『魔導書』に転生した俺と、君との日々。

風城国子智

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第四章 帝都の日々

4.14 ルーファスの酒場①

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 ルーファスと名乗る、赤い髪の人物に導かれるままに、一人と一冊は大学街の小路を何度も曲がる。

「ここだ」

 扉に赤い矢が描かれた、頑丈そうな石造りの建物の前で、ルーファスの足は止まった。

「ここが、俺の酒場」

 大仰な仕草で扉を開けたルーファスの笑顔が、一瞬にして厳しくなる。

「帰ってたのか、イアン」

 簡素なテーブルと椅子が所狭しと並ぶ明るい部屋の奥にある、背の高い椅子に座る小さな影に、ルーファスは苛立ち感満載の声を上げた。

「勉強する気が無いなら、裏の倉庫でも掃除してろ」

 そのルーファスを睨んだ小さな影が、ルーファスと同じ色の瞳でサシャを見やる。しかしすぐに、小さな影は、酒場の奥にある扉の向こうへと消えていった。

「全く」

 消えてしまった小さな影を確かめたルーファスが、サシャに向かって大仰に肩を竦める。

「あいつ、俺の息子なんだが、目を離すとすぐサボっちまうんだ」

 八都はちと内、秋津あきつよりも更に西、洋上に浮かぶ島々から成る国である『西海さいかい』からこの帝都ていとに留学を果たした弟のことが心配だったから、帝都でこの酒場を始めた。笑いながら説明するルーファスに、ぽかんと口を開けてしまう。法学を修めたルーファスの弟は西海に帰って王の文官として暮らしているが、ルーファスの方は、帝都で契りを結んでできたイアンという名の息子に弟と同じ学問を修めさせるために、帝都の学生相手に酒場の営業を続けているらしい。

「エリゼは真面目だったからあまり来なかったが、白竜騎士団の悪ガキの一人だったオーレリアンはここで良くサボってたぜ」

 暑いから、喉が渇いているだろう。カウンターの向こうに設えられた簡素な台所からルーファスが出してきた木製のジョッキに、サシャが首を横に振る。

「安心しな。中身は麦湯だ」

 俯いたサシャに、ルーファスは豪快に笑った。

「お酒を飲まないところも、エリゼと同じだな」

 北向きたむくの修道院からの奨学金で帝都に留学してきたサシャの母エリゼは、程なく、努力が認められて、白竜はくりゅう騎士団の『守人もりと』候補に抜擢された。自分用に用意したジョッキの中のエールを飲み干したルーファスの口が、滑らかに言葉を紡ぐ。サシャの母も、白竜騎士団にいたんだ。口をぽかんと開けたままのサシャに、ルーファスは笑いながら麦湯が入ったジョッキを勧めた。

「父親のことは、本当に、何も聞いてないんだな」

 炒った麦を煎じた液体を一口だけ口にしたサシャに、念を押すようなルーファスの言葉が降ってくる。

「はい」

 カウンターにジョッキを置き、小さく頷いたサシャに、ルーファスは唇を横に引き延ばした。
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