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恋人“候補”
しおりを挟む立花 優斗は、母の再婚を期に橘 優斗となり、兄が出来た。
兄である橘 直柾は、顔良し性格良し穏やかで真面目で、完璧な王子様のような人だった。
「優くん、ただいま。会いたかったよ」
誰もが認める“王子様”は、リビングへと入るなり甘く蕩けそうな笑みを浮かべる。まるで、世界の果てから遥々会いに来たかのように。
緩くウェーブの掛かったアッシュゴールドの髪が夕陽を弾き、キラキラと輝く様はどこかの国の王子様のようだった。
……ちなみに、三日前に会ったばかりである。
「おかえりなさい、兄さん」
そう返すと、彼はまた柔らかな笑みを浮かべた。兄呼びが嬉しかったらしい。
「俺はさっきぶりだな。一緒に帰ってきたし」
「そ、そうですね……」
迎えに出た優斗の隣に立ち、隆晴は直柾に対して“毎日会ってますけど?”アピールをする。これは優斗にも分かる。その証拠に直柾は悔しげな顔をした。
ちなみに、もう夏休みなので毎日は会っていない。
隆晴……竹之内 隆晴は、高校からの先輩で、文武両道で面倒見が良く、更には顔が良い。声も良い。漆黒の髪が良く似合う男前だ。
……つまり優斗は今、顔面偏差値がとんでもない二人に囲まれていた。
「優くん、好きだよ」
「えっ、あ、はい」
突然割って入ったのは直柾で、脈絡がないのはいつもの事。
「俺に出来ることがあれば何でも言ってね? 俺の命は、君のものなんだから」
「え、っと……今のところは大丈夫です……」
優斗は曖昧に笑って見せた。
諸々の事情があったのだが、直柾は“俺の命は君のものだよ”と良く口にする。これさえなければ本当に王子様なのに、と思うが、最近ではこの言動こそ王子様っぽいのかも? と思ったりもする。
……決して絆されたわけではない。
「優斗が好きなのは、俺だよな?」
「え? えーっと……」
「優くん、俺だよね?」
「えーーっと……、っ!」
ジリジリと追い詰められ、今朝の夢と同じ状況になってしまった。ドンッと示し合わせたように顔の左右の壁に手を付かれる。
「優くん」
「優斗」
左には、直柾。右には、隆晴。
影になり色を濃くした湖水色の瞳と、射抜くような琥珀色の瞳。
ジッと見つめられると目を反らせなくなる。体も動かなくなる。きっと、二人の瞳には魔力がある……かもしれないが、こんな、とんでもなく顔の良い二人に迫られれば身動きくらい取れなくなるだろう。
……つまり、誰か助けて……。
「ねえ、優くん。好きだよ?」
「っ……はい、あの……」
「優斗。俺を見ろよ」
「っ……」
視線を伏せる事も出来ず、見つめられたまま、ただ、そのまま……。
「っ……、適切な距離感でお願いしますっ……!!」
反らせない視線の代わりにそう訴えた。
何も言わずに見つめられ続けるのもつらい。もう、つらい。
良いと言うまで触るの禁止、を守ってくれたのは嬉しいが、適切な距離感でともお願いしていた。
触れてはいないが、近い。どう考えても近い。
最初に離れたのは直柾だ。ホッとしたのも束の間。
「優くんのこと、抱き締めたいよ」
眉を下げ、叱られた犬のような瞳で見つめてくる。垂れた尻尾と耳の幻覚まで見え始めた。
……駄目だ。絆されてはいけない。
恋人として付き合えるかを真剣に考えなくてはならないのに、今の直柾に抱き締められればそれが出来なくなる。
絆されたら駄目だ。
絆されたら……。
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