130 / 351
第四章 帝都の日々
4.16 セルジュ、襲われる
しおりを挟む
[ごめん、黙ってて]
背表紙に大文字を並べ、深く頭を下げる。
「ううん、いいの」
そう言いながら首を横に振ってくれたサシャが、トールには嬉しかった。
ルーファスの酒場から白竜騎士団の宿舎へと戻る細い道は既に、夏至の夕方の色に染まっている。その細い道を辿るサシャの足取りに合わせて、トールは、あの北辺の砦で過ごした恐ろしい夜にサシャの叔父ユーグから聞いたことを背表紙に並べた。サシャの父オーレリアンが、北辺の砦を守っていた北向の王族の息子であったこと。その父は、サシャの母エリゼと契りを結ぶことを許してもらうためにエリゼと共に北辺の砦を訪れ、エリゼと契りを結んだ後、二人に非道を見咎められたオーレリアンの双子の弟ウスターシュによって殺されたこと。サシャの母エリゼと、祖父マルタン、叔父ユーグは、サシャを守るために、サシャに、北向王家出身であった当時の神帝と同じ名を付け、父親については秘密を守り通したこと。
「叔父上に、お礼、言わなきゃ」
俯いて歩きながらトールの背表紙を読み取ったサシャが、小さく首を横に振る。
「でも、……できるだけ誰にも、言わない方が良いよね」
[そうだな]
北向の王子であるセルジュとリュカには、特に。震えるサシャの唇に、トールは大きく頷いた。
その時。
[……!]
視界を横切った、丈の長い薄手の服を風に靡かせた影に、思わず唸る。一人と一冊が歩いている細い道から見える少し大きめの道を歩くあの濃い金色の髪は、……セルジュか? 背丈と、持っている重そうな本、そして剣帯で吊された細身の剣から、トールはそう、見当を付けた。
道を変えた方が良い。背表紙に文字を並べる前に、細い道から出てしまう。同時に目に入ったのは、セルジュを囲んだ大小様々な影!
[サシャ!]
セルジュと、セルジュを襲う影以外、人影は見当たらない。近いはずの白竜騎士団詰所に戻り、救援を頼もう。しかしトールが背表紙に文字を並べる前に、サシャは地面に落ちていた箒を蹴り上げて手にすると、一息で、セルジュに刃を向けた影の後頭部にその箒の柄を叩き込んだ。
[サシャ!]
無茶なことを! 極度の震えに、詰る言葉を無意識に背表紙に並べてしまう。セルジュを囲む影は、四体。白竜騎士団で扱かれている剣術は、まだまだサシャの身に付いていない。北辺のあの修道院でグイドから習った体術だけで、乗り切れるか? 同時にサシャに向かって飛びかかってきた三体の影の足を狙うために腰を落としたサシャの身体は、しかし次の瞬間、トールの予想を超えて伸び上がった。
「なっ!」
予想外のサシャの攻撃に怯んだ影達の頬に、横から石礫が当たる。
「逃げるぞっ!」
石畳に足場を定めたサシャが再び箒の柄を構える前に、四体の影は黄昏に消えた。……セルジュも。
背表紙に大文字を並べ、深く頭を下げる。
「ううん、いいの」
そう言いながら首を横に振ってくれたサシャが、トールには嬉しかった。
ルーファスの酒場から白竜騎士団の宿舎へと戻る細い道は既に、夏至の夕方の色に染まっている。その細い道を辿るサシャの足取りに合わせて、トールは、あの北辺の砦で過ごした恐ろしい夜にサシャの叔父ユーグから聞いたことを背表紙に並べた。サシャの父オーレリアンが、北辺の砦を守っていた北向の王族の息子であったこと。その父は、サシャの母エリゼと契りを結ぶことを許してもらうためにエリゼと共に北辺の砦を訪れ、エリゼと契りを結んだ後、二人に非道を見咎められたオーレリアンの双子の弟ウスターシュによって殺されたこと。サシャの母エリゼと、祖父マルタン、叔父ユーグは、サシャを守るために、サシャに、北向王家出身であった当時の神帝と同じ名を付け、父親については秘密を守り通したこと。
「叔父上に、お礼、言わなきゃ」
俯いて歩きながらトールの背表紙を読み取ったサシャが、小さく首を横に振る。
「でも、……できるだけ誰にも、言わない方が良いよね」
[そうだな]
北向の王子であるセルジュとリュカには、特に。震えるサシャの唇に、トールは大きく頷いた。
その時。
[……!]
視界を横切った、丈の長い薄手の服を風に靡かせた影に、思わず唸る。一人と一冊が歩いている細い道から見える少し大きめの道を歩くあの濃い金色の髪は、……セルジュか? 背丈と、持っている重そうな本、そして剣帯で吊された細身の剣から、トールはそう、見当を付けた。
道を変えた方が良い。背表紙に文字を並べる前に、細い道から出てしまう。同時に目に入ったのは、セルジュを囲んだ大小様々な影!
[サシャ!]
セルジュと、セルジュを襲う影以外、人影は見当たらない。近いはずの白竜騎士団詰所に戻り、救援を頼もう。しかしトールが背表紙に文字を並べる前に、サシャは地面に落ちていた箒を蹴り上げて手にすると、一息で、セルジュに刃を向けた影の後頭部にその箒の柄を叩き込んだ。
[サシャ!]
無茶なことを! 極度の震えに、詰る言葉を無意識に背表紙に並べてしまう。セルジュを囲む影は、四体。白竜騎士団で扱かれている剣術は、まだまだサシャの身に付いていない。北辺のあの修道院でグイドから習った体術だけで、乗り切れるか? 同時にサシャに向かって飛びかかってきた三体の影の足を狙うために腰を落としたサシャの身体は、しかし次の瞬間、トールの予想を超えて伸び上がった。
「なっ!」
予想外のサシャの攻撃に怯んだ影達の頬に、横から石礫が当たる。
「逃げるぞっ!」
石畳に足場を定めたサシャが再び箒の柄を構える前に、四体の影は黄昏に消えた。……セルジュも。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー
藤 野乃
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生!
憧れのエルフに転生したら、まさかの特級呪物。
しかも、お約束のご都合主義はどこ行っちゃったの!?
理不尽な手続き、面倒な契約、身分証がなければ部屋も借りられない。
猫獣人は「ニャー」と鳴かないし、神様も居ない。
召喚獣?喋りません。
龍?人化しません。
想像してた異世界とはだいぶ違う。
腑に落ちない気持ちMAXで、流されるままクラフトしたり、もふもふしたり、たまに事件に巻き込まれたり。
見た目は完璧エルフ美女、でも中身はツッコミ止まらない。
ご都合主義が通じない異世界で、《普通》に揉まれる日々がはじまる──!
※カクヨム、なろうにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる