ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき

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控え室で

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「そうだ。直柾なおまささんの演技、本当に別の人みたいでびっくりしました」
「ありがとう、優くん。あの女優さんの腰を抱いたところ、嫉妬してくれたかな?」
「え? いえ、特には。お仕事ですし」
「うん、そっか」

 あっさりと流される直柾を、隆晴りゅうせいはつい憐れな目で見る。その気持ち、分かる。

「でも、前に俺が俺なんかって言った時に直柾さんが掛けてくれた言葉を思い出しました」
「ああ、あの時の。覚えててくれたんだね」

 直柾が笑うと、優斗ゆうとも笑う。

「それで、……ごめんなさい。さっきの直柾さんもかっこよかったですけど、俺、やっぱりいつもの直柾さんが好きだなって改めて思いました」

 ごめんなさい、と眉を下げる。

「っ……そっか。いつもの俺を、好きでいてくれるんだね」
「はい」

 にこっと笑う優斗に、直柾は口元を押さえた。いけない。にやけてしまう。

「優くん、俺のこと好きなんだね」
「はい。…………あっ」
「ありがとう」
「あの、……はい」

 恥ずかしそうに視線を伏せる優斗。上機嫌で優斗の腰を抱く直柾。何なら先ほどから優斗に触れている。
 引き離そうと隆晴が手を伸ばした時、ノックの後でガチャリとドアが開いた。

「直君、ごめんね。この後インタビューが入ってるけどいける?」
「はい、行けます」

 直柾は一瞬で俳優の顔になり、優斗の頭を撫でて部屋を出て行った。


 優斗も帰ろうとドアへと向かうが、隆晴がその腕を掴み引き止める。

「先輩?」
「お前さ、いつもは結構はっきり断るのに、もしかして本当にやってみたかった? アイドル」
「ええっ? まさか。社長さんに悪意がないだけに断れなかっただけですよ」

 優斗は苦笑した。
 悪い意味で利用するつもりだったなら、キッパリと断っている。だがあの社長は本気で優斗を気に入ってくれたようで、だから、断りづらかったのだ。

「まあ、あの人、本気で優斗のこと気に入ってたよな」
「光栄なことですよね。先輩こそ、今日だけで六人からスカウトって、やっぱりすごいです」
「まあ、スカウトされるより、お前に好きって言われた方が嬉しいんだけど?」
「っ、……そ、……です……か」
「言って?」
「え、っと……。そのうち……?」
「兄貴には言ったくせに」
「あれはっ、……言える雰囲気だったので、うっ? ふぇんふぁい?」

 ムニッと片手で優斗の口元を摘まむ。鳥のような口でむにゃむにゃ言う優斗を楽しげに見つめた。

「じゃ、今度そんな雰囲気作るわ」
「ふぇっ」

 このままキスしてしまいたい気持ちを抑え、唇の代わりに親指を優斗の唇に当てる。そしてそのまま、その自分の指へとキスをした。

「っ……!?!?」
「してねぇからな?」
「っ、……!」

 何か言おうと口を開き、言葉が出ずに口をパクパクさせる。こんなの、したも同然じゃないですか! と言いたいのだろう。

「優斗、帰るぞ」
「~~っ、ばかっ!!」

 ようやく声になった優斗に、隆晴はニヤリと笑う。
 顔を真っ赤にして慌てる優斗があまりに可愛くて、このまま二人でいたら止められなくなりそうだった。

 優斗の手を引き部屋から出ると、優斗は俯いたまま後に続いた。ひと気がないとはいえ、こんな顔、誰にも見せられない。
 ばか。もう、しばらく口を利かない。


 だが、専用出口から出るまでにまた数回スカウトを受けうんざりする隆晴に、お疲れ様です、と優斗はクスクスと笑ってしまった。

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