離婚から玉の輿婚~クズ男は熨斗を付けて差し上げます

青の雀

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マザコン

6.

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 浅利物産代表取締役社長、浅利忠司58歳。

 まさか、妻の浮気相手が息子の久志とは思ってもみなかったことだ。それで相当なショックを受けている。

 妻とは、親が勧めた相手で、運送会社を経営していた妻の父が持ち込んだ話だった。8歳下の妻と結婚した時、妻は処女ではなかった。まだ若いというのに、もう経験していることが驚きであったが、初夜は妻のおかげで、滞りなく進む。

 俺は、童貞だったから、妻のリードはありがたかったのだ。

 ほどなく妻は出産の日を迎えるが、どう見ても俺とは似ていない。俺も聡子も決して色白と言い難いのに、赤ん坊は色白に生まれてきた。それに鼻が高く、看護師さんから男前だと言われ、嬉しいやら驚くやらで、困惑したものだ。

他の奴らに聞いても生まれたばかりの赤ん坊は、サルみたいなものだから似ている似ていないではないと笑われる。

 出産後の夫婦の営みも平常通り戻り、特に変わった様子も見られなかったので、似ていないけど、子供の顔は成長するにつれ、だんだん変わっていくからと言われ、そうなのかもしれないと思い始める。

 久志が小学校へ入学する頃には、どう見てもトンビがタカを産んだようにしか見えなくて、周りからもヒソヒソと陰口を叩かれるようになっていたのだ。

 その頃の聡子はそれをごまかすかのように、

「きっと母方の祖父に似たのですわ。」

 いけシャアシャアと言っていたっけ。確かに親戚の集まりでは、そういうように口にする者も実際出て来ていたから、俺はそれを信じていた。

 久志が中学生になる頃は、どういうわけかいつもイライラして、夫婦の営みも激しく求めるようになった。更年期にしては、まだ早いので、おかしいとは思っていたが、そのうち落ち着いたのは、久志と関係を持ったからだと、今になって思えば合点がいく。

 久志が高校生になる頃には、身長がやたら伸び、俺はとっくに追い抜かされて、180センチはあろうかというモデル並みの背丈になった。足はスラリと長く、イケメンになった久志は、女子高生からキャーキャー騒がれるようになり、自宅のポストは、久志へのラブレターばかりになったことがある。

 そんな久志を俺は、自慢の息子と位置づけていたのだから、バカとしか言いようがない。

 久志が大学を出て、浅利物産に入社する頃には、聡子のことを「ママ」呼びするので、人前でそういう呼び方はダメだと注意したことがあったことを覚えている。

 久志は、浅利物産の次期社長というポストとそのルックスから派手に女遊びをするようになったが、どれも遊びの域を超えないため、社長秘書として雇った女性に心奪われることになるとは、今になって思えば、よかったのか悪かったのかという気さえしている。

 智子さんを不幸にしてしまい、申し訳なかった。

 聡子が久志と浮気していると知った日の翌日、智子さんは、俺の前に離婚届を差し出してきた。

 ああ、やっぱり離婚は避けられないことだと観念していると、1通は俺たち夫婦のものだと言う。

 驚いて、智子さんを見ると、

 「夫婦なんて、しょせんアカの他人です。お義父様もまだお若いのだから、これからの人生を考えるべきではありませんか?」

 智子さんに背中を押され、俺も決断する。その前に智子さんが弁護士を雇って、離婚協議に入ると言われたので、俺も、その弁護士さんを紹介してもらうことにして、社長である舅と社長秘書である嫁の立場で、お互いに手を組むことにしたのだ。

 なんといっても、四井物産のキャリアウーマン上りが久志の嫁とは心強い。

 おれは弁護士に依頼して、久志とのDNA鑑定をすることになった。案の定、久志は俺の子ではなかった。

 今まで27年間他人の子供を育てさせられてきたかと思うと、もはや親子の情も聡子への愛情もみじんも感じなくなってしまう。

 そして弁護士に久志の写真を渡し、誰が本当の父親なのか調査するように依頼したのだ。聡子の旧姓は沖田で、沖田運送の関係者か大学時代の交友関係を中心に調べてもらうことにする。

 弁護士は、沖田運送で当時働いていた従業員に久志の写真を見せると、

 「懐かしいな。加藤和弘さん、お元気にされていますか?」

 その従業員から聞いた話では、加藤さんは、聡子より4歳年上で、40歳になったころに結婚して、独立していったらしい。

 加藤という名を手掛かりに電話帳を片っ端から探してみると、加藤運輸という零細企業の運送会社があり、主に引っ越しを専門に請け負っているということがわかる。

 聡子より4歳年上ということから、加藤和弘が結婚して、沖田運送を退職したのが、聡子36歳の時だとすれば、あの尋常な夫婦生活を求めた頃に符合する。

 ということは、俺に嫁いでから13年間にわたり、二人の不倫関係は続いていたとみる方が適切であろう。

 加藤和弘は、他に女ができたか、結婚を機に聡子との関係を終わらせたのだろう。

 聡子は、それで、加藤和弘にそっくりな久志に加藤の面影を重ねて、関係したのかと思う。

 智子さんも、久志の新たな不倫の証拠が見つかったと弁護士に知らせているようだから、俺たちのそれぞれの離婚協議はうまくいくだろう。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 デスクの机の電話が鳴る。

 慌てて背広の上着を着て、応接室に向かう。

 応接室には、妻聡子と息子久志、それに女子大生と思しき息子の愛人さおりが怪訝な顔で座っている。

 そこへノックの音と共に弁護士の先生に来ていただくことになった。

 その弁護士は、息子の嫁が離婚協議のために雇った弁護士であるので、紹介してもらい、同席させてもらうことにしたのだ。

 折り入って、先生に別件でご相談したいことがあったからだ。まずは、智子さんの剣を済ませ、その後に忠司の離婚協議に入ってもらう予定なのだ。

 「本日は、お忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。私は、浅利智子さんの法定代理人で、弁護士の宗像俊三と申します。」

 「ご承知の通り、智子さんとすでに婚姻関係は破綻しているとのことですが、異存はございますか?」

 「俺は、智子と離婚する気はない。許されない浮気をしていたことは事実だが、断ることができなかったのだ。もう二度と浮気はしない。だから許してほしい。」

 「うーん。困りましたね。ご主人はどうあっても、智子さんと離婚したくはないということですか?」

 「その通りです。」

 さおりは横から口を挟んできて、

 「いいじゃない?せっかく奥さんが離婚したいって言ってくれるんだし、私が結婚したげるよ?」

 「勘違いするな。さおりは遊び相手だ。妻とは違う。」

 「そうですか。では先に浅利忠司さんの件から、始めましょうか?」

 えっ!それまで、他人事のような顔をしていた浅利聡子がギョッとした顔で、忠司を見る。

 「私は、浅利忠司さんからご依頼を受け、ここに来ました。浅利聡子さん、あなたと浅利忠司さんとの間には婚姻を継続しがたい重大な理由が2つあります。そのことで、本日、離婚届を持ってまいりました。すでに浅利忠司さんは、記入済みでございます。こちらにサインいただけますか?」

 「どうして?この前のことは謝ったじゃないの。それなのに、離婚だなんて、どういうこと?」

 「その理由を俺の口から言わせる気か?」

 「だって。だって。智子さんが離婚したいって言うのは、わかるわ。あんなことがあったんだもん。だけど、私たちは28年間も連れ添ってきた仲ではないのかしら。それは許されざることが原因だということは承知しているわ。だからといって、長年連れ添ってきた妻を見捨てるような人だったなんて、信じられない。」

 「久志との親子関係について、DNA鑑定をしたのだ。結果はわかっているよな?久志は、俺の子ではなかった。加藤和弘という名に聞き覚えがあるだろう。その加藤何某の息子であるということが分かったのだ。」

 「……。」

 「そればかりか、聡子お前は、俺と結婚していながら、勝とうが結婚するまでの13年間にわたり勝とうと肉体関係をもっていたことまでわかっている。もう、観念したらどうだ?それとも、この間の恥辱の一件まで、そこの久志の愛人のお嬢さんに知られてしまってもいいのかな?」

 「久志がすぐに離婚届にサインしないから、こういうことになるのだよ。親子そろって、往生際が悪すぎる。自分たちが何をして、そのために誰を傷つけたかをよく考えなさい。」

 「わかりました。離婚に同意します。」

 「俺も……。でも、智子のことを諦めたわけではない。親父と親子関係がないなら仕方がない。」

 「ねーえ。恥辱ってなーに?久志が離婚してくれるのなら、どうでもいいけど。私と結婚してよね。」

 「しない。さおりとは、絶対しないから。」

 「えーなんでよ。私、将来の社長夫人になりたいのよね。久志が浮気しても許しちゃうから、結婚してよ。」

 「残念ですが、さおりさんとおっしゃいましたか?久志は浅利物産の専務取締役懐妊と社員の身分を解雇にします。したがって、浅利の社長夫人にはなれませんね。それでもよければ、そのクズと結婚なさいませ。」

 「えっ!追い出されちゃうの!だったら、結婚なんて、いいや。もっと若くてステキなお金おちを見つけることにするわ。では、私はこれで失礼します。」

 「ちょっと待ったぁー!さおりさんにも、話が残っていますから、お座りを。」

 「へ?私に?今更、何の洋画あるって言うのよ。」

 「さおりさんは、浅利智子さんと久さんの婚姻中に久志さんと不倫関係にありましたね。したがって、婚姻中の不貞行為としての慰謝料を500万円、宗像の事務所口座に期日までお振込みいただきますようお願いします。もし、払わず逃げられたら、裁判になり、あなたが見込んであるにもかかわらず、一つの過程を壊した犯人として社会から糾弾されることになるでしょう。」

 「ええ……!そんな……私、まだ大学生よ?そんなお金なんて、ないに決まっているのに……借金してでも、払いなさい。それが今日、あなたにお越しいただいた真の目的なのですから。」

 「同じ理由で、浅利聡子さんと久さんにも慰謝料が発生します。ここで、詳しい説明はされたくないでしょうから申しませんが、さおりさんと同じ理由です。聡子さんは、加藤さんとのことを含めて、慰謝料は総額で1500万円。そして久志さんは1000万円を期日までにお振込みお願いします。くれぐれも夜逃げなどなさいませんように、改めて申しておきます。」

 「それと言い忘れるところでございましたが、今の住居から即刻立ち退きをしてください。できましたら、今日中に引っ越し願いたいのです。」

 「ええ!そんな、せめて次の引っ越し先が決まるまで待っていただけませんか?」

 「待てません。引っ越しができないというなら、アナタ方二人のお荷物はすべて、こちらで処分させていただきますので、ご承知おきください。」

 「そんな捨てるなんて……。無体なことを言われても。」

 「聡子さん、智子さんに結婚を勧めた時に、アナタがそう智子さんに言った言葉通りですよ。離婚届はこの後、すぐ提出します。アカの他人に住まわせる義理はないということです。」

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