ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき

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一泊二日2

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 駅から旅館までは送迎バスも出ている。だが、せっかくならと事前に話し合って、途中の観光スポットを巡りながら徒歩で行く事にしていた。

 海を見て、神社に詣って、仲見世で食べ歩きをして。車窓からの景色も良かったが、降りてからも優斗ゆうとは何度も感嘆の溜め息を零した。
 その姿を隆晴りゅうせいが隣で愛しげに見つめている事にも気付かないほどに、優斗はこの旅行を満喫していた。


 山道を歩いて旅館に辿り着いたのは、ちょうどチェックイン開始時刻を少し過ぎた頃。
 澄んだ空気と木々に囲まれたそこは、いかにも老舗の高級旅館という佇まいだった。

 トレッキングで訪れる人が多いらしいと隆晴から聞いていた通り、ロビーにいる半数以上がラフな服装だ。
 優斗も普段とあまり変わらず、白のカットソーとマウンテンパーカーを着て来たのだが、浮かなくてホッとしていた。

 ――……はい。やっぱり、ここでも目立ちますよね……。

 二人分の荷物と共にソファに座る優斗は、チェックイン手続きをする隆晴を見つめる。
 周囲から、注がれる視線。ここでも隆晴は視線を集めていた。
 やはり気のせいではない。隆晴はますます格好良さに磨きが掛かったようだ。

 そんな隆晴の隣に並ぶならと、優斗も大人っぽいコーディネートを試してみたのだが、どうしても“頑張っている感”が出てしまい、結局この服に落ち着いた。
 一応、シルエットが綺麗でラフになりすぎないデザインだ。普段のパーカーよりは幾分大人っぽいと思いたい。

 どう頑張っても隆晴に“釣り合う”ようにはなれないのだから、背伸びをしてちぐはぐになるよりは自分らしくしていた方が良いと思った。

 ――いや、俺はまだ成長途中だから……。

 まだまだ身長も伸びる予定だし、格好良さも頑張れる筈。後数年すればもしかしたら隆晴のように格好良く……そしたら、隆晴もますます格好良くなるのだろうか。それだといつまでも追いつけない。
 ジッと見据えてしまい、戻ってきた隆晴が首を傾げる。

「どうした?」
「……いえ。これ以上かっこよくなられても困るなと」
「ありがとな?」
「そうじゃなくて、困ってるんです」
「ん? そっか。……?」

 笑い飛ばすには真剣な顔をしている優斗に、ますます首を傾げる。
 受付の女性に嫉妬したのかと思うがそうでもないようで。

 優斗が立ち上がると、部屋への案内の女性がやって来た。お荷物を、と持とうとする女性に隆晴は大丈夫ですと笑顔を返し、スマートに二人分の荷物を持つ。まるでどちらも自分の荷物のように。

 ……やはり、これ以上格好良くなられても、困ってしまうのだ。



「ひっ、ろい……」

 部屋に付き、女性を見送って、優斗は部屋を見渡し唖然として呟く。

「あのマンションも広いだろ?」
「そうですけど、和室だとまた印象が違うというか、部屋の向こうにも部屋があるんですが……」

 障子の向こうにも、大きな窓の前に椅子とテーブルの置かれたスペースがある。
 旅館は山の中だが、その窓からは海も見えた。

「わあ……、景色いいですね。すごく綺麗です」
「デートにぴったりだよな」
「ですね。ちょっと俺にはまだ早かったみたいです」

 腰を抱いた隆晴の手をするりとほどいて、荷物を整理しに行く。相変わらずの塩対応に、隆晴は苦笑した。

「この部屋、露天風呂付いてるけど入るか?」
「露天、風呂……」
「そのドアの向こうに、って、どうした?」
「露天風呂、初めてです」
「マジか」
「部屋に? って……、どういう……?」
「俺らだけの貸切ってことだな」

 そう言うと、優斗は信じられないものを見る目をした。
 今や大富豪の息子になったというのに、未だ何も変わらない優斗だから目一杯甘やかしてやりたくなる。

「晩飯までまだ時間あるし、入ろうぜ」

 頭を撫でると、優斗はワクワクした顔で頷いた。

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