ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき

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恋人“候補”なので

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「……今はこれで我慢してください」

 駄目だと思いつつ、直柾なおまさの手を取ってしまった。

「優くん……。ありがとう」

 直柾はふわりと笑い、もう片手で包み込むように優斗ゆうとの手を握る。

 我が儘を言って我慢させているのに、お礼を言われると心苦しい。優しく包み込む直柾の手の中でもぞもぞと指を動かし、するりと指を絡めて繋ぎ直した。

 優くん、と呟く驚いた顔が可愛いなと思ってしまう。
 ……もう、この際認めよう。いつも完璧な直柾が可愛くなるところに、弱い。


「優斗。手」
「あ、はい」

 隆晴りゅうせいだけ接触禁止令を続けるのも、と、差し出された手をギュッと握る。

「……俺に対してあっさりし過ぎじゃね?」
「え? そうです?」
「そのくせ、近付くと怒るんだよな」
「それは、まあ、先輩の顔がいいせいですね」
「褒められてんのに貶されてる気分」
「ちゃんと褒めてますよ?」

 小さく笑うと、隆晴は肩を竦めて笑った。
 隆晴に対してドキドキする時と、普通に接する事が出来る時の差が激しい自覚はある。
 元々が先輩後輩で、その空気感が常にあるからかもしれない。隆晴が意図的に迫って来なければ普通でいられる。

「接触禁止令は解けたんだよな?」
「そう、ですね。適切な距離感は保っていただきたいですけど」

 優斗の言葉に、隆晴は頬に伸ばしかけた手をピタリと止めた。次に会ったら恋人として甘やかすと決めていたが、やり過ぎて拒絶されては元も子もない。
 仕方なくその手は優斗の頭に。ナデナデと優しく撫でる事にした。


「優くん」
「わっ……」
「あっ、こら!」

 そんな隆晴を横目に、直柾が優斗にギュッと抱きついた。

「優くん不足で死ぬかと思ったよ。優くん、大好きだよ」

 スリ、と頬を擦り寄せられ、擽ったさに首を竦める。包み込むように抱き締められ、暖かな体温に無意識にホッとしている自分がいた。

「直柾さんにこうされるの、やっぱり落ち着きます」

 いつもこの部屋ではぬいぐるみのように抱き締められていたから、目の前にいるのに触れられない事が少し寂しかったのかもしれない。

「すみません。触るの禁止って、俺から言っておきながら……」

 自分勝手にも程がある。罪悪感に襲われ、しゅん、と肩を落とす優斗に、直柾は柔らかく微笑みそっと頬を撫でた。

「あの時は、驚かせちゃったから。俺の方こそごめんね?」

 眉を下げる直柾に、優斗はふるふると首を横に振った。
 彼はいつでも優しくて、いつもその優しさに甘えてしまう。甘えてばかりでは駄目だと思いつつも、居心地が良くて……。

 ……ただ、少し、近いなと思う時はある。
 吐息が髪に触れ、耳元へと……。

「優くん」
「っ……」
「あー、いい雰囲気のとこすみませんが、そろそろ優斗を離してくれませんかね」
「……空気読んでくれないかな」
「読んでますけど?」

 しれっとして言う隆晴と、眉を顰める直柾。バチッと火花が散った。

「あっ、あの、……お茶淹れてきますね?」

 睨み合う二人へと笑顔を向け、身を屈めて二人の間から抜け出した。出来れば喧嘩はやめて欲しい。
 当然のように優斗についてキッチンまでついて来る二人を、座っててください、とソファへと追いやった。少し心臓を休める時間が欲しい。

 こうして夏でも構わず抱き締めるものだから、無香料の制汗剤やらシートやらを吟味して大量買いと常用をするようになってしまった。
 元々体臭はない方で、直柾に“優くんの甘い匂いが消えてる……”としょんぼりされるくらいなので対策は出来ていると思いたい。
 いらないと言われても、さすがに気になるものは気になるのだ。

 直柾はいつも上品な花の香りがするし、隆晴は柑橘系か、太陽の匂いがする。
 そんな二人と接するなら、自分もせめて……と思わずにはいられない一般人の心を分かって欲しかった。

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