにくる。
「明日の正午、俺も同席させていただきます。……シオン様が、ジンの恋愛成長速度に合わせた距離感で接していただけたら、俺も安心して席を外せるんですが」
「…………善処しよう」
シオン様はようやく王様モードに戻って、苦笑する。そして、今生の別れみたいな顔をして仕事に戻って行った。
シグルズもそのままシオン様に同行する。忘れそうになるけど、今はシグルズがシオン様の護衛なんだよな。
「あの、俺ももうすぐ訓練なので……アオ様、本当にありがとうございましたっ!」
勢いよく下げられた頭を、クシャクシャと撫でる。
「役に立てて良かったよ。訓練、頑張ってな」
「はい!」
ようやく緊張が解けて明るさを取り戻したジンは、元気に返事をする。この笑顔をシオン様に向けられるようになるには、どれだけかかるかな。
シオン様に嫉妬されそうな笑顔で、ジンは俺を城の裏手の森まで連れて行ってくれる。今朝、シグルズの仕事が終わるまでパキュたちと過ごすと伝えていたからだ。
キキュが迎えに来たのを確認して、ジンは訓練へと戻って行った。
「ジン、可愛いかったなぁ……」
いつも元気いっぱいなのに、あうあう言って顔を真っ赤にして。弟がいたらこんな感じなのかな。
『キ……』
「キキュ~、元気にしてたか~?」
『キィ~!!』
胴体を撫でると、触手に抱き締められる。そのままくるくる回って喜ぶキキュが可愛い。
シグルズが言うには、屋敷の敷地内のパキュと遠くのパキュは情報共有してるから、離れてても俺と一緒にいるようなものらしい。でも直接会うとこうして大歓迎してくれるし、体感は違うんだろうな。
なんでシグルズが会話できるようになったか聞いたら、ジェスチャーで分かる、だそうだ。妙なところでめちゃくちゃ察しがいい。
「キキュ。ジンのこと許してくれてありがとな」
ジンは革命後、檻に閉じ込めて薬を打ったことを、改めてキキュに謝罪した。キキュはあの戦いをその場で見てたから、お互いつらかったな、とジンの肩を叩いた。
泣きそうになりながらも涙を堪えて騎士らしく敬礼をするジンに、俺の方が泣きそうになってしまった。
『キィ、キィ~~』
触手が横に揺れて、ぽんぽんと俺の肩を叩く。昔のことよ、と言われてるようだった。
「ありがと、キキュ。シグルズが仕事終わるまで、お邪魔するな?」
『キィ!』
触手が口に挿し込まれる。食べ物がなくても、パキュたちと俺がいればどっちも生きていけるって、改めて考えるとすごいよな。
「……キキュさん?」
『キュイ?』
「さすがに口開けすぎでは?」
『キュイン?』
甘えるように鳴くけど、俺の周りには尖端を開けた触手がずらりと。俺じゃなかったら泣くって。
「……落ち着いて、ゆっくりな?」
『キィー!』
元気に鳴いたキキュは、ゆっくりと俺に触れた。
……最初だけは、な。
◇◇◇
「……ここにいると聞いたが」
「おー……仕事お疲れさまぁ……」
「……アオバもな」
夕陽が射し込む森の中。全身ヌメヌメになって吊り下げられてる俺を、シグルズは見上げた。
「出逢った時を思い出すな」
キキュから俺を受け取り、マントで包んでくれる。
「あの時、アオバを助けて良かった」
優しい声。柔らかな笑顔。ヌメヌメなのに、気にせずに抱き締めてくれる。
「ん……。俺も、助けてくれたのがシグルズで良かった」
見捨てようとしてたけど、それはパキュロスが安全だと分かってたわけだし。
「そういやシグルズ、なんであの森にいたんだ?」
「依頼で、小型の魔物を狩った後だった」
「魔物!? じゃあ俺、もうちょい来るのが早かったら……」
「魔物に喰われていたかもしれない」
「まさかの事実!!」
「結果的にパキュロスと私に喰われたわけだが」
「誰がうまいこと言えと……」
「アオバは美味いからな」
「コントかよ……」
姫抱きで運ばれながら、シグルズは俺の額にキスをした。
「君が魔物に喰われた後だったなら、何の感情も抱かなかっただろう。だが……今は、想像すらしたくない」
すり、と頬が擦り寄せられる。
「俺、そんなにシグルズの大切な奴になってたんだな」
じわりと胸が熱くなる。きっとたくさん死を見てきたシグルズが、失うのを怖いと思ってくれている。それなら、何があっても絶対生きなきゃな。
「……帰ったら、俺のこといっぱい食べてくれていいからな」
「アオバ……」
「は……?」
ストンとその場に下ろされて、シグルズを見上げる。
「今すぐ、君を食べたい」
「えっ、ちょっ……ここ、城の敷地内!」
『キィ~キ、キ』
「そうか。感謝する」
「なに? なんて?」
「仕方ないわね、見張ってるわ、だそうだ」
「なんでその口調!?」
「動きがしなやかだった」
「なるほど。って、シグルズがパキュロスの聖者では?」
俺より理解してるのすごい。でもちょっと嫉妬してしまったら、キキュに頭を撫でられた。
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