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第3章 友情婚と恋愛婚
3.上司としての楠木さん
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お昼前に熊田さんと一緒に楠木さんは出ていったけど、……大丈夫かな。
時間的に一緒にお昼を取って、なんだろうが、あのあとなら熊田さんは食べた気がしないかもしれない。
「香坂さん」
夕方、帰ってきた楠木さんから呼ばれ、課長席の前に立つ。
「これ」
差し戻されたのは午前中に提出した、承認待ちの書類だった。
「この型番の便器は十二月で生産終了しています」
冷たい彼の声に、背筋がすっ、と伸びた。
「人気商品だったので、在庫もかなり減っているはずです。
確保できるか確認しましたか?」
眼鏡の奥から凍てつくような瞳が、私を見ている。
「……申し訳ありません、怠りました」
弁明の余地はないので素直にあたまを下げた。
承認されたあとで欠品、なんてなったら大事だ。
後継のシリーズはあるとはいえ、大幅モデルチェンジで価格が跳ね上がっている。
ここで気づいてもらえてよかった、としか言えない。
「すぐに在庫を確認してください。
確保できないのなら、別のモデルの提案を」
「はい、すぐにやります!」
速攻で席に戻り、キーを叩く。
幸い、必要数の在庫はまだあった。
けれど本当にギリギリで、少しでも遅ければなくなっていたかもしれない。
「……セーフ」
ほっと胸を撫で下ろし、仮押さえの依頼をかける。
「北島さん」
「ほーい」
楠木さんが次に呼んだのは、私よりふたつ下の男性社員だった。
「これ。
最近された価格変更が反映されていなかったので、変更しておきました。
先方にも連絡済みです」
「マジっすか!?
アッザース!」
北島さんの軽い言葉遣いにも楠木さんは眉ひとつ動かすことなく、相手にしている。
「次からは気をつけてくださいね」
「ほーい!
きぃつけまーす!」
適当な返事をして、北島さんが席へ戻る。
私の後ろにさしかかり、彼は足を止めた。
「いやー、楠木課長が俺に優しいのって、期待してくれてるってことっすかねー」
きっと、先ほど楠木さんに怒られていた私に対する当てつけだろうが……知らないって、怖い。
現に彼の声が聞こえたほぼ全員が凍りついていた。
「期待されすぎても困るんすけどねー。
まあ、香坂さんも頑張ってください」
「……そ、そうだね」
北島さんはヘラヘラと笑っているが……知らぬは本人ばかり。
楠木さんが彼に優しい……ように見えるのは、彼を見限ったからだ。
何度言っても直らない、遅刻にミス。
さっきと同じミスはこのひと月でもう、五回目だ。
三回目までは楠木さんも自分で訂正させていたが、四度目からは諦めたようだ。
それでも本人が反省の色を見せればいいが、あのとおり。
見切った人間に指導はいらない。
あれは北島さんをフォローしているわけじゃなく、お客様や会社に損害が出ないようにしているだけだ。
「あ、もう終業時間っすね。
お疲れ様っしたー」
てきぱきとパソコンを落として北島さんは帰っていったが、……本当にいいと思っているんだろうか。
GW明けに必要な資料ができていないのに。
「えっと……」
「放置していていいです」
突き放す楠木さんの声が響く。
「そろそろ、痛い目を見てもらおうと思っていました」
それは確かに、同意なんですが。
お客様にご迷惑をかけるのはどうかと思うんですよ。
「それに、資料はすでに私が作ってあります」
おおーっ、と感嘆の声が上がる。
でもそれだと、痛い目には遭わないのでは?
「私に考えがあります。
皆さんは安心して、お休みを楽しんでください」
珍しくにっこりと楠木さんが笑い、その場にいた全員の背筋がぞぞぞっ、と寒くなった。
時間的に一緒にお昼を取って、なんだろうが、あのあとなら熊田さんは食べた気がしないかもしれない。
「香坂さん」
夕方、帰ってきた楠木さんから呼ばれ、課長席の前に立つ。
「これ」
差し戻されたのは午前中に提出した、承認待ちの書類だった。
「この型番の便器は十二月で生産終了しています」
冷たい彼の声に、背筋がすっ、と伸びた。
「人気商品だったので、在庫もかなり減っているはずです。
確保できるか確認しましたか?」
眼鏡の奥から凍てつくような瞳が、私を見ている。
「……申し訳ありません、怠りました」
弁明の余地はないので素直にあたまを下げた。
承認されたあとで欠品、なんてなったら大事だ。
後継のシリーズはあるとはいえ、大幅モデルチェンジで価格が跳ね上がっている。
ここで気づいてもらえてよかった、としか言えない。
「すぐに在庫を確認してください。
確保できないのなら、別のモデルの提案を」
「はい、すぐにやります!」
速攻で席に戻り、キーを叩く。
幸い、必要数の在庫はまだあった。
けれど本当にギリギリで、少しでも遅ければなくなっていたかもしれない。
「……セーフ」
ほっと胸を撫で下ろし、仮押さえの依頼をかける。
「北島さん」
「ほーい」
楠木さんが次に呼んだのは、私よりふたつ下の男性社員だった。
「これ。
最近された価格変更が反映されていなかったので、変更しておきました。
先方にも連絡済みです」
「マジっすか!?
アッザース!」
北島さんの軽い言葉遣いにも楠木さんは眉ひとつ動かすことなく、相手にしている。
「次からは気をつけてくださいね」
「ほーい!
きぃつけまーす!」
適当な返事をして、北島さんが席へ戻る。
私の後ろにさしかかり、彼は足を止めた。
「いやー、楠木課長が俺に優しいのって、期待してくれてるってことっすかねー」
きっと、先ほど楠木さんに怒られていた私に対する当てつけだろうが……知らないって、怖い。
現に彼の声が聞こえたほぼ全員が凍りついていた。
「期待されすぎても困るんすけどねー。
まあ、香坂さんも頑張ってください」
「……そ、そうだね」
北島さんはヘラヘラと笑っているが……知らぬは本人ばかり。
楠木さんが彼に優しい……ように見えるのは、彼を見限ったからだ。
何度言っても直らない、遅刻にミス。
さっきと同じミスはこのひと月でもう、五回目だ。
三回目までは楠木さんも自分で訂正させていたが、四度目からは諦めたようだ。
それでも本人が反省の色を見せればいいが、あのとおり。
見切った人間に指導はいらない。
あれは北島さんをフォローしているわけじゃなく、お客様や会社に損害が出ないようにしているだけだ。
「あ、もう終業時間っすね。
お疲れ様っしたー」
てきぱきとパソコンを落として北島さんは帰っていったが、……本当にいいと思っているんだろうか。
GW明けに必要な資料ができていないのに。
「えっと……」
「放置していていいです」
突き放す楠木さんの声が響く。
「そろそろ、痛い目を見てもらおうと思っていました」
それは確かに、同意なんですが。
お客様にご迷惑をかけるのはどうかと思うんですよ。
「それに、資料はすでに私が作ってあります」
おおーっ、と感嘆の声が上がる。
でもそれだと、痛い目には遭わないのでは?
「私に考えがあります。
皆さんは安心して、お休みを楽しんでください」
珍しくにっこりと楠木さんが笑い、その場にいた全員の背筋がぞぞぞっ、と寒くなった。
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