求婚されても困ります!~One Night Mistake~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第3章 友情婚と恋愛婚

4.家では甘い彼氏

今日は一緒に会社を出たので、朝と同じく電車でガードされながら帰る。

「じゃあ、またあとで」

「はいはい」

自分の部屋に帰り、先にお風呂に入った。
明日は休みだからきっと、食後はアニメ鑑賞会だし、そうなると寝落ちる危険性がある。

『麻里恵ー、そろそろできるが、まだ風呂かー』

髪を乾かしていたら、スピーカー越しに楠木さんの声が聞こえてきた。

「あー、もう行きまーす」

『りょーかーい』

ドライヤーをしまい、ゆるゆるな部屋着のまま隣へ向かう。

「今日の晩ごはんはなんですかー」

「生姜焼きー」

テーブルの上に持っていたお皿を置き、目の前に立った楠木さんは私に口付けした。

「ごめんな、今日は厳しいこと言って」

でっかい背中を小さく丸め、楠木さんが項垂れる。

「別に、気にしてないので。
それにあれは、私を思ってのことだってわかっているから大丈夫です」

「麻里恵、優しい……!」

「えっ、あっ、重い……!」

がばりと、もたれかかるように抱きつかれたら溜まらない。

「ほんとは会社でも、めいっぱい麻里恵を可愛がりたいんだけどな。
でも、できないし……」

かなり楠木さんは残念そうだが、できなくてよかった。
それでなくても私たちが付き合っているんじゃないかと最近、噂されているのだ。
まあ、一緒に通勤していたらそうなるよね!
今日もそれで熊田さんからからかわれたわけだし。
でも、楠木さんが釘を刺したから、これからは表だっては減るかな……?

「会社で厳しくする分、家ではいっぱい甘やかすからな!」

はっはっはー、なんて笑っている楠木さんに促され、テーブルに着く。
生姜焼きにポテトサラダ、それにお味噌汁なんて、まるで定食屋のようだ。

「いただきます」

楠木さんは箸使いがとても綺麗なので、私も見習いたい。

「そういえば北島さんの件、本当にいいんですか」

彼は去年の春、中途採用で入ってきた。
がしかしあれなので、前の課長は本気で、「採用した奴を連れてこい!」と嘆いていた。
なのにいまだにクビになっていないのはひとえに、彼が上の人間に取り入るのが上手いから。
部長のお気に入りとなれば、そう簡単にはクビにできない。

「ん?
奴は黙っていれば誰かが必ずしてくれる、と思っているからな。
資料ができていないと思い込ませて先方へ行かせ、こってり絞られてもらうさ。
もっとも、その状態で奴が先方へ行っただけで賞賛ものだが」

「……え?」

楠木さんはなんでもないように食事を続けているが、それってどういう意味なんだろう。
約束はしてあるわけだし、先方への説明義務が発生すると思うんだけど。

「奴の性格からいって絶対、逃亡すると思うぞ」

「あ……」

責任は負いたくない。
そんな彼ならそうするかもしれない。
そしてそのまま、出社拒否とか。
そういえば、前の会社ではパワハラ上司を怒鳴りつけて辞めてきた、なんて得意げに武勇伝を語っていた。
想像するにその上司は至極まっとうに説教をし、彼が逆ギレしたんじゃないかなと思われる。

「……楠木さんは性格悪いです」

「ん?
僕は麻里恵以外に優しくする気はないからな」

にやり、と片頬を歪めて実に悪い顔で彼が笑う。
しかし散々、北島さんの尻拭いをさせられてきた私としては、そうなれば気分爽快だ。
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