『魔導書』に転生した俺と、君との日々。

風城国子智

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第四章 帝都の日々

4.5 グスタフ教授の講義②

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「集まっているようだな」

 静かだが重い声に、顔を上げる。

 小さな教卓に大きな手を置いた、ヴィリバルトに似た濃い黄金の髪を揺らす大柄な影に、トールは首を横に振った。セルジュのことを考えるのは、あとにしよう。

「今日は『古代の軍と法』について話そう」

 そのトールの耳に、ヴィリバルトに似た明快な声が響く。

 グスタフ教授は、東雲しののめの王族出身。ヴィリバルトの祖父の弟の息子、従祖父いとこおじにあたる人物であるらしい。

「リュカの宰相になるのなら、グスタフの講義は聴いておいた方が良い」

 まだ自由七科の資格を全て取り切れていないサシャがグスタフ教授の講義に紛れ込めるのは、黒竜こくりゅう騎士団長で神帝候補のヴィリバルトの非公式な推薦のおかげだと、書類作成の折にフェリクス副騎士団長が話してくれた。サシャのために労を執ってくれたヴィリバルトに報いるためにも、講義は集中して聴かなければ。

「古代、現在の南苑なんえんの地から興った帝国は、最終的に、現在の八都はちとに匹敵する国土を力尽くで手に入れた」

 グスタフの講義では、もちろん、トールの世界の授業ではしばしば使用されるスライドやPCは使われない。学生との対話を重ねていくだけ。グスタフの講義を初めて聴いた時には、黒板さえ使わないことに驚いた。

「その理由として、帝国軍の一糸乱れぬ規律があったと記録されているが、何故帝国軍は、それほどの規律を遵守することができたのか」

「訓練が厳しかったのでしょう」

 グスタフ教授の問いに、学生の中から声が上がる。

「古代の民も、突き詰めれば我々と同じ人間だ」

 その声を、グスタフはいとも簡単に一蹴した。

「厳しい訓練に、そうそう耐えることができるわけがない」

「『魔法』の力ではないのですか?」

 教授の言葉に笑う学生の中から、別の声が上がる。

「今も残る遺跡にみえるように、古代の民は『魔法』に長けていたと聞きます」

「それも、ありそうだな」

 聞こえてきた提案に頷くと、グスタフ教授はぐるりと辺りを見回した。

「そうだな、そこの白い髪の少年」

 不意の響きに、頭の中が真っ白になる。グスタフは確かに、一人と一冊の方に、ヴィリバルトと同じ色の鋭い目を向けていた。

 そっと、辺りを見回す。白い髪をした学生は、いない。と、すると、やはり。

「そうだ、君だ」

 バジャルドに促され、立ち上がったサシャの震えを感じ取る。

「君はいつも熱心にメモを取っている。その君なら、良い答えを知っているんじゃないかな」

「あ、あの……」

[大丈夫]

 俯いてトールに目を向けたサシャを、励ます。

[間違ったことを言っても、教授は笑わない]

 グスタフ教授がヴィリバルトの親族ならば、ヴィリバルトと同じように、弱いものを嘲笑うようなことはしない。推測でしかないが、そう思う。

[思ったことを言えば良い]

 トールの言葉に、サシャは頷き、そして顔を上げて唇を開いた。

「僕、いえ、私は、古代人が重視していた『快楽』を、上手く、使っていたんだと思い、ます」

 たどたどしいサシャの声に、教室中が静まりかえる。

「苦しい時に上の人から励まされたり、活躍した時に金銭や宝石を余分にもらえたり、とにかく、上の人は自分のことを認めてくれていると分かっていたから、みんな頑張れたんだと思い、ます」

 サシャは多分、ヴィリバルトと、その部下であるエゴンやルジェクのことを考えてこの結論を導いたのだろう。サシャの、収まってきた声の震えに大きく頷く。トール自身も、父母の信頼や、サッカー&フットサルクラブの監督や仲間達の励ましに、何度助けられたか分からない。

「なるほど」

 グスタフ教授の静かな頷きに、顔を上げる。

「中々良い解答だ」

 口角を上げたグスタフ教授の、ヴィリバルトと同じ笑顔に、トールはほっと胸を撫で下ろした。

「さて、どのように最強の軍を動かすにせよ、その根底にはやはり『法』があった」

 話を続ける教授に安堵の息を吐いたサシャが、冷たい床に腰を下ろす。

「褒められて良かったじゃないか」

 サシャの背を小さく叩いたバジャルドの賛辞に顔を赤らめたサシャを確かめ、トールはこの日二度目の安堵の息を吐いた。
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