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2. ルームシェア
しおりを挟む「落ち着いた?」
「はい……」
顔色が真っ青だと言われて、派手な男性は俺を部屋に招いて、温かい紅茶を出してくれた。怖いとか思ってごめんなさい。すごくいい人だった。
「ご迷惑をおかけしました……それに、出かけるところだったんですよね」
「別にいいよ。コンビニに行こうとしただけだったし」
さらりと言って、空になったカップにおかわりを注いでくれる。オシャレなガラスのポットで、なんだか丁寧な暮らしをしてる人なんだなと思った。
「あの、俺、由井 明良と言います。隣に……引っ越して来ました」
名乗ろうと思ったらずっと考えていた文面を言ってしまう。引っ越して来ちゃったけど、これからどうしよう……。
「俺は、鴫野 聖凪」
カモノじゃなくて、シギノさん。シギノさん……頑張って覚えよう。それにしても、セナさんってかっこいい名前だなぁ。
「怖いもの苦手なのに、部屋のこと確認しなかったんだ」
「はい……そうだったらサイトに書いてあるか、お店の人が教えてくれるものと……」
「あっちは持ってる部屋を早く捌きたかったんだろうな。それによっぽどの物好きじゃなきゃ、サイトに書いてたら契約する奴いないし」
「ごもっともです……」
騙されたわけじゃないから、余計にこの気持ちの持って行きどころがない。
「そういう丁寧な話し方、珍しいな」
「そうですか? 祖父母と暮らしていたからかもしれません」
「そっか、それで」
何故か鴫野さんは俺をジッと見つめる。
「ひとまず、今日明日くらいで使うやつをこっちに持って来なよ。ついて行くから」
「ありがとうございますっ……大変ご迷惑をおかけしますっ……」
見ず知らずの俺を助けてくれるなんて、なんて親切な人なんだ……都会の人は怖いと思ってたけど、すごい偏見だった。申し訳ない。
鴫野さんに見守られながら、生活に必要なものをリュックに詰めた。
入学式は来週だから、スーツは置いたままにしておこう。教科書もまだないし、意外と身軽だった。
布団を持って行こうとしたら、来客用を貸してくれると言う。どこまで親切なんだろう。せめて枕だけはと抱えて部屋を出ようとしたら、ラッコみたいだと笑われた。
その後は、鴫野さんのお出かけを邪魔したお詫びに、荷物持ちとしてコンビニにお供した。
「あのっ、荷物をっ」
「持つほどじゃないって」
「でも……」
「じゃあ、お願い」
弁当とペットボトルが入ったコンビニの袋を渡されて、両手でしっかりと持った。するとまたラッコみたいだと笑われる。鴫野さんってけっこう笑う人なんだな。
帰り際に話したところ、鴫野さんは、俺と同じ大学に通っているという。今は三年生で、経済学部らしい。理系科目が苦手な俺からすると尊敬しかない。
ちなみに俺は文学部の英文学科で、在学中に留学するのが目標だ。そのために高校でもバイトをしていたし、こっちでは時給のいい居酒屋のバイトに応募しようと思ってる。思ってるんだけど……部屋、どうしよう……。
コンビニ弁当を食べ終えた鴫野さんは、すぐ戻る、と言って出かけてしまった。
「初対面の人間を独りにしていいのかな……」
バッグも置いたままだし、パソコンも机の上にある。俺がそれを持って逃げるとは思わないのかな? 平和な田舎育ちの俺でさえ心配になる。
「ひとまず、新しい部屋を探さないと……」
今度こそ内見の前に、事故物件じゃないかを確かめよう。色々な会社のサイトを見ていると、鴫野さんが帰って来た。
「大家さんに相談したら、隣にあるマンションが一部屋空いてるって。そこも大家さんの持ち物らしいよ」
「えっ、わざわざ相談に行ってくれたんですかっ?」
本当にどこまで親切な人なのだろう。間取りの紙まで持って来てくれて、二枚目には契約に関する詳細まで書かれていた。
「あ……でも、ここ、ちょっと広すぎるかなと……」
リビングの他に二部屋ある。それにアパートじゃなくてマンションだし、マンションにしては安いんだろうけど、家賃が二倍近くするのはさすがに無理だ。
「二人で住むんだし、広すぎることはなくない?」
「え?」
「ん?」
「あの、二人って?」
「俺と住むって言ってただろ?」
「……あの、いつですか?」
「さっき。解約してうちに来るって」
解約して……えっ、それってそういう意味?
親切な人には違いないんだけど、これって何か裏があると思った方がいいのかな?
「お前、極度の怖がりだろ? それなら独りより、二人の方が良くない?」
「それは……確かに……」
「家賃と光熱費も二人の方が安くなるし」
「ごもっともです……」
それにそのマンションの方がオートロックもあるし、防犯面もいい。このアパートはじいちゃんとばあちゃん、心配してたもんな……。
「それに俺、幽霊とか寄り付かない体質って言われたことある」
「ぜひともルームシェアよろしくお願いいたしますっ!!」
素晴らしいワードに突き動かされて、勢いのままにルームシェアを了承してしまった。
その後はあまりに早かった。
大家さんが憐れんでくれたそうで、その日の夕方には部屋の解約と契約手続きが完了した。といってもその全てを鴫野さんがしてくれた。
翌日の昼には、鴫野さんのお友達がたくさん来てくれて、引っ越し作業を手伝ってくれた。俺の部屋にあった物も全て移してくれて……感謝してもしきれない。
「家具は、今度一緒に見に行こうか」
「何から何まで、本当にありがとうございます」
布団よりベッドの方が上げ下げしなくていいから楽だと聞いた。大学になるとサークルやゼミの飲み会もあり、帰って来てそのまま寝落ちすることもよくあるらしい。
デリバリーしたピザを食べながら、大学生らしい話題を色々聞かせて貰い、俺は新しい生活に胸を躍らせる。
鴫野さんのおかげで新しい部屋も決まった。実は都会での暮らしが不安だったけど、先輩とルームシェアが出来るなんて……それも悪いものを寄せ付けない体質の人だなんて、俺ってとんでもない幸運じゃないか?
「お隣さんが鴫野さんで、本当に良かったです」
「本当にね。あまり他人を信用し過ぎるのはどうかと思うけど」
鴫野さんは缶ビールを飲みながら、クスリと笑った。じいちゃんが時々飲んでいたのと同じ銘柄なのに、鴫野さんが持つとCMに出てる人みたいに見えた。
俺も来年、二十歳になったら、鴫野さんと一緒に飲みたい。そう言ったら、真面目だねとまた笑われる。やっぱり鴫野さんはよく笑う人だった。
「まあ俺も引っ越しを考えてたし、ちょうどいいと思ったんだよ。放っておいて同じ大学の後輩が路頭に迷うのは寝覚めが悪いし」
冗談めかして言うけど、鴫野さんは本当に優しい人なんだと思う。俺が田舎から出て来たばかりだって言ったから、心配してくれてるんだろうな。
そういえば俺を知ってるっぽかったけど、こんなに派手な人なら俺も忘れるはずないし……でも本当に忘れてたら申し訳ないから、頑張って思い出そう。
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