4 / 38
第1章 すべては勘違いから
4.飲み過ぎのイケメン
しおりを挟む
翌週の金曜は、楠木課長の歓迎会だった。
「楠木課長、どうぞ」
相変わらず、彼は女子社員に囲まれている。
あんなにつれなくされているのに、飲み会はまた、別らしい。
「モテる男はつれぇな」
私の前で熊田さんは苦笑いを浮かべた。
彼は営業一課で、世話係的立ち位置だ。
「まー、普段は水面下でやりあって、仕事はちゃんとしてるんだからいいんじゃないですかー」
「まーなー」
ぐいっとグラスのビールを飲み干し、彼は手酌で注いだ。
飲み会のお酌文化などここにはない。
飲みたい人間が自分のペースで飲む。
素晴らしいシステムだ。
――なのに。
上座に座る、楠木課長をちらり。
「楠木課長って、けっこういける口なんですね」
空になったグラスへ、すかさず別の女子社員がお酒を注ぐ。
ここはどこぞのクラブか?
とか思ったが、それは口に出さない。
それよりもそれを、楠木課長がまた一気に飲み干したほうが気になる。
座が崩れてきた中盤よりわんこそば状態で注がれるお酒を、彼は無言で飲み続けているが、……大丈夫なんだろうか。
「香坂はあれに混ざらないでいいのかよ?」
ニヤリ、と意地悪く、片頬を歪めて熊田さんが笑う。
「もー、冗談言わないでくださいよ!
ああいうの、私が苦手なの、知ってるじゃないですか!」
「そうだな、悪い、悪い」
熊田さんはゲラゲラ笑いだした。
私が女子社員の群れに交ざるのが苦手なのは、入社以来の付き合いである彼は知っている。
女子社員と仲良くするよりも、熊田さんと飲んでいるほうが楽でいい。
お開きになって帰ろうとしたら、熊田さんに呼び止められた。
「悪いが、送っていってくれないか」
「へっ!?」
熊田さんの肩には案の定、酔い潰れた楠木課長が支えられていた。
「なんで、私が?」
「お前、千早だろ?
課長も千早だっていうからさ」
「うっ」
ええ、ええ。
千早どころか、お隣さんですが?
「……ひとりでかえれ、ますから……」
楠木課長はひとりで立とうとしたが、熊田さんの支えがなくなった途端に足下から崩れていく。
「おっと!」
「……すみません」
慌てて熊田さんにまた支えられ、申し訳なさそうだ。
「いいから黙って、送られておきなさいって」
「……はい」
意気消沈して項垂れてしまった楠木課長はこう、らしくない。
「じゃあ、私が送っていきます!」
「えっ、私が!
私が!」
立候補合戦がはじまったかと思ったら、誰が送るかじゃんけんまでしている。
できることなら喜んでお譲りしたいが。
「お前ら全員、逆方向だろうが。
それに将来の幹部に、傷をつけられるか!」
しっ、しっ、と手を振って熊田さんは女子社員を散らした。
あー、ですよねー。
あきらかにそういう目的っぽい人もいるし。
「そういうわけで悪いが香坂、頼む。
帰りのタクシー賃が浮いたと思えばいいだろ」
「うっ。
……了解、です」
他ならぬ、いつもお世話になっている熊田さんの頼みをむげにできるはずがない。
呼んだタクシーが到着し、熊田さんは楠木課長を乗せた。
その隣へ問答無用へ押し込まれる。
「じゃ、頼んだ!」
バタンとドアが閉まり、タクシーが走りだす。
シートにもたれかかった楠木課長に、意識はない。
「お酒、弱いんだったら、無理して飲まなきゃいいのに」
なんて私の呟きは彼には聞こえない。
「楠木課長、どうぞ」
相変わらず、彼は女子社員に囲まれている。
あんなにつれなくされているのに、飲み会はまた、別らしい。
「モテる男はつれぇな」
私の前で熊田さんは苦笑いを浮かべた。
彼は営業一課で、世話係的立ち位置だ。
「まー、普段は水面下でやりあって、仕事はちゃんとしてるんだからいいんじゃないですかー」
「まーなー」
ぐいっとグラスのビールを飲み干し、彼は手酌で注いだ。
飲み会のお酌文化などここにはない。
飲みたい人間が自分のペースで飲む。
素晴らしいシステムだ。
――なのに。
上座に座る、楠木課長をちらり。
「楠木課長って、けっこういける口なんですね」
空になったグラスへ、すかさず別の女子社員がお酒を注ぐ。
ここはどこぞのクラブか?
とか思ったが、それは口に出さない。
それよりもそれを、楠木課長がまた一気に飲み干したほうが気になる。
座が崩れてきた中盤よりわんこそば状態で注がれるお酒を、彼は無言で飲み続けているが、……大丈夫なんだろうか。
「香坂はあれに混ざらないでいいのかよ?」
ニヤリ、と意地悪く、片頬を歪めて熊田さんが笑う。
「もー、冗談言わないでくださいよ!
ああいうの、私が苦手なの、知ってるじゃないですか!」
「そうだな、悪い、悪い」
熊田さんはゲラゲラ笑いだした。
私が女子社員の群れに交ざるのが苦手なのは、入社以来の付き合いである彼は知っている。
女子社員と仲良くするよりも、熊田さんと飲んでいるほうが楽でいい。
お開きになって帰ろうとしたら、熊田さんに呼び止められた。
「悪いが、送っていってくれないか」
「へっ!?」
熊田さんの肩には案の定、酔い潰れた楠木課長が支えられていた。
「なんで、私が?」
「お前、千早だろ?
課長も千早だっていうからさ」
「うっ」
ええ、ええ。
千早どころか、お隣さんですが?
「……ひとりでかえれ、ますから……」
楠木課長はひとりで立とうとしたが、熊田さんの支えがなくなった途端に足下から崩れていく。
「おっと!」
「……すみません」
慌てて熊田さんにまた支えられ、申し訳なさそうだ。
「いいから黙って、送られておきなさいって」
「……はい」
意気消沈して項垂れてしまった楠木課長はこう、らしくない。
「じゃあ、私が送っていきます!」
「えっ、私が!
私が!」
立候補合戦がはじまったかと思ったら、誰が送るかじゃんけんまでしている。
できることなら喜んでお譲りしたいが。
「お前ら全員、逆方向だろうが。
それに将来の幹部に、傷をつけられるか!」
しっ、しっ、と手を振って熊田さんは女子社員を散らした。
あー、ですよねー。
あきらかにそういう目的っぽい人もいるし。
「そういうわけで悪いが香坂、頼む。
帰りのタクシー賃が浮いたと思えばいいだろ」
「うっ。
……了解、です」
他ならぬ、いつもお世話になっている熊田さんの頼みをむげにできるはずがない。
呼んだタクシーが到着し、熊田さんは楠木課長を乗せた。
その隣へ問答無用へ押し込まれる。
「じゃ、頼んだ!」
バタンとドアが閉まり、タクシーが走りだす。
シートにもたれかかった楠木課長に、意識はない。
「お酒、弱いんだったら、無理して飲まなきゃいいのに」
なんて私の呟きは彼には聞こえない。
11
あなたにおすすめの小説
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
久我くん、聞いてないんですけど?!
桜井 恵里菜
恋愛
愛のないお見合い結婚
相手はキモいがお金のため
私の人生こんなもの
そう思っていたのに…
久我くん!
あなたはどうして
こんなにも私を惑わせるの?
━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━
父の会社の為に、お見合い結婚を決めた私。
同じ頃、職場で
新入社員の担当指導者を命じられる。
4歳も年下の男の子。
恋愛対象になんて、なる訳ない。
なのに…?
【完結】京都若旦那の恋愛事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
藍生蕗
恋愛
大学二年生、二十歳の千田 史織は内気な性格を直したくて京都へと一人旅を決行。そこで見舞われたアクシデントで出会った男性に感銘を受け、改めて変わりたいと奮起する。
それから四年後、従姉のお見合い相手に探りを入れて欲しいと頼まれて再び京都へ。
訳あり跡取り息子と、少し惚けた箱入り娘のすれ違い恋物語
雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった
九戸政景
恋愛
新人小説家の由利美音は、ある日の夜に一人の女性を拾う。太刀川凛莉と名乗る女性との共同生活が始まる中、様々な出会いを果たしながら美音は自身の過去とも向き合っていく。
君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~
松本ユミ
恋愛
デザイン事務所で働く伊藤香澄は、ひょんなことから副社長の身の回りの世話をするように頼まれて……。
「君に好意を寄せているから付き合いたいってこと」
副社長の低く甘い声が私の鼓膜を震わせ、封じ込めたはずのあなたへの想いがあふれ出す。
真面目OLの恋の行方は?
私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜
みかん桜
恋愛
身長172センチ。
高身長であること以外ごく普通のアラサーOL、佐伯花音。
婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。
「名前からしてもっと可愛らしい人かと……」ってどういうこと?
そんな男、こっちから願い下げ!
——でもだからって、イケメンで仕事もできる副社長……こんなハイスペ男子も求めてないっ!
って思ってたんだけどな。気が付いた時には既に副社長の手の内にいた。
【完結】1日1回のキスをしよう 〜対価はチョコレートで 〜
田沢みん
恋愛
ハナとコタローは、 お隣同士の幼馴染。 親から甘いもの禁止令を出されたハナがコタローにチョコレートをせがんだら、 コタローがその対価として望んだのは、 なんとキス。
えっ、 どういうこと?!
そして今日もハナはチョコを受け取りキスをする。 このキスは対価交換。 それ以外に意味はない…… はずだけど……。
理想の幼馴染み発見!
これは、 ちょっとツンデレで素直じゃないヒロインが、イケメンモテ男、しかも一途で尽くし属性の幼馴染みと恋人に変わるまでの王道もの青春ラブストーリーです。
*本編完結済み。今後は不定期で番外編を追加していきます。
*本作は『小説家になろう』でも『沙和子』名義で掲載しています。
*イラストはミカスケ様です。
わたしたち、いまさら恋ができますか?
樹沙都
恋愛
藤本波瑠《ふじもとはる》は、仕事に邁進するアラサー女子。二十九歳ともなればライフスタイルも確立しすっかり独身も板についた。
だが、条件の揃った独身主義の三十路には、現実の壁が立ちはだかる。
身内はおろか取引先からまで家庭を持って一人前と諭され見合いを持ち込まれ、辟易する日々をおくる波瑠に、名案とばかりに昔馴染みの飲み友達である浅野俊輔《あさのしゅんすけ》が「俺と本気で恋愛すればいいだろ?」と、囁いた。
幼かった遠い昔、自然消滅したとはいえ、一度はお互いに気持ちを通じ合わせた相手ではあるが、いまではすっかり男女を超越している。その上、お互いの面倒な異性関係の防波堤——といえば聞こえはいいが、つまるところ俊輔の女性関係の後始末係をさせられている間柄。
そんなふたりが、いまさら恋愛なんてできるのか?
おとなになったふたりの恋の行方はいかに?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる