求婚されても困ります!~One Night Mistake~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第1章 すべては勘違いから

5.押し倒すイケメン

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夜も遅いので道は混んでなく、二十分くらいでマンションまで帰り着いた。

「ちょっと!
しっかり歩いてください!」

「……迷惑をかけて……すまない……」

どうにか彼を支え、部屋の前まで来たものの。

「課長!
鍵!
鍵、出してください!」

「んー?」

ぐでんぐでんの彼は、鞄から鍵を出してくれそうにない。
少し考えて仕方なく、自分の部屋へ上げた。

「水、飲んだら帰ってくださいね」

キッチンで水を汲み、リビングに転がした楠木課長に渡そうとした瞬間、彼がむくりと起き上がる。

「……キス、したい」

「……へ?」

迫ってきた顔を、間抜けにもただ見つめていた。

「キス、していいか」

「……へ?」

どんどん追いやられ、どん、と胸を押される。
身体は簡単に倒れ、ゴン!とあたまを床に強打した音が響いた。

「いったー……」

後ろあたまがズキズキ痛む。
しかし課長はかまわずに私の顔の両側に手をつき、レンズの向こうから熱で潤んだ瞳で私を見ている。

……逃げられない。

怯えた目で、課長を見上げた。

「キス、したいんだ」

「……!」

再度、課長が同じことを言い、私の意思を無視して唇が重なる。
すぐに酒臭い息と共に舌がぬるりと入ってきた。

「……はぁ……はぁ……」

彼が唇の角度を変えるたび、熱のこもった吐息が漏れる。
気持ち悪いなどという嫌悪感はなく、それよりも……気持ちいい。

「……」

唇が離れ、少しのあいだ見つめあう。
もどかしそうに課長が眼鏡を外し、その意図に気づいた。
拒否するべきだとわかっていたが、それよりも気持ちのいいキスで流されようとしている自分もいる。
しゅるりと課長がネクタイを緩め、いよいよ決断を迫られる。

「……ぐぅ」

「……へ?」

しかしながら課長はそのままバタンと倒れ、私の上で気持ちよさそうに寝息を立てだした。

「ああ、うん。
あれだけ飲んでたら、そうなりますよねー」

苦労して彼の身体の下から抜け出て転がっている眼鏡を拾い、畳んでテーブルの上に置く。
しかし、この私に欲情できるなんて変な人だ。
あれか?
酔うとキス魔になる人とか?

「まあ、いいけどさー」

また苦労してどうにかスーツなんかを脱がす。
しわになったらいけないからね。
課長は三つ揃えだからか下シャツを着ない派だった。
黒のボクサーパンツ一枚は寒そうだが、彼に入りそうな服などうちにはないし、着せる苦労も遠慮したい。

「で、どうするよ?
これ」

布団はかけてやるとして、それでもこの時期に板間で一晩過ごすのは風邪を引きそうだ。
けれどスーツを脱がせるだけでこんなに大変だったのに、布団に寝かせるのは無理。

「仕方ない、よね」

来客用の布団を持ってきて、また苦労しながら転がして蓑虫状にくるんでやる。
しっかし、さっきからごろんごろん乱暴に転がされても全然起きないんだもんなー。
次からはこんな迷惑をかけられないように、飲み会はさりげなく見張っとかないとな。

「さてと」

私もシャワーを浴び、ベッドに潜ったんだけど……。



「寒い!」

早朝のひと言で、目が覚めた。
唐突に寝室とリビングのあいだの引き戸が勢いよく開き、楠木課長が入ってくる。

「えっ、ちょっと!」

慌てる私を無視して、彼はベッドに潜り込んできた。

「なに考えてるんですか!?」

「……温かい……」

寝ぼけているのか、ひと言だけ漏らしてにへらと実に締まらない顔で笑い、彼は私に身体をくっつけて再び寝息を立てだした。

「私がソファか……。
……!」

諦めてリビングに移動しようとしたが、がっちりと課長が私に抱きついて離れない。
そのまま眠ることもできず、日が昇った。
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