9ライブズナイフ

犬宰要

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「チッ」
 クライドが舌打ちすると金縛りがなくなり、ゾッとしていた感覚が消えた。だが、落ち着いていられるわけでもなく、喉がカラカラで、無い唾液を飲み込もうとした。
 
「はっ? え、どうして? えっ?」
 マナチが何か言っていた。聞こえる声がかすかにしか聞こえなかった。
「なんで?」
 ハルミンはかすれた声で疑問を口にしていた。
「私、私たちはどうして選ばれたの?」
 ツバサも……。
「お、教えて、どうしてこんな、こんな……」
 ジュリは涙声だった。
 
 僕たちは自称女神に聞いた。落ち着けるわけがない。理不尽さの答えを知りたかった、ただの暇つぶしならもういいだろうと思った。こんな怖い目にはもうあいたくない、一刻も早く解放されたいと思った。
 
「か、帰れる? あの私たち、元の、元の世界に!?」
 
 ハルミンの声が響いた。そうだ、僕たちは元の世界に帰る、帰りたい。帰れる。ここに連れてこられた、なら帰れるだろうと思った。自称女神の暇つぶしに付き合ったんだ、そして、満足したはずだ。だから帰れるはずだと思った。
 
 だが、無情にも無慈悲に、自称女神が言った言葉は期待を裏切るものだった。
 
「うーん、私、もう飽きちゃったから、適当な異世界にポイね。餞別にそれ上げるわ」
 
 女は背伸びをし、僕たちから背を向けるとその場から消えた。
 無情にもその思いは消された。何も考えられなかった、最初から暇つぶし相手のために、選ばれ、異世界に転移させられただけだった。そのあとの事や達成したから帰れるというものはなかった。
 
 僕は目の前が真っ暗になりそうだった、視界がぐらぐらと揺れ、まともに立っていられなかった。気が付くと地面に両手をついていた。
 
「あれ、待て、待ってくれ、何か言っていた」
 
 僕は必死に口から言葉を出し、意識を失いそうになっている自分をふるい立たせた。
 
「て、てき、適当な異世界にポイ?」
 
 空気が震えるような揺れがし、両手をついてる地面から震動が伝わってきた。今までの爆発によって生じた揺れとは違った。縦に揺れ、引っ張られるような揺れだった。身体が重く感じ、揺れの中でなんとか立ち上がると足元が、立っていた場所が浮き、浮遊感に変わった。
 すると地割れがいっきに起きて、底が見えない暗い闇の穴ではなく、様々な見た事のない景色や変化する虹が渦を巻いているのが見えた。割れた地面から見える奇妙な場所は、足がすくむような恐ろしさがあった。僕の視界の端にうつっている生存確率は0%と表示されていた。
 
 僕はクライドの方を見ると彼はため息をついた。
「はぁ……期待はするなよ」
 彼が僕にそう告げた後、姿は消えていった。
 
 突如、風が吹き荒れたかのように裂け目に吸い寄せられた。僕は必死に近くの地面に捕まるが、周りの地面が崩れ吸い込まれていくのを見て、このままでは助からないと思った。
 なんとか、手を引っかかりがある窪みを掴み、奇妙な穴に落ちないように登ろうとした。周りと見るとみなそれぞれ必死に、落ちないように何かに捕まっていた。僕から一番近くにいたマナチもまた穴に落ちないようにゆっくりとだが、穴から遠ざかろうとしていた。
 
 人工筋肉と人体強化のおかげか、いけるような気がした。
 
 油断したのか、足を踏み外し、マナチは穴に落ちそうになった。僕はすかさず手を伸ばし彼女の腕を掴んだ。掴む事に成功し、引き寄せようとしたが上手くいかなかった。まるで固定されたかのようにマナチは空中に止まったかのように動かなかった。
 
「ヨ、ヨーちゃん、ごめ、ごめんなさい。ごめんなさい。たす……」
 
「諦めんなよ! もう片方の腕で僕の腕を伝って、登れ、早くっ! 登れ!」
 僕は叫んだ。だが、返ってきた言葉は涙声による否定だった。
「無理だよ、動かないの……動かないんだ……ヨーちゃんもこのままじゃ死んじゃうから、さ。へへっ、ごめんなさい。ごめんなさい」
「謝んな! 諦めんなよ!」
 
「ごめんなさい」
 
 彼女の厚ぼったい装備が消え、僕が掴んでいた腕の部分の装備が消えた事で彼女を離す形になった。手を掴もうとしたが、すり抜けていき、彼女は穴へ吸い込まれていった。
 
 彼女が謝ったのはなんで謝ったのか、僕には理解できなかった。
 
「マナチィィッ!!」
 
 僕は惚れた相手すら守れず、まともに思いも伝える事すらなく、別れる事になった。それからどうやって穴から離れたのかわからないが、穴からよじ登り、ハルミン、ツバサ、ジュリと合流した。吸い込まれない程、離れた僕たちは四人は穴の方を見ていた。
 
「マ、マナチを助け、助けられなかったんだ」
 
 僕は呆然と事実を述べた。ハルミンが僕を抱きしめてくれた。ツバサもジュリも一緒に、続いて抱きしめてくれた。数秒、数分、どのくらいの時間、僕はその状態でいたのか、穴をただ呆然と見ていた。
 
 振られたり、他に恋人が出来て、失恋するよりもただ惚れた人を失う喪失感は何も考えられなかった。
 
――バシンッ!
 
 気が付いたらハルミンに叩かれていた。
「まだ、死んでない! 死んでないよ!!!!」
 僕はハルミンが言っている言葉がわからなかった。
「だって、だって、このアーミーナイフからアイザワ マナブが! マナチが死亡したって通知がない! パーティメンバーが死亡したら、固有アビリティは私たちに譲渡されるのにされていないから! 絶対生きてる!」
「そ、そうです! パーティメンバーにマナチの文字が残ってます!」
「ヨーちゃん、まだ生きてるよ! 生きてる!」
 ハルミン、ツバサ、ジュリがマナチが生きてることを教えてくれた。
 
「あれ、あそこに飛び込めば、マナチに会える。生きている可能性があるなら、みんな――」
 
「行こう!」
「行きましょう」
「怖いけど、飛び込みましょう!」
 
 本来なら、パーティメンバーが死んだ場合、アビリティスキルが継承されるはずがこの時はされなかった。僕たちはマナチが生きていると信じる事にした。ムッツーやタッツーの通知があった時も確かめた、ならマナチの時だって確かめに行こうという事になった。奇妙な空間に落ちるのは勇気がいるが、生きている可能性があるならと仲間たちはその空間に飛び込むことにした。
 
 僕の生存確率は0%だった。
 
 それでも僕はその道を選んだ。身体が引っ張られるような感覚が穴からしてきた、僕たちは互いに手を繋いた。
「「「一緒に」」」
 と言い、皆それぞれ叫びながら飛び込んだ。
 
 不思議な浮遊感があった後に、気が付いたら今までいた世界とは全く違う風景が目の前に広がっていた。

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