70 / 351
第二章 湖を臨む都
2.28 新学期の湖畔
しおりを挟む
その日も結局、課題となっている詩を作ることはできなかった。
「湖畔を歩けば、詩、できるかもな」
いつも通りのエルネストの言葉を背に、サシャが寄宿する修道院までの道を戻る。冬の日は既に傾きかけ、静かな湖は薄い赤に染まっていた。
湖沿いの道を俯きながら歩くサシャの、青白いままの頬を、無言で見つめる。カジミールの言葉に、サシャは悩んでいる。トールも、……どうすれば良いのか分からない。トールを撫でた、冷たく重苦しい風に、トールは小さく震えた。
「……あれ、は?」
不意に、サシャの足が止まる。
顔を上げたサシャの視線を辿ると、複数の大柄な影が一つの小柄な影を囲んでいるのが見えた。あの大柄な影は、春にサシャを罵倒した不良学生達。あいつら、また、誰かを虐めている。
「あれ、は、……ヤン?」
思わず舌打ちしかけたトールの耳に、震えるサシャの声が響く。
「助けなきゃ。……でも」
サシャの逡巡は、分かる。サシャのエプロンの胸ポケットの中で頷く。秋分祭の時の暗殺者は、一名だった。小柄なサシャが相手にするには、四人は多すぎる。
[あいつらの隙間から、ヤンだけを連れ出せば良い]
前にインターネットで得た知識を元に、サシャにそう、助言する。サシャもヤンも小柄だから、大柄な不良学生達が作っている隙間からヤンを助け出すことは、おそらく可能。トールの背表紙に頷いたサシャは、少し考え、そして落ち着いて見える足取りで不良学生達の間に割って入った。
「あ、ヤン、ここに居たんだ」
震えの無いサシャの声が、夕空に響く。
「ヘラルドさんが呼んでたよ。一緒に行こう」
不良学生達をまるっと無視し、サシャはトールの助言通り、自然な動作でヤンだけを不良学生達の輪から引き剥がした。
後に残ったのは、何が何だか分かっていない不良学生達。
[サシャ]
その不良学生達から五歩離れたところで、不良学生達の呪縛が解ける。
[走って!]
サシャの背後と前方を確認し、トールは大文字を背表紙に踊らせた。
[前にクリスとマルクさん居るから!]
トールの指示通り、ヤンを引っ張ったサシャが前方の船着き場を目指して走る。トールの指示が速かったことが効いたのだろう、顔を赤くした不良学生がサシャ達に追いつく前に、サシャはヤンと共に漁師のマルクの側に滑り込んだ。
「……!」
鍛え上げられたマルクの一睨みで、不良学生達は進路を変える。
「ふん、意気地の無い奴らめ」
「あいつら、弱い者虐めしかしないよな」
遠ざかる不良学生達の背に鼻を鳴らしたマルクと、一人前に毒突くクリスの横で、トールはほっと息を吐いた。
「あ、ありがとう」
その横で、ヤンがサシャに頭を下げる。
「ううん」
そのヤンに、サシャは首を横に振ってみせた。
「僕も、前に絡まれたことがあって、その時に助けてくれた人が居たから、そのお礼」
「何だ、それ?」
サシャの理屈に、横で聞いていたクリスが茶々を入れる。
「ま、とにかく、もうそろそろ日が暮れる」
北都の城壁内にある修道院に寄宿しているヤンは、クリスが送り届けるから、サシャも早く帰ると良い。気安いマルクの言葉に、サシャもトールも、マルクに深く頭を下げた。
「湖畔を歩けば、詩、できるかもな」
いつも通りのエルネストの言葉を背に、サシャが寄宿する修道院までの道を戻る。冬の日は既に傾きかけ、静かな湖は薄い赤に染まっていた。
湖沿いの道を俯きながら歩くサシャの、青白いままの頬を、無言で見つめる。カジミールの言葉に、サシャは悩んでいる。トールも、……どうすれば良いのか分からない。トールを撫でた、冷たく重苦しい風に、トールは小さく震えた。
「……あれ、は?」
不意に、サシャの足が止まる。
顔を上げたサシャの視線を辿ると、複数の大柄な影が一つの小柄な影を囲んでいるのが見えた。あの大柄な影は、春にサシャを罵倒した不良学生達。あいつら、また、誰かを虐めている。
「あれ、は、……ヤン?」
思わず舌打ちしかけたトールの耳に、震えるサシャの声が響く。
「助けなきゃ。……でも」
サシャの逡巡は、分かる。サシャのエプロンの胸ポケットの中で頷く。秋分祭の時の暗殺者は、一名だった。小柄なサシャが相手にするには、四人は多すぎる。
[あいつらの隙間から、ヤンだけを連れ出せば良い]
前にインターネットで得た知識を元に、サシャにそう、助言する。サシャもヤンも小柄だから、大柄な不良学生達が作っている隙間からヤンを助け出すことは、おそらく可能。トールの背表紙に頷いたサシャは、少し考え、そして落ち着いて見える足取りで不良学生達の間に割って入った。
「あ、ヤン、ここに居たんだ」
震えの無いサシャの声が、夕空に響く。
「ヘラルドさんが呼んでたよ。一緒に行こう」
不良学生達をまるっと無視し、サシャはトールの助言通り、自然な動作でヤンだけを不良学生達の輪から引き剥がした。
後に残ったのは、何が何だか分かっていない不良学生達。
[サシャ]
その不良学生達から五歩離れたところで、不良学生達の呪縛が解ける。
[走って!]
サシャの背後と前方を確認し、トールは大文字を背表紙に踊らせた。
[前にクリスとマルクさん居るから!]
トールの指示通り、ヤンを引っ張ったサシャが前方の船着き場を目指して走る。トールの指示が速かったことが効いたのだろう、顔を赤くした不良学生がサシャ達に追いつく前に、サシャはヤンと共に漁師のマルクの側に滑り込んだ。
「……!」
鍛え上げられたマルクの一睨みで、不良学生達は進路を変える。
「ふん、意気地の無い奴らめ」
「あいつら、弱い者虐めしかしないよな」
遠ざかる不良学生達の背に鼻を鳴らしたマルクと、一人前に毒突くクリスの横で、トールはほっと息を吐いた。
「あ、ありがとう」
その横で、ヤンがサシャに頭を下げる。
「ううん」
そのヤンに、サシャは首を横に振ってみせた。
「僕も、前に絡まれたことがあって、その時に助けてくれた人が居たから、そのお礼」
「何だ、それ?」
サシャの理屈に、横で聞いていたクリスが茶々を入れる。
「ま、とにかく、もうそろそろ日が暮れる」
北都の城壁内にある修道院に寄宿しているヤンは、クリスが送り届けるから、サシャも早く帰ると良い。気安いマルクの言葉に、サシャもトールも、マルクに深く頭を下げた。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界で一番の紳士たれ!
だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。
リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。
リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。
異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~
猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。
――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる
『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。
俺と俺の暮らすこの国の未来には、
惨めな破滅が待ち構えているだろう。
これは、そんな運命を変えるために、
足掻き続ける俺たちの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる