泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。

雪 いつき

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11. 好き

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理央りおっ?」

 突然手を引っ張られて、慌てて理央について行く。

 西陽の射し込む渡り廊下を通り、ひと気のない場所へ向かう。理央は周囲を見回して、空き教室に入った。


「いつから……?」

 両手を握られて、まっすぐに見つめられる。思わず顔を背けたら、片手が俺の頬に触れて、理央の方を向けられた。

「いつから、俺にドキドキしてくれてたの?」

 笑顔のない真剣な表情。紅い陽に照らされた理央の顔に、今まさにドキドキさせられているけど……それは、いつからだろう……?

 お祭りで告白された時……その前の、二人で撮った写真を嬉しそうに見ている理央を見た時か?
 お祭りに誘われた日、初めて『凰太朗おうたろう』と呼ばれた時かもしれない。

 いや、理央の散々なテスト結果を見た日に、逞しく成長した体躯にドキッとした気もする。
 いや……体育館裏で手を繋がれて、今みたいな真剣な表情を向けられた時が最初かもしれない。あれは、理央と再会して、僅か二日後だった。


「……再会してから、わりと早い段階で」

 言葉にするのも恥ずかしいほどに、初っ端だった。

「じゃあ、俺が告白した時、どうして頷いてくれなかったの?」
「それは………………ドキドキする理由が、恋心だとは思わなかったんだよ」

 成長した理央に慣れないせいかと思っていた。だって、その瞬間以外の理央は可愛かったんだから。

 理央は俺の頬から手を離して、その手で口元を覆った。

おうちゃん、鈍くて可愛い」
「いや、それ悪口だろ」
「違うよ。昔は上手く言葉に出来ない俺のことをなんでも分かってくれてたから、余計に愛しくて……そんな凰ちゃんも大好き」

 感極まった様子の理央に、きつく抱き締められる。衝撃で眼鏡がずれて、理央の肩越しの景色が歪んだ。


「俺、凰ちゃんと両想いなんだよね」
「……そうだよ」

 嬉しそうな理央の声。……でも、ここできちんと言っておきたいことがあった。

「これから先、理央に好きな人が出来たら、俺のことは気にせずに教えてくれていいからな」
「……なにそれ。絶対にないから」
「仮定の話だよ」
「絶対ありえないし。凰ちゃんって、昔からどんな時でも冷静だよね」
「冷静じゃないよ……。こめん。今のは、言い方が悪かった」

 不服そうな声音に寂しさが混ざり、慌てて理央の背に腕を回した。昔のようにトントンと撫でながら、言葉を探す。


「俺は……理央にずっと好きでいて貰える自信がないんだ。俺は男だし、可愛い顔立ちでもないし、服のセンスもない。運動もゲームも苦手で、本当に勉強しか取り柄がないんだ」

 たとえば、眼鏡をコンタクトにしたところで顔立ちは変わらず、服のセンスが良くなるわけでもない。勉強が得意でも、勉強嫌いな理央にとってはマイナスかもしれない。

 言葉にすると、胸がじわじわと痛くなる。

 俺には本当に、理央を繋ぎ留められる要素がないんだな……。


「凰ちゃん、泣かないで……」

 理央の指に触れられて、自分が泣いていることに気付く。無意識に涙が出るほど、俺は理央のことを好きだったんだ。

 その時が来たら、理央を手放せるだろうか……理央の、未来のために。

「凰ちゃんの涙、初めて見た……綺麗」

 眼鏡を外されて、理央の顔が見えなくなる。あったところで、涙で滲んで見えないから変わらないか。

「凰ちゃんは、世界一可愛いよ」

 柔らかい声がそう告げる。


「俺も男だけど、凰ちゃんの家に婿入りすることが決まってるよね。服は俺が選んであげるから問題ないし、運動とゲームが苦手なのは、俺がかっこいいところを見せられるチャンスだから。勉強が出来るのは、それこそ一生尊敬しかない」

 俺の不安を次々に論破して、他には? と優しい声音が問う。

「俺の未来に、凰ちゃんがいないなんて考えられないよ。俺は、凰ちゃんがいないと生きていけないんだから」

 ……そうだ。理央はずっと言葉で伝えてくれていた。

 それなのに俺は、自分に自信がないとか、理央の未来のためだとか思い込んで、自分が傷付くことを避けようとしていた。それが、理央を傷付けていたのに。


「凰ちゃんにも、俺がいないと生きていけないって思って貰えるような男になるから。だから……もう二度と、俺と別れるようなこと言わないで」
「っ……ごめん、理央っ」
「ごめんじゃなくて、好きって言って」

 泣きそうだった声が、拗ねたようなものに変わる。

 今までみたいに、可愛い言葉遣い。理央はいつでも、俺を不安にさせないようにしてくれていたんだ。


「……好き」

 胸の奥から込み上げる想いが、溢れて、零れる。

「理央のことが、好きだ」

 どうして今まで抑えておけたんだろう……こんなにも、溢れてしまうのに。

「俺も、凰ちゃんだけが好きだよ」

 温かく力強い腕に抱き締められて、ますます想いも、涙も溢れて、止まらなかった。


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