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マザコン
1.
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デスクの机の電話が鳴る。
慌てて背広の上着を着て、応接室に向かう。
応接室には、妻聡子と息子久志、それに女子大生と思しき息子の愛人さおりが怪訝な顔で座っている。
そこへノックの音と共に弁護士の先生に来ていただくことになった。
その弁護士は、息子の嫁が離婚協議のために雇った弁護士であるので、紹介してもらい、同席させてもらうことにしたのだ。
折り入って、先生に別件でご相談したいことがあったからだ。
「本日は、お忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。私は、瀬田智子さんの法定代理人で、弁護士の宗像俊三と申します。」
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
智子と久の出会いは、約2年前、久志の父が社長を務める浅利物産の面接にさかのぼる。
智子は大学を卒業して以来、大手の商社に勤務し、持ち前の英語力から社内では一目置かれる存在であった、恋人もいて、充実した毎日を送っていたのだが、ある日恋人の浮気が発覚。なんと智子の後輩の新入社員とデキていたのだ。
恋人が言うには、智子とは違い新入社員の女子は、英語がロクすっぽできなくても甘ったれ声で、他の男子社員に仕事を丸投げするところが可愛いという。
は?何なのよ、それって迷惑なだけの存在で、俗にいう給料泥棒ではないのか?会社に、婚活に来ているとしか思えない新入社員の肩ばかり持つ恋人に対し、ついに喧嘩に発展してしまう。
恋人の言動が信じられなくて、つい売り言葉に買い言葉で、会社を辞めてしまった。
そして、たまたま転職サイトで見かけた浅利物産にエントリーをして、面接にこぎつけたというわけ。
なえか浅利物産の募集要項は、年齢28歳以上の女性に限るとあり、疑問に思いながらも、お金では買えない経験値が欲しいのかと思い、エントリーしたのだ。
そして、すぐに社長の息子である専務取締役の秘書として採用されることが決まった。
専務取締役は、社長とはあまり似ていないイケメンでスラリとした感じ。英語が喋れる秘書が欲しかったと言われ、秘書として応募していないが、英語が喋れることは事実だから、最初は秘書から始めてもいいと思うようになっら。
とにかく収入が欲しかったのだ、恋人とのけんかで激昂してしまい、後先を考えずに会社に辞表を提出してしまったから。
結婚資金として、貯金があったけど、それを取り崩してしまったら、もう後がないような気がした。だから採用してくれるところがあれば、どこでも行くつもりで、浅利物産を受けた。
入社してから気づいたことは、専務取締役の年齢が27歳ということ。ああ、だから年上の秘書が欲しかったのか?弘通、秘書なんて仕事は、仕事ができようができまいが、若くて、カワイコちゃんであれば、いいという会社が多い中で、奇特な会社もあったものだと追ったが、要するにデキの悪い専務取締役をフォローしさえすれば、年上であっても、仕事ができる方を選んだということだと勝手に解釈をしたのだ。
智子は商社時代に培った英語力と人脈で、新たなマーケットを開拓していくことに成功する。
やっぱり、この仕事が好きだということを改めて実感し、ますます仕事にのめり込んでいく智子を冷めた目で専務が見ていることに気づく。
入社して、3か月が過ぎた頃、社長の奥様から、社長宅へ御呼ばれすることが急遽決まったのだ。
「え?どうして?私なんかが?」
「ウチは、中小企業で同族会社だから、そろそろ智子さんにも、そのあたりのことを覚えてもらおうと思ってね。」
「はぁ……。」
納得が行くような行かないような答に疑問を挟む余地などない。言われたとおり、その日、花束を抱え、社長宅へ伺う。
どうせ、社長宅でパーティでも開かれるのだろうから、エプロンを持参することにする。
慌てて背広の上着を着て、応接室に向かう。
応接室には、妻聡子と息子久志、それに女子大生と思しき息子の愛人さおりが怪訝な顔で座っている。
そこへノックの音と共に弁護士の先生に来ていただくことになった。
その弁護士は、息子の嫁が離婚協議のために雇った弁護士であるので、紹介してもらい、同席させてもらうことにしたのだ。
折り入って、先生に別件でご相談したいことがあったからだ。
「本日は、お忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。私は、瀬田智子さんの法定代理人で、弁護士の宗像俊三と申します。」
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智子と久の出会いは、約2年前、久志の父が社長を務める浅利物産の面接にさかのぼる。
智子は大学を卒業して以来、大手の商社に勤務し、持ち前の英語力から社内では一目置かれる存在であった、恋人もいて、充実した毎日を送っていたのだが、ある日恋人の浮気が発覚。なんと智子の後輩の新入社員とデキていたのだ。
恋人が言うには、智子とは違い新入社員の女子は、英語がロクすっぽできなくても甘ったれ声で、他の男子社員に仕事を丸投げするところが可愛いという。
は?何なのよ、それって迷惑なだけの存在で、俗にいう給料泥棒ではないのか?会社に、婚活に来ているとしか思えない新入社員の肩ばかり持つ恋人に対し、ついに喧嘩に発展してしまう。
恋人の言動が信じられなくて、つい売り言葉に買い言葉で、会社を辞めてしまった。
そして、たまたま転職サイトで見かけた浅利物産にエントリーをして、面接にこぎつけたというわけ。
なえか浅利物産の募集要項は、年齢28歳以上の女性に限るとあり、疑問に思いながらも、お金では買えない経験値が欲しいのかと思い、エントリーしたのだ。
そして、すぐに社長の息子である専務取締役の秘書として採用されることが決まった。
専務取締役は、社長とはあまり似ていないイケメンでスラリとした感じ。英語が喋れる秘書が欲しかったと言われ、秘書として応募していないが、英語が喋れることは事実だから、最初は秘書から始めてもいいと思うようになっら。
とにかく収入が欲しかったのだ、恋人とのけんかで激昂してしまい、後先を考えずに会社に辞表を提出してしまったから。
結婚資金として、貯金があったけど、それを取り崩してしまったら、もう後がないような気がした。だから採用してくれるところがあれば、どこでも行くつもりで、浅利物産を受けた。
入社してから気づいたことは、専務取締役の年齢が27歳ということ。ああ、だから年上の秘書が欲しかったのか?弘通、秘書なんて仕事は、仕事ができようができまいが、若くて、カワイコちゃんであれば、いいという会社が多い中で、奇特な会社もあったものだと追ったが、要するにデキの悪い専務取締役をフォローしさえすれば、年上であっても、仕事ができる方を選んだということだと勝手に解釈をしたのだ。
智子は商社時代に培った英語力と人脈で、新たなマーケットを開拓していくことに成功する。
やっぱり、この仕事が好きだということを改めて実感し、ますます仕事にのめり込んでいく智子を冷めた目で専務が見ていることに気づく。
入社して、3か月が過ぎた頃、社長の奥様から、社長宅へ御呼ばれすることが急遽決まったのだ。
「え?どうして?私なんかが?」
「ウチは、中小企業で同族会社だから、そろそろ智子さんにも、そのあたりのことを覚えてもらおうと思ってね。」
「はぁ……。」
納得が行くような行かないような答に疑問を挟む余地などない。言われたとおり、その日、花束を抱え、社長宅へ伺う。
どうせ、社長宅でパーティでも開かれるのだろうから、エプロンを持参することにする。
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