身分違いの恋

青の雀

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 依頼された魔物討伐は終わり、元の街へ戻ろうとしていた時、カサブランカ国王より謁見が求められた。

 それは謁見というより叙勲式だった。

 何年もの間、カサブランカ国は魔物に苦しめられていた。畑を荒らし、民家を壊し、人々を殺す。

 そんな魔物を一瞬で仕留めたマディソンの実力には、平伏するしかない。こんな優秀な冒険者は、爵位を与え、カサブランカ国に留め置くべきだと考えられたのだ。

 マディソンに授けられた爵位は男爵位。貴族の爵位の中では、最下層。有事があれば、真っ先に切り捨てられる地位で、ずいぶん舐められたものだと憤慨する。

 冒険者風情に渡すには、これぐらいで十分だというカサブランカ家の思いが見え隠れする。

 マディソンは逡巡した後、ベルーナのためにも、男爵位を受けることにした。ベルーナを拾ったとき、おそらくお貴族様のご落胤かご令嬢であると思った。

 着ていたベビー服やおくるみは、どれも平民では手が出せない高価なものばかりで、今も大事に取ってあるが、まるで新品のような輝きを放っている。

 いずれベルーナの本当の親がわかるまで、と思って、並み居る縁談はすべて断ってきた。養父が平民の冒険者より、男爵の冒険者の方がベルーナにとっても、いいことなのでは、という思いから舐められた爵位ではあったが、受けることにしたのだ。

 マディソンが思ったとおり、ベルーナは年頃になるにつれ、見事なまでの美女と成長していく様は、見ていて清々しさまで感じられるほどだった。

 黙っていれば、どこかの国の王女様ともお姫様とも、見紛うほどの美しさ、どこへ出しても恥ずかしくない淑女としての仕草。もはや一級品の美女に成長したのだが、それは黙っていれば……の話。

 喋ると、残念なことに……マディソンとエミリアでは、そこまでの教育ができていない。

 まあそれでも、男爵令嬢になれば、最低でも教育は受けられるはず。貴族専門の教育機関や金さえ払えば、家庭教師も雇えるかもしれない。

 カサブランカ国に忠誠を誓うつもりはない。マディソンは冒険者が天職だから、依頼があれば、どこの国でも自由に行ける身分。

 いざとなったら、家族そろって、トンズラすればいいと思っている。

 覚悟を決め、叙勲を受けた後に待ち構えているのは、叙勲記念祝典のパーティだ。当然、正装などの衣装は持ち合わせていない。

 王家から支度金がもらえ、それで家族全員の正装を作ることにしたのだが、洋服屋は新・男爵のマディソンの足元を見やがる。

 城からの使いの者に、正装が作れないと嘆くと、王家御用達の仕立て屋が、すぐさま飛んできて、全員の正装がなんとか間に合う。

 後から、最初の洋服屋が詫びを入れてきたが、もうけんもほろろで追い返した。

 城から迎えの馬車が来て、6人の子供たちと共に2台に分かれて乗り込む。

 エミリアとベルーナは急ごしらえのカーテシーを習うも、エミリアはよろけるが、どういうことかベルーナは一発で決まった。やはり、これが血筋の差というものか?

 エミリアとベルーナ、どちらもS級冒険者で身体能力は変わらないはずなのに。

 叙勲が終わり、いよいよパーティが始まる。扉の向こうは、大勢の貴族が揃い、新・男爵家の登場を、待ち受けているという。

 ドキドキしながら待つこと数分、もう口の中はカラカラになっている。

 音楽の生演奏が聞こえてくる。

 目の前の扉が開かれたときは、もう緊張で訳が分からなくなっていた。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 マディソン一家は、貴族に取り囲まれ、今までの冒険談を聞かせろと、せっつかれ、もう嫌気がさしてくる。

 ベルーナは、というと若い貴族令息に取り囲まれ、踊ってくださいと申し込まれるが、ベルーナにダンスを教えていなかったことに今更ながら気づく。

 チークダンスなら踊れるだろうが、そんな真似ベルーナにさせたくない。

 やっぱり、男爵令嬢は無理だ。他の子供たちも朝からのことで、グッタリ疲れ果てている。

 先にブルゴーニュ国に行き、ベルーナに相応の教育をしてから、カサブランカに来るべきだったと後悔する。

 妻のエミリアも、ハイヒールが辛いらしく脱いで、さっきからイスに座ったままで動こうとしない。


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