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大きな屋敷
しおりを挟む「シグルズ様!」
大きな屋敷に着き、中に入ると、使用人と思われる人たちが駆け寄ってきた。
シグルズ。名前までイケメンだな。
そんなことを思いながら何かを指示する彼を見つめていたら、訳も分からないままに、シグルズの向かう方とは逆方向へと連れて行かれてしまった。
「うっわ、広っ……」
案内されたのは、広々とした浴室だった。泳げるくらいに広い湯船の周囲には、古代の神殿のように白い柱が立ち、彫像も飾られている。
衝立で仕切られた場所へと促されて素直について行くと、使用人たちが俺の服に手を掛けた。
「失礼いたします」
「えっ……あのっ、自分で出来るのでっ」
「主人に命じられておりますので、どうぞ、私どもにお任せください」
「…………じゃあ、お願いします」
物凄い剣幕で詰め寄られて、俺は頷くしかなかった。
銭湯にも行ってたし、裸になるのは恥ずかしくない。この場の使用人も全員男性だ。ただ、謎の粘液でドロドロになった服に触れさせるのが申し訳なかった。
お金持ちは、使用人に髪や体を洗わせるんだよな……。
まさか全身を隅々まで洗われるとは思わず、温かい湯に浸かり、遠くを見つめる。
漫画で見たことがある。きっと世話をしないと怠慢だと言って怒られるのだ。
それなら仕方ない。そう納得はしても、この歳になって他人に体を洗われるという体験に、何とも言えない気持ちになった。
全身を磨き上げられ、自分の肌とは思えないほどの滑らかさと艶が出た。まるで生まれながらのもち肌みたいだ。ほんのり赤みがかった黒髪もサラサラでツヤツヤ。
顔はアイドル話すと芸人、と友人や会社の人たちに言われてたけど、こうして見ると結構いけるのでは? と自惚れてしまう。
鏡を見つめている間に着せられたのは、シルクの白いバスローブだった。
薄い布地は肌にしっとりと張り付き、胸の突起さえ主張して見えるほど。下着も薄くてぴったりしてて、バスローブの上からソコの形が見えてしまいそうだ。
服まで借りているから文句は言えない。そう納得したものの、思わず小股になり使用人の後に続いた。
案内された部屋に入ると、シグルズは眉間に皺を寄せて使用人を睨んだ。
「私は洗えと言っただけだが?」
「っ……た、大変失礼いたしました!!」
「は? え?」
引きずられるように部屋を連れ出されて、別室で今度はシャツとスラックスという普通の服を着せられる。
「申し訳ございません……。私どもが至らぬばかりに、大変な失礼を……」
「いえ、全然いいんですけど、あの人なんであんなに怒ってたんですか?」
「先程身に着けておられたのは、夜伽の際に使用する物でして……」
「夜伽って何ですか?」
「ご存知ではない、ので……?」
使用人は目を見開いて口元を押さえる。
「あの……知ってないとまずいですか……?」
俺は両親もいないし高校を出てすぐに社会に出て毎日必死に働いてたから、知識にムラがある。それか、異世界用語かもしれない。
「……恐れながら、今はお急ぎシグルズ様の元へお戻りください」
答えは貰えなかったけど、確かにあの人機嫌悪そうだったもんな。もしかしてパワハラ上司だったりする?
そうだとしたら数時間前の自分を見ているようで、彼らに同情してしまった。
部屋に戻ると、温かい紅茶とお菓子が用意されていた。
「座れ」
「あ、どうも」
ひとまず小さく頭を下げ、ソファに座る。張りのある革製。本革かもしれない。
視線で促されて、置かれたクッキーを口に運ぶ。サクサクとした食感で甘さ控えめの、とても美味しいクッキーだった。
目が覚めると突然森にいたというシチュエーション。小説や漫画では奴隷にされたり勘違いで殺されそうになることも多々あるけど、俺は触手に捕まっただけで、怪我もなくこうして美味しいお茶とお菓子を食べている。
それもこれも、彼が助けてくれたおかげだ。あのまま誰も来なかったら、あの触手に溶かされていたかもしれない。森の中なんて人が通る確率は低そうなのに、幸運だった。
この状況は意味不明だけど、もしここが異世界だろうと、命があって美味しい物を食べられている。それだけで充分幸運だ。
サクサクとクッキーを頬張っていると、溜め息が聞こえた。
「パキュロスに興味を持たれるとは、君は何者だ?」
「パキュロス?」
「知らないのか? 君を吊り下げていたあれだ」
「あ、あれかぁ。知らないってか、あんなの見たことないよ」
あの触手もだし、木とか果物も。光る洋梨なんてファンタジー映画でしか見たことがない。
「この国の者ではないのか?」
「ここがどこかも分からないんだけど……俺のいた日本じゃないよな?」
この屋敷は石造りで、大勢の使用人がいた。一般人に仕掛けるドッキリ番組にしては手が込んでいる。そして何より、空に浮かぶ二つの月。日本どころか地球でもないのだろう。
「君は、まさか……」
シグルズが目を見開く。穴が空くほどに見つめられて、思わず視線を逸らした。男の俺でも恥ずかしくなるほどに顔がいい。
「君を、神殿へ連れて行く」
「神殿?」
「ニホンという国から来たのだろう?」
「そうだけど」
「それは、神の国の名だ」
「…………はぁ?」
神の国? まさか、そんな……。
異世界だろうとは思ってたけど、日本が神の国……。
「穴に落ちた先が別世界って、アリスかよ……」
辛うじて絞り出せたのは、そんな言葉だった。
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