極度の怖がりな俺、ド派手な先輩とルームシェアが決まる

雪 いつき

文字の大きさ
15 / 17

15. テーマパーク2

しおりを挟む

「俺、もうここに住みます」

 夕方になって、軽食を食べながら感嘆の溜め息をつく。
 アトラクションはどれも楽しくて、二つのショーには感動しすぎて、もう帰りたくない。ここに住みたい。

「だってよ。聖凪せな、筆頭株主になったら?」
「無理だろ」
「聖凪なら、パソコンでいじれば出来ないことはない」
「普通に犯罪勧めるな」

 うん、ソラさんが言うと全然冗談に聞こえないなぁ。

「ってか、キャストになれば実質住めるくない?」
「一番まともなこと言うのがライトって、やばいだろ」

 聖凪さんが真面目な顔で言う。普段のライトさんがどんな人か、今の会話だけで分かる気がするな。


「ねえ、あのテーブル……」

 俺の斜め前から、女の子の声が聞こえた。

「一人だけ浮いてない?」

 浮いてますよね!?
 逆に浮いてなかったらびっくりだ。
 女の子たちの方は見られないけど、俺のことだよな。聖凪さんたちのかっこよさとオーラの中にいるんだから、絶対に俺のことだ。

「誰かの弟かなぁ。可愛いね」
「ピンクの猫耳似合ってる~。うちの弟じゃ絶対あんなに可愛くならないよ」
「うちの兄も。ああいう可愛い男の子は、遺伝子レベルで違うんだろうなぁ」

 ……褒められてる?

 陰口だと思って構えてたのに、可愛いを連呼された。かっこいいの方がいいけどそれはこの中じゃ無理だし、むしろ最上級の褒め言葉じゃないか?
 女の子たちが店を出て行くと、聖凪さんたちは突然笑い出した。


明良あきら君の悪口だったら言い返そうと思ってたけど、違ったね」
「明良は遺伝子レベルで可愛いんだよ」

 聖凪さんがきっぱりと言い切る。最近の聖凪さんの中で、俺ってどういう扱いになってるんだろう……ペット?

「でもほんと、俺たちと違って可愛いよな」

 ライトさんにまで可愛いって言われた。

「かっこいいって、どうすれば言われるんでしょうか……」
「大会に出てた時の明良君は、すごくかっこよかったよ」
「え?」
「あれ……? 聖凪、もう言ったんでしょ?」
「言ったことをロアに言ったことは明良に言ってない」
「どういう謎かけなの」

 ロアさんは苦笑して、俺の方を向き直る。

「聖凪、試合の間ずっと明良君のことかっこいいって言ってたよ。その後もずっと。最近ではアルバイト頑張ってる時にかっこいいって言ってたな」
「そうなんですかっ?」
「本人にバラすな」
「じれったいから背中を押したくなるんだよね」

 クスッと綺麗に笑って、ロアさんは聖凪さんを見つめる。
 なんだろう、この感じ……ただお互いを見てるだけなのに、モヤッとする。無意識に胸を押さえると、聖凪さんが俺の背中をそっと撫でた。


「気分悪い? 疲れた?」

 心配そうな瞳が、俺を映す。聖凪さんが俺を見てくれたら、モヤモヤが一瞬で消えた。
 ……もしかして俺、ロアさんに嫉妬してたってこと?

「すみません、俺、聖凪さんとロアさんが仲良くて嫉妬したみたいです」
「嫉妬……?」
「お兄ちゃんを取られたくない、みたいな……子供っぽくてすみません」
「明良君、可愛い。許す」

 ロアさんがキラキラした笑顔で、グッと親指を立てた。でも聖凪さんは表情が読めない。大事な友達に嫉妬したなんて、幻滅されたかな……。

「……嫉妬しなくても、俺には明良だけだよ」

 背中をポンと叩かれるけど、声に元気がない。
 幻滅じゃなくて、嫌われたかも……。途端に怖くなる。


「聖凪は、明良君が好きだよね?」
「は? 好きに決まってるけど?」
「柄が悪いなぁ」
「好きに決まってるからキレるだろ」
「大抵の人はキレないんだよ」

 ロアさんはそう言って、俺に向かってにっこりと笑った。
 俺が怖がってるのを分かってくれて、今の会話をしてくれたんだ。こんなに優しいロアさんに嫉妬するなんて、俺が馬鹿だった。

「明良君、そろそろナイトショーが始まるから、行こうか」
「はいっ」
「聖凪は、分かってるね?」
「自信がない」
「なくてもどうにかしろ」

 最後はソラさんが辛辣に言い放った。高一から同じクラスだと言ってたから、厳しい言葉もかけられるくらい信頼関係があるんだろうな。
 でもなんで聖凪さんが怒られてるのかは、分からないけど。


 ショーが始まって、俺の視線は釘付けになった。
 宝石みたいな光が、魔法みたいだ。音楽に合わせて光とキャラクターが踊る。まるで自分も魔法の国の住人になったような気分だった。

「最高でした……」

 終わってからもしばらくその場所を見つめ続けてしまう。
 ロアさんが、全体が綺麗に見えるエリアに案内してくれた。昼に何かお礼をしたいと言った時に、何か和食を作って欲しいと言われた。これは和食の懐石をお出ししなければ。


 名残惜しいけどその場を離れて、ばあちゃんたちと友達へのお土産を買う。
 出口が近づくと寂しくなって、何度も振り返ってしまった。

「っ……聖凪さん?」
「また一緒に来よう」
「はい……」

 ゲートをくぐって人もまばらになったところで、そう言ってくれた。


 ……俺、今、頬にキスされた?


 気のせいと思うには、顔に影がかかった。聖凪さんの髪が顔に触れる感触もあった。

「っ……」

 どうしてキスされたの? 俺がしょんぼりしてたから?
 でもそれで男にキスする? 頬だけど、キスはキスだよな?
 でも……一番困惑してるのは、それを嫌だと思うより、嬉しいと思ってる俺の心だった。


 帰ってからもキーホルダーとカチューシャを眺めて、幸せな気持ちでベッドに横になった。
 最後に衝撃的なことがあって、帰り道では寂しいと思う暇がなかった。今も寂しいというより、あのキスを思い出してドキドキしている。

「どうしてキス……」

 言葉にするとまた顔が熱くなった。
 聖凪さんのこと尊敬してると思ってたけど……これって、そういうことなの?

 それを伝える勇気も、どうしてキスしたのかと訊く勇気もない。
 今の生活が幸せだから、聖凪さんの望まない感情を押し付けて、この幸せを壊したくなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

魔王の下僕は今日も悩みが尽きない

SEKISUI
BL
魔王の世話係のはずが何故か逆に世話されてる下級悪魔 どうして?何故?と心で呟く毎日を過ごしている

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話

さるやま
BL
◆瑞希(受け)語り
□アキ(攻め)語り

攻め→→→→←←受け

眞鍋秋人(攻め)
優秀なα。真鍋家の次期当主。本質は狡くて狡猾だが、それを上手く隠して好青年を演じている。瑞希にはアキさんと呼ばれている。

高宮瑞希(受け)
Ωと偽っている平凡なβ。幼少期の経験からか自己肯定感が低く、自分に自信がない。自己犠牲的。

有栖蕾
花の精のように美しいと名高い美少年のΩ。アキさんの元婚約者(と言っても、正式な婚約関係になく、幼少期の口約束程度)であり、アキさんのことをまだ好いている。瑞希のことを秋人の婚約者として紹介され、許せない相手になった。

姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)

turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。 徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。 彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。 一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。 ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。 その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。 そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。 時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは? ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ? 読んでくださった方ありがとうございます😊 ♥もすごく嬉しいです。 不定期ですが番外編更新していきます!

ランドセルの王子様(仮)

万里
BL
大学生の森下優太(20)は、ある日の夕暮れ、ひったくり犯に襲われ絶体絶命のピンチに陥る。そんな彼を救ったのは、鮮やかなシュートで犯人を撃退した小学生の少年、日向蒼だった。 ランドセルを背負いながらも、大人顔負けの冷徹さと圧倒的なカリスマ性を持つ蒼。その姿に、優太はあろうことか「一目惚れ」をしてしまう。「相手は小学生、これはただの尊敬だ」と自分に言い聞かせる優太だったが、蒼のクールな瞳と救われた手の温もりが頭から離れない。 親友には「自首しろ」と呆れられながらも、理性と本能(ときめき)の狭間で葛藤する。禁断(?)のドキドキが止まらない、20歳男子による「かっこよすぎるヒーロー(小学生)」への片思い(自認はリスペクト)。

処理中です...