身分違いの恋

青の雀

文字の大きさ
5 / 6

5.

しおりを挟む
 まだ、お開きには早すぎ時間があるが、もう帰ろうと暇乞いをしていると、ベルーナの姿が見えない。

 きょろきょろと見回すと、どうやらバルコニーに連れ出されている。

 誰かに何か言われているように見えるが、その横顔は、うっとりとするぐらい美しい。

 よく見ると、相手の男性は第1王子殿下のセドリック。

 マディソンは、「あの野郎!」と一瞬思ったが、よく考えると、これは大変な玉の輿じゃねえか?と思い直す。

 二人のやり取りを見届けてから、帰路に着く。

 マディソンは、エミリアにベルーナがセドリック殿下のお目に止まったようだ。と告げ、夫婦で二人の恋の行方を後押しするつもりでいた。

 ところが、翌日から貴族家から横やりが入り、

「男爵令嬢の分際で、もうセドリック殿下に色目を遣うとは、あさましい」
「さすが、お里が知れるというところですわね」
「美人だからと言って、なんでも許されるわけがございません」
「はしたない娘、汚らわしい」

 誹謗中傷がいつまでも続く。言葉の暴力だけでなく、男爵邸に投石する者まで現れ、精神的にまいる。

 力でやるのなら、力で押し返す自信があるが、下のガキ2人は、まだ冒険者になれない。

 当のベルーナは、セドリック殿下からのお誘いで、馬で遠乗りに出かけているというのに。

 ベルーナのやっとつかんだ恋は、儚く消え入りそうで、マディソンとエミリアはため息しか付けない。

 ベルーナのために叙勲を受け入れたというのに、却って、ベルーナに悲しい思いをさせて、養親失格だと打ちのめされる。

 マディソンは、パーティで考えていたブルゴーニュ国へ出発することをエミリアにほのめかすと、賛成してくれた。

 おそらくベルーナは、男爵家以上の娘に違いないと確信を持つ。

 ひょっとすれば侯爵か、それ以上の令嬢ではないかと思われる。

 カサブランカ国王には、何も言わず、いつもの冒険だと称し、8人家族は、すぐさま、出発した。

 どうせ冒険家稼業は、こんなもの。そうと知っていながら、あえて叙勲した王家に責任がある。と言わんばかりに黙って、出国した。

 男爵家をカサブランカ国から、追い出したのは、嫉妬に狂った貴族なのだから。脅迫状や嫌がらせを記した手紙はすべて書斎机の上に置いたまま、出奔したのだ。

 後は野となれ山となれ。

 マディソンは、家族を侮辱されることが何より許せない。

 

 マディソン達が、カサブランカ国を出奔して、数日後、カサブランカ国では大規模な粛清が行われ、国家に損害を与えたものとして、相当数の貴族がお取りつぶしの憂き目にあった。

 適齢期を迎えたセドリック殿下の落ち込みが激しく、なぜ男爵家が出奔したかを調べさせたところ、投石、脅迫状などを押収して、ベルーナに対する嫌がらせを確認したのだ。

 それら貴族の中には、当然、マディソンやベルーナに嫌がらせをした貴族がいたことは、マディソン以下冒険者家族には知る由がない。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 カサブランカ国を出奔してから、一度、冒険者ギルドに顔を出し、それからすぐにブルゴーニュ国に向かった。

 その間に、ベルーナに真実を伝えると、涙を流してベルーナに感謝される。

 手掛かりは、ベルーナという名前とベビー服だけ、あえて言うならば、もう一つの手がかりはベルーナ自身の美貌しかない。

 それでブルゴーニュ国の王都まで行き、いろいろ聞き込みを開始する。

 とりあえず、冒険者ギルドに顔を出し、16、17年前にベルーナという令嬢が行方不明になっていないか確かめることに。

 これと言った収穫が得られなかったので、衛兵の詰め所にも同様の話をして、聞きに行くことにした。

 ベルーナの身元調査をして3日目、突然、宿に近衛騎士団が取り囲むようにして、現れた。

 マディソンは驚くも、話がベルーナの件で、と言われ納得し、宿の部屋に騎士を招き入れた。

 騎士は、ベルーナの容姿を見て、思わず跪く。ベルーナには美しさだけでなく、人を圧倒する何かを持っていたから。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

セカンドバージンな聖女様

青の雀
恋愛
公爵令嬢のパトリシアは、第1王子と婚約中で、いずれ結婚するのだからと、婚前交渉に応じていたのに、結婚式の1か月前に突然、婚約破棄されてしまう。 それというのも、婚約者の王子は聖女様と結婚したいからという理由 パトリシアのように結婚前にカラダを開くような女は嫌だと言われ、要するに弄ばれ捨てられてしまう。 聖女様を名乗る女性と第1王子は、そのまま婚前旅行に行くが……行く先々で困難に見舞われる。 それもそのはず、その聖女様は偽物だった。 玉の輿に乗りたい偽聖女 × 聖女様と結婚したい王子 のカップルで 第1王子から側妃としてなら、と言われるが断って、幸せを模索しているときに、偶然、聖女様であったことがわかる。 聖女になってからのロストバージンだったので、聖女の力は衰えていない。

婚約破棄からの復讐~私を捨てたことを後悔してください

satomi
恋愛
私、公爵令嬢のフィオナ=バークレイはアールディクス王国の第2王子、ルード様と婚約をしていましたが、かなりの大規模な夜会で婚約破棄を宣言されました。ルード様の母君(ご実家?)が切望しての婚約だったはずですが?その夜会で、私はキョウディッシュ王国の王太子殿下から婚約を打診されました。 私としては、婚約を破棄された時点でキズモノとなったわけで、隣国王太子殿下からの婚約話は魅力的です。さらに、王太子殿下は私がルード殿下に復讐する手助けをしてくれるようで…

その婚約破棄喜んで

空月 若葉
恋愛
 婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。  そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。 注意…主人公がちょっと怖いかも(笑) 4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。 完結後、番外編を付け足しました。 カクヨムにも掲載しています。

幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい

和泉鷹央
恋愛
 王国でも指折りの名家の跡取り息子にして、高名な剣士がコンスタンスの幼馴染であり許嫁。  そんな彼は数代前に没落した実家にはなかなか戻らず、地元では遊び人として名高くてコンスタンスを困らせていた。 「クレイ様はまたお戻りにならないのですか……」 「ごめんなさいね、コンスタンス。クレイが結婚の時期を遅くさせてしまって」 「いいえおば様。でも、クレイ様……他に好きな方がおられるようですが?」 「えっ……!?」 「どうやら、色町で有名な踊り子と恋をしているようなんです」  しかし、彼はそんな噂はあり得ないと叫び、相手の男勝りな踊り子も否定する。  でも、コンスタンスは見てしまった。  朝方、二人が仲睦まじくホテルから出てくる姿を……  他の投稿サイトにも掲載しています。

置き去りにされた聖女様

青の雀
恋愛
置き去り作品第5弾 孤児のミカエルは、教会に下男として雇われているうちに、子供のいない公爵夫妻に引き取られてしまう 公爵がミカエルの美しい姿に心を奪われ、ミカエルなら良き婿殿を迎えることができるかもしれないという一縷の望みを託したからだ ある日、お屋敷見物をしているとき、公爵夫人と庭師が乳くりあっているところに偶然、通りがかってしまう ミカエルは、二人に気づかなかったが、二人は違う!見られたと勘違いしてしまい、ミカエルを連れ去り、どこかの廃屋に置き去りにする 最近、体調が悪くて、インフルの予防注射もまだ予約だけで…… それで昔、書いた作品を手直しして、短編を書いています。

無愛想な婚約者の心の声を暴いてしまったら

雪嶺さとり
恋愛
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを世界で一番愛しているんだ……っ!?」 「え?」 伯爵令嬢ルーシャの婚約者、ウィラードはいつも無愛想で無口だ。 しかしそんな彼に最近親しい令嬢がいるという。 その令嬢とウィラードは仲睦まじい様子で、ルーシャはウィラードが自分との婚約を解消したがっているのではないかと気がつく。 機会が無いので言い出せず、彼は困っているのだろう。 そこでルーシャは、友人の錬金術師ノーランに「本音を引き出せる薬」を用意してもらった。 しかし、それを使ったところ、なんだかウィラードの様子がおかしくて───────。 *他サイトでも公開しております。

王子、婚約破棄してくださいね《完結》

アーエル
恋愛
望まぬ王子との婚約 色々と我慢してきたけどもはや限界です 「……何が理由だ。私が直せることなら」 まだやり直せると思っているのだろうか? 「王子。…………もう何もかも手遅れです」 7話完結 他社でも同時公開します

私との婚約は、選択ミスだったらしい

柚木ゆず
恋愛
 ※5月23日、ケヴィン編が完結いたしました。明日よりリナス編(第2のざまぁ)が始まり、そちらが完結後、エマとルシアンのお話を投稿させていただきます。  幼馴染のリナスが誰よりも愛しくなった――。リナスと結婚したいから別れてくれ――。  ランドル侯爵家のケヴィン様と婚約をしてから、僅か1週間後の事。彼が突然やってきてそう言い出し、私は呆れ果てて即婚約を解消した。  この人は私との婚約は『選択ミス』だと言っていたし、真の愛を見つけたと言っているから黙っていたけど――。  貴方の幼馴染のリナスは、ものすごく猫を被ってるの。  だから結婚後にとても苦労することになると思うけど、頑張って。

処理中です...