『魔導書』に転生した俺と、君との日々。

風城国子智

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第四章 帝都の日々

4.16 セルジュ、襲われる

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[ごめん、黙ってて]

 背表紙に大文字を並べ、深く頭を下げる。

「ううん、いいの」

 そう言いながら首を横に振ってくれたサシャが、トールには嬉しかった。

 ルーファスの酒場から白竜はくりゅう騎士団の宿舎へと戻る細い道は既に、夏至の夕方の色に染まっている。その細い道を辿るサシャの足取りに合わせて、トールは、あの北辺ほくへんの砦で過ごした恐ろしい夜にサシャの叔父ユーグから聞いたことを背表紙に並べた。サシャの父オーレリアンが、北辺の砦を守っていた北向きたむくの王族の息子であったこと。その父は、サシャの母エリゼと契りを結ぶことを許してもらうためにエリゼと共に北辺の砦を訪れ、エリゼと契りを結んだ後、二人に非道を見咎められたオーレリアンの双子の弟ウスターシュによって殺されたこと。サシャの母エリゼと、祖父マルタン、叔父ユーグは、サシャを守るために、サシャに、北向王家出身であった当時の神帝じんていと同じ名を付け、父親については秘密を守り通したこと。

「叔父上に、お礼、言わなきゃ」

 俯いて歩きながらトールの背表紙を読み取ったサシャが、小さく首を横に振る。

「でも、……できるだけ誰にも、言わない方が良いよね」

[そうだな]

 北向の王子であるセルジュとリュカには、特に。震えるサシャの唇に、トールは大きく頷いた。

 その時。

[……!]

 視界を横切った、丈の長い薄手の服を風に靡かせた影に、思わず唸る。一人と一冊が歩いている細い道から見える少し大きめの道を歩くあの濃い金色の髪は、……セルジュか? 背丈と、持っている重そうな本、そして剣帯で吊された細身の剣から、トールはそう、見当を付けた。

 道を変えた方が良い。背表紙に文字を並べる前に、細い道から出てしまう。同時に目に入ったのは、セルジュを囲んだ大小様々な影!

[サシャ!]

 セルジュと、セルジュを襲う影以外、人影は見当たらない。近いはずの白竜騎士団詰所に戻り、救援を頼もう。しかしトールが背表紙に文字を並べる前に、サシャは地面に落ちていた箒を蹴り上げて手にすると、一息で、セルジュに刃を向けた影の後頭部にその箒の柄を叩き込んだ。

[サシャ!]

 無茶なことを! 極度の震えに、詰る言葉を無意識に背表紙に並べてしまう。セルジュを囲む影は、四体。白竜騎士団で扱かれている剣術は、まだまだサシャの身に付いていない。北辺のあの修道院でグイドから習った体術だけで、乗り切れるか? 同時にサシャに向かって飛びかかってきた三体の影の足を狙うために腰を落としたサシャの身体は、しかし次の瞬間、トールの予想を超えて伸び上がった。

「なっ!」

 予想外のサシャの攻撃に怯んだ影達の頬に、横から石礫が当たる。

「逃げるぞっ!」

 石畳に足場を定めたサシャが再び箒の柄を構える前に、四体の影は黄昏に消えた。……セルジュも。
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