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15. テーマパーク2
しおりを挟む「俺、もうここに住みます」
夕方になって、軽食を食べながら感嘆の溜め息をつく。
アトラクションはどれも楽しくて、二つのショーには感動しすぎて、もう帰りたくない。ここに住みたい。
「だってよ。聖凪、筆頭株主になったら?」
「無理だろ」
「聖凪なら、パソコンでいじれば出来ないことはない」
「普通に犯罪勧めるな」
うん、ソラさんが言うと全然冗談に聞こえないなぁ。
「ってか、キャストになれば実質住めるくない?」
「一番まともなこと言うのがライトって、やばいだろ」
聖凪さんが真面目な顔で言う。普段のライトさんがどんな人か、今の会話だけで分かる気がするな。
「ねえ、あのテーブル……」
俺の斜め前から、女の子の声が聞こえた。
「一人だけ浮いてない?」
浮いてますよね!?
逆に浮いてなかったらびっくりだ。
女の子たちの方は見られないけど、俺のことだよな。聖凪さんたちのかっこよさとオーラの中にいるんだから、絶対に俺のことだ。
「誰かの弟かなぁ。可愛いね」
「ピンクの猫耳似合ってる~。うちの弟じゃ絶対あんなに可愛くならないよ」
「うちの兄も。ああいう可愛い男の子は、遺伝子レベルで違うんだろうなぁ」
……褒められてる?
陰口だと思って構えてたのに、可愛いを連呼された。かっこいいの方がいいけどそれはこの中じゃ無理だし、むしろ最上級の褒め言葉じゃないか?
女の子たちが店を出て行くと、聖凪さんたちは突然笑い出した。
「明良君の悪口だったら言い返そうと思ってたけど、違ったね」
「明良は遺伝子レベルで可愛いんだよ」
聖凪さんがきっぱりと言い切る。最近の聖凪さんの中で、俺ってどういう扱いになってるんだろう……ペット?
「でもほんと、俺たちと違って可愛いよな」
ライトさんにまで可愛いって言われた。
「かっこいいって、どうすれば言われるんでしょうか……」
「大会に出てた時の明良君は、すごくかっこよかったよ」
「え?」
「あれ……? 聖凪、もう言ったんでしょ?」
「言ったことをロアに言ったことは明良に言ってない」
「どういう謎かけなの」
ロアさんは苦笑して、俺の方を向き直る。
「聖凪、試合の間ずっと明良君のことかっこいいって言ってたよ。その後もずっと。最近ではアルバイト頑張ってる時にかっこいいって言ってたな」
「そうなんですかっ?」
「本人にバラすな」
「じれったいから背中を押したくなるんだよね」
クスッと綺麗に笑って、ロアさんは聖凪さんを見つめる。
なんだろう、この感じ……ただお互いを見てるだけなのに、モヤッとする。無意識に胸を押さえると、聖凪さんが俺の背中をそっと撫でた。
「気分悪い? 疲れた?」
心配そうな瞳が、俺を映す。聖凪さんが俺を見てくれたら、モヤモヤが一瞬で消えた。
……もしかして俺、ロアさんに嫉妬してたってこと?
「すみません、俺、聖凪さんとロアさんが仲良くて嫉妬したみたいです」
「嫉妬……?」
「お兄ちゃんを取られたくない、みたいな……子供っぽくてすみません」
「明良君、可愛い。許す」
ロアさんがキラキラした笑顔で、グッと親指を立てた。でも聖凪さんは表情が読めない。大事な友達に嫉妬したなんて、幻滅されたかな……。
「……嫉妬しなくても、俺には明良だけだよ」
背中をポンと叩かれるけど、声に元気がない。
幻滅じゃなくて、嫌われたかも……。途端に怖くなる。
「聖凪は、明良君が好きだよね?」
「は? 好きに決まってるけど?」
「柄が悪いなぁ」
「好きに決まってるからキレるだろ」
「大抵の人はキレないんだよ」
ロアさんはそう言って、俺に向かってにっこりと笑った。
俺が怖がってるのを分かってくれて、今の会話をしてくれたんだ。こんなに優しいロアさんに嫉妬するなんて、俺が馬鹿だった。
「明良君、そろそろナイトショーが始まるから、行こうか」
「はいっ」
「聖凪は、分かってるね?」
「自信がない」
「なくてもどうにかしろ」
最後はソラさんが辛辣に言い放った。高一から同じクラスだと言ってたから、厳しい言葉もかけられるくらい信頼関係があるんだろうな。
でもなんで聖凪さんが怒られてるのかは、分からないけど。
ショーが始まって、俺の視線は釘付けになった。
宝石みたいな光が、魔法みたいだ。音楽に合わせて光とキャラクターが踊る。まるで自分も魔法の国の住人になったような気分だった。
「最高でした……」
終わってからもしばらくその場所を見つめ続けてしまう。
ロアさんが、全体が綺麗に見えるエリアに案内してくれた。昼に何かお礼をしたいと言った時に、何か和食を作って欲しいと言われた。これは和食の懐石をお出ししなければ。
名残惜しいけどその場を離れて、ばあちゃんたちと友達へのお土産を買う。
出口が近づくと寂しくなって、何度も振り返ってしまった。
「っ……聖凪さん?」
「また一緒に来よう」
「はい……」
ゲートをくぐって人もまばらになったところで、そう言ってくれた。
……俺、今、頬にキスされた?
気のせいと思うには、顔に影がかかった。聖凪さんの髪が顔に触れる感触もあった。
「っ……」
どうしてキスされたの? 俺がしょんぼりしてたから?
でもそれで男にキスする? 頬だけど、キスはキスだよな?
でも……一番困惑してるのは、それを嫌だと思うより、嬉しいと思ってる俺の心だった。
帰ってからもキーホルダーとカチューシャを眺めて、幸せな気持ちでベッドに横になった。
最後に衝撃的なことがあって、帰り道では寂しいと思う暇がなかった。今も寂しいというより、あのキスを思い出してドキドキしている。
「どうしてキス……」
言葉にするとまた顔が熱くなった。
聖凪さんのこと尊敬してると思ってたけど……これって、そういうことなの?
それを伝える勇気も、どうしてキスしたのかと訊く勇気もない。
今の生活が幸せだから、聖凪さんの望まない感情を押し付けて、この幸せを壊したくなかった。
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