『魔導書』に転生した俺と、君との日々。

風城国子智

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第四章 帝都の日々

4.15 ルーファスの酒場②

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「お前の父親、オーレリアンはな、……北向きたむくの王族で、将来、白竜はくりゅう騎士団の団長になる予定で帝都ていとに来ていたんだ」

 ルーファスが口にした、サシャは初めて耳にするサシャの父親の身分に、サシャの全身が強ばったのを感じ取る。

「王族の暮らしから外されて、勉学と武術に励めと言われたのが嫌だったんだろうな、オーレリアンは」

 その辺りは、我が息子イアンの心境と同じなのかもしれない。少しだけ沈んだルーファスの言葉に、一人と一冊は同時に頷いた。

「真面目なエリゼと、サボり魔のオーレリアン。同じ白竜騎士団所属だが、最初の頃は、まあ当たり前だが、二人は互いに無関心だったな」

 勉学も武術訓練もサボりまくるオーレリアンを、最初はエリゼも軽蔑していた。肩を竦めたルーファスの言葉に「だろうな」と納得する。サシャも、おそらくトールが不真面目だったなら、ここまでトールに肩入れしなかっただろう。

「だがな。サボり魔のオーレリアンは、正義感だけは強かった」

 僅かな奨学金だけを頼りに帝都で勉学に励んでいる学生を虐める金持ちの学生達を、たった一人で叩きのめしたオーレリアンを見かけたエリゼは、オーレリアンに対する見方を少しだけ変えた。ルーファスの酒場でサボるオーレリアンにエリゼは半ば無理矢理自由七科を叩き込み、そのおかげでオーレリアンは無事、自由七科の資格を修めることができた。武術を苦手としていたエリゼをオーレリアンが庇い、いつの頃からか、二人は、互いに互いを思いやる仲になっていた。

「エリゼは、自分に子供ができたら、若くして亡くなった『冬の国ふゆのくに』出身の母の名を付けるって、いつも言っていたな」

 だからルーファスは、道でサシャを見かけた時、エリゼの母の名前である『サカリ』の名でサシャを呼んだ。全てを話して喉が渇いたのか、自身で注ぎ足したジョッキの中のエールを一気に飲み干したルーファスに、サシャは小さく頭を下げた。

「そう言えば。……五年くらい前だったかな」

 不意に、ルーファスの身体が、カウンターの影に沈む。

「エリゼが、手紙を寄越したことがあったな」

 確かここに、保存したはず。唸るルーファスは、少し経ってから、小さく巻かれた羊皮紙と共に再び一人と一冊の前に現れた。

「ほら、これだ」

 ルーファスが投げるように手渡してきた羊皮紙を、サシャが愛おしむように広げる。羊皮紙の文字に目を瞬かせたサシャは、すぐに、ルーファスの方へと顔を向けた。

「母上の、筆跡です」

 羊皮紙の端がトールの背表紙に当たっているので、サシャが読んでいる、サシャの母が書いた手紙の中身をトールも読むことができる。手紙の一番上に書かれている日付を指を折って数えていくと、サシャが九つの時に書かれた手紙であるようだ。『息子と、弟のユーグを連れて、帝都に向かいたいので、当面の宿舎を提供して欲しい』。サシャの母が書いた手紙には、はっきりとそう書かれていた。

「二人が、契りを結ぶ許しを得るために北向へ帰った後のことは、噂でしか知らないんだが」

 母の手紙の文面に唇を歪めたサシャを確かめたトールの耳に、静かになったルーファスの言葉が降ってくる。北向の王族にエリゼとの結婚を反対されたオーレリアンは、エリゼを連れて『冬の国』に出奔した。そうではなく、儚げな雰囲気を持つエリゼに横恋慕したオーレリアンの弟に、オーレリアンは謀殺された。オーレリアンとエリゼが帝都に戻って来ない、根拠の無い理由は、ルーファスの耳にも入っていた。

「オーレリアンは、この酒場で何度も、悪酔いした学生達を叩き出してくれてたからな。オーレリアンを失ったエリゼが困っているなら助けるのが筋だろう。そう思ったんだ」

 だが、北向へ向かう修道士に託した承諾の返事への返答は、ルーファスの許へは来なかった。おそらく、ルーファスが書いた手紙は、エリゼの許へは届かなかったのだろう。首を横に振ったルーファスから、トールは思わず目を逸らした。

「エリゼは、亡くなったのか?」

 そのトールの耳に、気落ちしたルーファスの声が響く。

「はい……」

「そうか」

 サシャの頷きに、ルーファスは自分を納得させるかのように頷くと、顔を上げて無理矢理な笑顔を作った。

「いつでも、ここに来い」

 サシャの横に移動したルーファスが、サシャの背を強く叩く。

「エリゼとオーレリアンの代わりにはなれないが、力になってやる」

「は、はい」

 その衝撃で大きく揺れた、サシャの鼓動に、トールは「大丈夫だ」と言わんばかりに微笑んだ。
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