触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき

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*穴に落ちたら異世界

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 俺、森川碧葉もりかわ あおばは、社会人三年目の二十一歳。
 先程までくたびれたスーツを着て、手には重い仕事鞄とコンビニ袋を持って、もう日付変わるじゃん~なんて言いながら歩いていた。それなのに。


「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」

 俺は今、通りすがりのイケメンに助けを求めている。
 何故って? 角を曲がったらマンホールの蓋が開いてたみたいで、うっかり落ちたから。目が覚めたら森の中で、巻きついた何かに宙吊りにされていたから。
 いやいや、なんで!?

「私を知らないのか?」
「は? 有名人? って、そんなことより助けて!」

 いい声のイケメンは、目つきは悪いけど綺麗な水色の瞳をしている。サラサラの長い銀髪で、背も高くて手脚も長くて、白シャツと黒のスラックスだけでも絵になる。思わず見惚れてしまうくらいに。でも、今はそれどころじゃなかった。

「なんだこれっ……いや、マジでなにっ?」

 ヌメヌメでむにゅむにゅの蔦が頬をつつく。十数本ある蔦……って、これ、触手?

「うわっ、ちょっ、入っ……」

 器用にシャツの裾から滑り込んだそれが、直接肌に触れた。


「冷たっ……うえぇっ!?」

 一気に何本も入ってきて、思わず悲鳴を上げた。ヌルヌルしたものが全身を這い回って気持ちが悪い。スラックスの裾からも大量の触手が入り込んだ。
 もしかして、これって消化液とか? え、俺、食べられ……?

「助けっ……助けて!!」

 ホラーじゃん!!
 ただ見上げてるだけの銀髪男に必死で助けを求める。こんなに必死に訴えてるのに、眉間に皺を寄せて、心底面倒臭そうに溜め息をついた。

『キイィッ!!』

「うわっ!」

 触手から悲鳴が上がった瞬間、ガクリと体が傾く。解放された体は真っ逆さま。せめて受け身を取ろうと身を丸くする、けど……。


「っ……え、助かっ、た……?」

 痛みも衝撃もなく、そっと目を開ければ、視界には生い茂る緑と赤い空が広がっていた。
 ……ああ、夕焼けが綺麗だ。
 …………うん、イケメンの顔が近い。
 そしてなんて見事なお姫様だっこ。俺はまあ細身の自覚はあるけど、決して小さくはない成人済みの男。それなのに、軽々と抱えられていた。

 彼は近くで見ると、ますます人形みたいに整った顔だ。睫毛は長くて、鼻筋は通っていて、肌も白い。大人っぽく見えるけど、俺と歳が近いかもしれない。そんなことを思いながら見つめていたら、人形みたいな顔がまた眉間に皺を寄せた。

「た……助かったぁ~~! ありがとう!」

 ハッと我に返る。彼は渋い顔をしたままで、俺をそっと地面に下ろしてくれた。

「って、ごめん、あんたまでドロドロに……」
「気にするな」
「でもすごいベトベトだし、ほんとごめ……ッうひゃ!」
「……何だ?」
「服の中にまだっ、んぁっ、ぬるぬる、してッ、んぅッ……」

 スラックスの中に入ったままの触手が、ビチビチと跳ねて肌の上を暴れ回る。これ、咥えられるよりやばっ……されたことないけどっ……。慌ててスラックスを脱ごうとするけど、手に力が入らない。


「ひっ……ぁ、たすけてっ……」

 涙目で見上げる先で、彼は少し迷ってから小さく息を吐いた。
 長い指が難なくベルトを外し、下着ごとスラックスを引き下ろしてくれた。何本かは地面に落ちた。でも、細い触手が何本も俺のアレを覆うように絡みついたままだ。

「うぇっ、離れないっ……」

 痛くないけど、なんて吸引力。ぬるぬるして剥がせない。

「んっ、あっ、あぅっ」

 うねうね動く触手に絶妙な強弱で締めつけられ、声が漏れてしまう。いや、男の弱いとこをぬるぬるにされて耐えられる男いなくない?
 頭の中で言い訳しているとまた溜め息が聞こえて、白い指が触手の端を掴んだ。

「えっ? ひっ、ああッ――!」

 容赦なく触手が引き剥がされ、あまりの快感に背を反らせて絶頂を迎えた。

「はぁっ……ぁ、ぁぅ……」

 荒い呼吸を繰り返しながら、徐々に冷静になる頭は考える。
 すごかった……けど、最初は女の人が良かった……。初めてぬるぬるにされたのが触手とは、可哀想な俺……。
  引き剥がされた触手が地面の上でうねうね動いて、伸びてきた触手がそれを拾う。切り口同士を合わせると、ぴったりとくっついた。
 ……本当に、あれ、何……?


「家は何処だ?」
「え? あ、えっと……」

 何事もなかったように話しかけられ、慌てて飛び起きてスラックスを引き上げる。
 家。
 ぐるりと周囲を見渡した。

「家……てか……ここ、どこ?」

 薄暗い森。謎の触手生物。その触手を腰に帯びた剣で斬り落として、俺を助けてくれたんだけど……。いや、剣って……。

「乗れ」

 心底面倒臭そうにしながらも、俺を放置しないでくれるらしい。彼はそばで待っていた馬に軽々と乗り上げた。

「馬って、どうやって乗ったら……」

 鐙に脚を掛けるのは分かる。でも今、どこを掴んで乗ったんだ?

「君は何処かの姫なのか?」
「なんか馬鹿にされてるのは分かるけど、まじでどうやって乗ったらいいか分からない」

 素直に言えば、呆れた顔をされた。そして。

「うわっ、あんた、すごい力持ちだな」
「君が軽いだけだ」

 一度馬を下り、俺を持ち上げて馬に乗せてくれた。さすがに軽くはないだろうにこのフォロー。もし俺が姫様だったら惚れてるやつだ。


「……何だ?」
「いや、仏頂面だけどいい奴だなって」

 笑ってみせると、彼は目を見開く。でもすぐに視線を逸らして馬に乗り、手綱を握った。
 少し迷ったけど、俺が掴む場所は、前に座る彼の腰しかない。馬に乗るのは初めてだ。思ったよりも高くて、落ちたら怪我じゃ済まないなとふいに恐ろしくなり、見た目よりも筋肉のついた腰にしっかりと抱きついた。

「助けてくれてありがとな。あと、変なとこ見せてごめん」
「気にするな」

 本当に気にしてないような声に、ほっと息を吐いた。


 馬に揺られながら頭の中を整理する。
 仕事帰りに突然蓋の消えたマンホールに落ちて、この森で目を覚ました。謎の触手生物に捕らわれて、剣を使う銀髪美青年に助けられた。
 それに、空には……月が、二つ。
 寄り添うように輝く金と銀の月が、ここが地球ではないことを物語っていた。


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