ある日、人気俳優の弟になりました。２

新たな始まり

　ドン、と顔の両側に付かれた手。
　左には直柾なおまさ。右には隆晴りゅうせい。
　退路を塞いで、真っ直ぐに見つめてくる。

「好きだよ、優くん」
「優斗。好きだ」

　蕩けそうな甘い瞳と、射抜くような瞳。相反する二人に見つめられ、優斗ゆうとは身を震わせた。

　――かっ、……顔が、いい……。

　そう。この二人は、あまりにも顔が良かった。
　同じ男である優斗でさえドキドキしてしまう程に。

「優斗、いいよな？」
「っ……え、なっ、何がですかっ？」
「優くん。怖がらないで？」
「ちょっ、不穏なんですけど！？」

　大丈夫、と笑う二人の手が頬と顎に触れる。
　指先で優しく撫でられ、見つめられて。
　顔が、顔が……近い、近くに……。

「やっ……、待っ……待って……！！！！」


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　チュンチュン。わざとらしく鳴く鳥の声。
　窓から射し込む、夏らしい強い光。
　見慣れた天井と、ふかふかのベッド。
　右を見て、左を見て、……誰もいなかった。

「……、夢……」

　はーー、と優斗は深く息を吐いた。

　そうだ。夢だ。夢に決まっている。
　あんな、とんでもなく顔の良い二人に迫られて、愛を告げられているなんて。

　夢……。

　夢…………。

「なら良かったのに……」

　優斗は両手で顔を覆った。
　夢とは内容が少し違ったが、あの二人に迫られて、愛を告げられて、口ではないがキスをされて……。それは全て、現実で起こった事だった。

　夢なら良かった。

　だって、心臓がもたない。

「なんでこんなことに……。……俺が欲張りで煮え切らないからだよ……」

　また盛大に溜め息をついた。
　自業自得とはまさにこの事。

　どちらかを選ぶ事も、手放す事も出来なくて。
　だからといって受け入れる事も出来ないくせに、失いたくもなくて。

　欲張りで優柔不断だから、優しい二人は猶予を与えてくれた。

　あの日から、恋人“候補”としての生活が始まったのだ。