9ライブズナイフ

犬宰要

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「あ、ヨーちゃん!」
「何かわかりました?」
 マナチとツバサが声をかけてきてくれた。ハルミンとジュリは何やらドローンと戯れていた。
 
「あ、ああ。どうやらヒロミの固有アビリティ・スキルで事前にわかったらしい」
「そうだったんですね、どんな固有アビリティ・スキルだったんですか?」
 ツバサが興味津々に聞いてきて、どう答えたものかと思った。というのも、あのデジカメからのことを考えると何となく僕だけ知っておいた方がいいと思った。
「秘密だってさ」
「あ、そうですか……そうですよね」
「それにしても話長かったね、他に何か話してたの?」
 マナチはするどい。表情に出さないように僕は答えた。
「いや、特にないよ」
「ふぅ~ん?」
 マナチは疑いの目を向けていたが、特に追及してくることもなかった。
 
「それじゃ、光りの方に行ってみようか」
 僕はみんなに言うと頷き、歩き出そうとした。
 
――パチパチパチパチ。
 
 さっきまで誰もいなかった場所に半分が骸骨むき出しの青年がいきなり現れた。その横にはもう一人耳が長い美しい女性が拍手をしながらいた。目は伏せがち、というか閉じられていて、ショートカットだった。異世界のシスターのような服装をしていた。
「よく生き延びたな」
 クライドが僕たちに言った。あともう一人は誰だ?
 
「いい暇つぶしになったから、お礼を言うべきかしら? ありがとう。パチパチ~」
 僕たちはまだ何も終わってない事を思い知らされるようなセリフだった。その女性が発した意味が鈍い自分でもわかった。こいつが元凶なんだと、感じた。
 
 口だけ笑っているその女性は目をつぶっているものの、こちらが見えているのかのような頭の動きをしていた。僕たちの方を見て、困惑しているのを見ると教えてくれた。
 
「私はあなたたちの世界でいうと女神にあたるのかしらね」
 彼女が意味が解らないことを言い出した。女神、女神ってなんだ?
「ほら異世界に飛ばされて、あとは好きにしなさいっていう女神よ」
 まるで心を読んでいるかのように答えた。
 
 僕は、その自称女神が言った意味を理解した。
 
 クライドは嫌なものを見るかのように女性をにらんでいた。
「お前、自覚はないのか?」
「あら、怖い怖い~」
 その自称女神は泣き真似をし、怖がっているふりをしていた。
「何が女神だ、神は神でもまるで邪神じゃないか」
 クライドのツッコミに対しても異を返さず、ふふふと笑っていた。
 
「な、何のために?」
 僕は答えが知りたかった。ちゃんとした答えが知りたかった。どうして、いきなり何の説明もなしに異世界に放り込まれて、大変な目に合わなきゃいけなかったのか?
「暇つぶしって言ったでしょ、そのアーミーナイフが役に立ったでしょ、よかったじゃない」
 と言われ怒りがこみあげて気が付いたら何か口にしていた。
 
「何人死んだと思ってるんだ!」
 
「死んだからって何? 昔から流行ってるでしょ、転生できるかもしれないじゃない。前世の記憶を持っていないまま転生かもしれないし、あるいは地獄という異世界に死ねないというチートをもって転生できるかもしれないわ」
 この女が何を言っているのか、まったく理解できなかった。転生? 何言っているんだ?
「いいじゃない、アーミーナイフがあって生き残れたじゃない。あ、そうそうそれの名前は9ライブスライフって言うの、九死に一生を得るという意味も込めているのよ。なかなかかっこいいでしょ? フフッ」
 
「チッ」
 クライドが露骨に舌打ちし、腕を組んで自称女神を睨んでいた。
「やはり、お前がそいつらに持たせていたのか」
 彼はこのアーミーナイフ、9ライブスライフを知っているのか?
 
「あら、だって異世界転移よ? チートの一つや二つを持っていないとつまらないじゃない。それに仲間と認識し、互いを信頼し合えば絶大な力を発揮するのよ。とっても燃えない?」
「こんなクソな世界に、バラバラで飛ばしておいて、よく言うな。お前は」
「あら、殺し合ってくれても面白いけれど、イレギュラー要素があった方がどうなるかわからないじゃない?」
 僕、僕はこの二人の会話が何かとてつもない事にただ気まぐれで巻き込まれただけだと思い知らされていた。こんなの現実じゃない、こんな超常現象的な事を目の前の自称女神が出来るわけがないと思いたかった。
 
「オレが忙しい事を知っている癖に余計な事を……」
「あら、いいじゃない? 代わりにここの不老種を退治してくれたんだから、最初から本気だしておけばこの子のお友達も死なずに済んだのに」
「チッ、お前言葉に気をつけろよ?」
「いやぁ~ん、こわいわ~」
 クライドの目的は、ここの不老種……つまりアーネルトとアンネイたちを退治する事だったのか?
「ほらっほらっ、本当だったらクライドの能力で街をゾンビで共倒れさせて、滅亡させるのがお仕事だったけれど、のんびりしていたからお友達が死んじゃいましたって言わなきゃ~」
「こいつらに会った後に、何かおかしいと感じ、確認しに戻って、それで今戻ってきた所だろうが! お前がこの世界に異世界転移させた事もついさっきの事だろう? お前、まさか……」
 
「ああ~ん、残念ネタバレしちゃった。でも、いい表情しているから、ご馳走様」
 
 自称女神が目を開き、僕たちを見ていた。恍惚な表情を浮かべ、にんまりと口を開き、笑みを浮かべていた。その目は白目はなく、真っ黒で中央が何か薄く光っているような、燃えているような、恐ろしい目をしていた。
 
 僕は震えていた。その眼から目が離せなかった、金縛りにあったように全身が動かなかった。
 
「恐怖、絶望、最高ね」
 
 自称女神の声が耳元で囁かれたような気がした。

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