アイドルですがピュアな恋をしています。~お付き合い始めました~

雪 いつき

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バレンタインでした

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 大地だいちがマンションに戻ると、当然のように隼音しゅんがついて来た。そして花楓かえでからのチョコをテーブルの上に置き、嬉しそうに眺める。
 微笑ましくはある。だが、今日もまた延々と惚気を聞く事になるのだろう。

 チョコより胸焼けしそうだ、と苦笑し、鷹尾たかおから貰った箱を開けると、プレート状のチョコレートが綺麗に並んでいた。
 花楓の華やかで繊細なチョコとは違い、シンプルながら洗練されたデザイン。
 チョコをひと口齧り、大地は固まった。


「甘かった?」

 隼音が首を傾げる。あの店長に限って加減を間違うとは思えないのだが。

「ビターチョコ、の、定義って何だ……?」
「え、カカオ多めで苦めのチョコ?」
「だよな……?」

 珍しく大地が混乱している。チョコを見つめ、顔いっぱいにクエスチョンマークを浮かべながらチョコの箱を隼音の方へと押した。
 見た目はお洒落な文字が入った普通のチョコ。ひと口齧り、隼音も……、固まった。

「な?」

 ビターチョコに間違いはない。だが、ふわりと抜ける柑橘系の香りと、舌に触れる仄かな甘さ。まるでもぎたてのフルーツを齧るようなジューシーさを感じた。
 だがしっかりと苦味もあり、そして雑味が全くない。
 つまり、あまりの美味しさに脳が混乱する。


 一旦箱を閉め、大地はソファに背を預け天を仰いだ。

「あの店どうなってんだ……こんな天才的なパティシエ揃って、何でラブコメとコントしてんだ……」
「天才ってそういうとこあるよねー」

 お前が言うな、と言いたいがグッと呑み込む。今は隼音にツッコミを入れている余力はない。

「俺たちがプロデュースした店ってことで、すっげー並んでも問題ない場所で期間限定の店とか出せないか……?」

 本人たちが目立ちたくないのは知っているが、この味を埋もれさせておくのは勿体ない。

「俺も前に考えたけど、花楓さんたちが変装したり取材NGにしても、リスクはゼロじゃないからなー」

 人の目は何処にあるか分からない。万が一後をつけられて店や家がバレて……と考えたら、悔やんでも悔やみきれない。


「もっとたくさんの人に食べて貰いたいけど、それを決めるのは花楓さんたちだしな」

 たくさんの人に食べて貰いたいか、身近な人々の笑顔と声に直接触れられる距離にいたいか、幸せの形は人それぞれだ。
 そうだな、と大地は呟く。やはりこの才能は勿体ないという気持ちは捨てきれないが、時が経てば状況も変わるか、と今は納得する事にした。

「それに、そんなリスクを負ってまでの企画、うちのリーダー様の審査を通過するとは思えない」
「それな」

 大地は苦笑した。
 鷹尾から会ってみたいと言われたのだが、出来ればメンバー三人の都合が合う日にしたい。
 ありがたい事に忙しい身。一番忙しいリーダーのスケジュールと擦り合わせながら決める事にした。


「そういやお前、今度のドラマのこと花楓さんに言ったか?」
「え、あ、うん。一応は。でも、ドラマより多分番宣の方が、って言えなかったんだよね」
「あー……まあ、あの番組、無茶振りするからな」
「花楓さんなら気にしないでいてくれそうだけど、それも悲しいというか」

 隼音君かっこよかったよ! と輝く笑顔で言われそうでちょっと寂しい。

「想像出来るけどさ、恋心自覚したんならさすがに嫉妬くらいするんじゃねぇか?」
「それはそれで花楓さんを悲しませるから悲しい」
「……」
「あ、今、めんどくさいとか思っただろ」
「いや、痒いっつーか、そういう」
「仕方ないだろー、初恋ですしー。俺もまさかこんな…………はー……花楓さんが好きすぎてつらい」

 好き。大好き。
 机に突っ伏しチョコの箱を撫で始める隼音に、酔っ払いか? と大地はひとつ息を吐き、ビターチョコを口に運んだ。


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