81 / 82
81
しおりを挟む「チッ」
クライドが舌打ちすると金縛りがなくなり、ゾッとしていた感覚が消えた。だが、落ち着いていられるわけでもなく、喉がカラカラで、無い唾液を飲み込もうとした。
「はっ? え、どうして? えっ?」
マナチが何か言っていた。聞こえる声がかすかにしか聞こえなかった。
「なんで?」
ハルミンはかすれた声で疑問を口にしていた。
「私、私たちはどうして選ばれたの?」
ツバサも……。
「お、教えて、どうしてこんな、こんな……」
ジュリは涙声だった。
僕たちは自称女神に聞いた。落ち着けるわけがない。理不尽さの答えを知りたかった、ただの暇つぶしならもういいだろうと思った。こんな怖い目にはもうあいたくない、一刻も早く解放されたいと思った。
「か、帰れる? あの私たち、元の、元の世界に!?」
ハルミンの声が響いた。そうだ、僕たちは元の世界に帰る、帰りたい。帰れる。ここに連れてこられた、なら帰れるだろうと思った。自称女神の暇つぶしに付き合ったんだ、そして、満足したはずだ。だから帰れるはずだと思った。
だが、無情にも無慈悲に、自称女神が言った言葉は期待を裏切るものだった。
「うーん、私、もう飽きちゃったから、適当な異世界にポイね。餞別にそれ上げるわ」
女は背伸びをし、僕たちから背を向けるとその場から消えた。
無情にもその思いは消された。何も考えられなかった、最初から暇つぶし相手のために、選ばれ、異世界に転移させられただけだった。そのあとの事や達成したから帰れるというものはなかった。
僕は目の前が真っ暗になりそうだった、視界がぐらぐらと揺れ、まともに立っていられなかった。気が付くと地面に両手をついていた。
「あれ、待て、待ってくれ、何か言っていた」
僕は必死に口から言葉を出し、意識を失いそうになっている自分をふるい立たせた。
「て、てき、適当な異世界にポイ?」
空気が震えるような揺れがし、両手をついてる地面から震動が伝わってきた。今までの爆発によって生じた揺れとは違った。縦に揺れ、引っ張られるような揺れだった。身体が重く感じ、揺れの中でなんとか立ち上がると足元が、立っていた場所が浮き、浮遊感に変わった。
すると地割れがいっきに起きて、底が見えない暗い闇の穴ではなく、様々な見た事のない景色や変化する虹が渦を巻いているのが見えた。割れた地面から見える奇妙な場所は、足がすくむような恐ろしさがあった。僕の視界の端にうつっている生存確率は0%と表示されていた。
僕はクライドの方を見ると彼はため息をついた。
「はぁ……期待はするなよ」
彼が僕にそう告げた後、姿は消えていった。
突如、風が吹き荒れたかのように裂け目に吸い寄せられた。僕は必死に近くの地面に捕まるが、周りの地面が崩れ吸い込まれていくのを見て、このままでは助からないと思った。
なんとか、手を引っかかりがある窪みを掴み、奇妙な穴に落ちないように登ろうとした。周りと見るとみなそれぞれ必死に、落ちないように何かに捕まっていた。僕から一番近くにいたマナチもまた穴に落ちないようにゆっくりとだが、穴から遠ざかろうとしていた。
人工筋肉と人体強化のおかげか、いけるような気がした。
油断したのか、足を踏み外し、マナチは穴に落ちそうになった。僕はすかさず手を伸ばし彼女の腕を掴んだ。掴む事に成功し、引き寄せようとしたが上手くいかなかった。まるで固定されたかのようにマナチは空中に止まったかのように動かなかった。
「ヨ、ヨーちゃん、ごめ、ごめんなさい。ごめんなさい。たす……」
「諦めんなよ! もう片方の腕で僕の腕を伝って、登れ、早くっ! 登れ!」
僕は叫んだ。だが、返ってきた言葉は涙声による否定だった。
「無理だよ、動かないの……動かないんだ……ヨーちゃんもこのままじゃ死んじゃうから、さ。へへっ、ごめんなさい。ごめんなさい」
「謝んな! 諦めんなよ!」
「ごめんなさい」
彼女の厚ぼったい装備が消え、僕が掴んでいた腕の部分の装備が消えた事で彼女を離す形になった。手を掴もうとしたが、すり抜けていき、彼女は穴へ吸い込まれていった。
彼女が謝ったのはなんで謝ったのか、僕には理解できなかった。
「マナチィィッ!!」
僕は惚れた相手すら守れず、まともに思いも伝える事すらなく、別れる事になった。それからどうやって穴から離れたのかわからないが、穴からよじ登り、ハルミン、ツバサ、ジュリと合流した。吸い込まれない程、離れた僕たちは四人は穴の方を見ていた。
「マ、マナチを助け、助けられなかったんだ」
僕は呆然と事実を述べた。ハルミンが僕を抱きしめてくれた。ツバサもジュリも一緒に、続いて抱きしめてくれた。数秒、数分、どのくらいの時間、僕はその状態でいたのか、穴をただ呆然と見ていた。
振られたり、他に恋人が出来て、失恋するよりもただ惚れた人を失う喪失感は何も考えられなかった。
――バシンッ!
気が付いたらハルミンに叩かれていた。
「まだ、死んでない! 死んでないよ!!!!」
僕はハルミンが言っている言葉がわからなかった。
「だって、だって、このアーミーナイフからアイザワ マナブが! マナチが死亡したって通知がない! パーティメンバーが死亡したら、固有アビリティは私たちに譲渡されるのにされていないから! 絶対生きてる!」
「そ、そうです! パーティメンバーにマナチの文字が残ってます!」
「ヨーちゃん、まだ生きてるよ! 生きてる!」
ハルミン、ツバサ、ジュリがマナチが生きてることを教えてくれた。
「あれ、あそこに飛び込めば、マナチに会える。生きている可能性があるなら、みんな――」
「行こう!」
「行きましょう」
「怖いけど、飛び込みましょう!」
本来なら、パーティメンバーが死んだ場合、アビリティスキルが継承されるはずがこの時はされなかった。僕たちはマナチが生きていると信じる事にした。ムッツーやタッツーの通知があった時も確かめた、ならマナチの時だって確かめに行こうという事になった。奇妙な空間に落ちるのは勇気がいるが、生きている可能性があるならと仲間たちはその空間に飛び込むことにした。
僕の生存確率は0%だった。
それでも僕はその道を選んだ。身体が引っ張られるような感覚が穴からしてきた、僕たちは互いに手を繋いた。
「「「一緒に」」」
と言い、皆それぞれ叫びながら飛び込んだ。
不思議な浮遊感があった後に、気が付いたら今までいた世界とは全く違う風景が目の前に広がっていた。
0
あなたにおすすめの小説
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
主人公はあまり戦ったりはしません。
アルファポリスであなたの良作を1000人に読んでもらうための25の技
MJ
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスは書いた小説を簡単に投稿でき、世間に公開できる素晴らしいサイトです。しかしながら、アルファポリスに小説を公開すれば必ずしも沢山の人に読んでいただけるとは限りません。
私はアルファポリスで公開されている小説を読んでいて気づいたのが、面白いのに埋もれている小説が沢山あるということです。
すごく丁寧に真面目にいい文章で、面白い作品を書かれているのに評価が低くて心折れてしまっている方が沢山いらっしゃいます。
そんな方に言いたいです。
アルファポリスで評価低いからと言って心折れちゃいけません。
あなたが良い作品をちゃんと書き続けていればきっとこの世界を潤す良いものが出来上がるでしょう。
アルファポリスは本とは違う媒体ですから、みんなに読んでもらうためには普通の本とは違った戦略があります。
書いたまま放ったらかしではいけません。
自分が良いものを書いている自信のある方はぜひここに書いてあることを試してみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる