求婚されても困ります!~One Night Mistake~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第3章 友情婚と恋愛婚

5.甘い生活に慣れたなら

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食後はお取り寄せしたというチョコケーキを食べながら、まったりアニメを見る。

「麻里恵、あーん」

「あーん」

一口大に切って差しだされるケーキを、なんの疑いもせずに口に入れた。

「美味しいか?」

眼鏡の影で目尻を下げ、うっとりと楠木さんは私を見ている。
口をもぐもぐさせながら、黙ってうん、うんと頷いた。

「よかった。
あーん」

「あーん」

次を口に入れてもらったところで、はたと気づく。

……これはヒッジョーに、マズい。

いつのまにか、楠木さんから甘やかされる生活に慣れてしまった。
彼とは、彼が結婚を諦めるまでのお付き合いのはずなのに、このままでは元の生活に戻れそうにない。

「えっ、……と。
楠木、さん」

「ん?」

レンズの向こうで瞳をキラキラさせ、期待いっぱいで見られると怯みそうになるが、ここで引いてはいけない。

「そのー、……まだ私と、結婚する気ですか?」

「もちろんだが?」

なんでそんなことを訊かれるのかわからない、そんな顔で彼は私を見ているが、私だってわからない。
この半月、私が料理をしたのは二度だけだ。
しかもそれも、楠木さんとは比べものにならない、いつもの炒めて丼のみ。
楠木さんが残業で私よりもかなり遅くなったからだが、あんなものを夕食に出されて楠木さんは幻滅しなかったんだろうか。

さらに家着は首回りもだるだるになった着古したスエット、家での会話は仕事関係をのぞけばアニメの話のみ。
これでまだ私と結婚する気だとか、まったく理解できない。

「反対に麻里恵は、まだ僕と結婚する気にならないのか?」

「えーっ、……と」

そんな、もちろんするって言うのよな!みたいな目をして見つめられたって、困る。
正直に言えば、……結婚したい。
ただしそれは快適な生活環境を得るためであって、そこに愛情はない……と、思う。
たぶん。
なんで自信がないのかっていえば、家族愛のような心地よさを感じるからだ。
この人の作ったごはんを、この人と一緒に一生、食べたい。
たまには、私が作ってもいい。
そんな感じ。
でもそこに恋愛感情があるのかといわれればわからないので、返事はできない。

「というかですよ。
一夜の過ちの責任だけで私と結婚して、後悔しないんですか?」

「しない!」

かぶせ気味に力強く言い切られた。
この自信は、どこから?

「麻里恵は食べてしまいたくなるくらい、可愛いからなー。
後悔なんてするはずがない」

「……はっ、……あっ、やめろ!」

証明するかのようにあむあむと耳を甘噛みするのはやめてほしい。
変なスイッチ入っちゃいそうだから。

「いや、この私のどこが可愛いのか、訊きたいですよ……」

必死に顔を手で押さえて楠木さんを引き離す。
そうじゃないとそれ以上までされそうだ。

「ん?
麻里恵は可愛いぞ。
笑った顔も可愛いし、頼んでもないのに僕のために食事を作ってくれたし」

「いや、あれはいつもお世話になっているので、楠木さんが遅いときくらいたまには……」

あれを褒められるのはこそばゆい。
しかも、手抜きだっただけに。

「そうやってすぐに謙遜して、照れるところも最高に可愛い」

めげずに彼が、ちゅっとキスしてくる。

「他人がなんと言おうと、僕から見れば麻里恵は可愛い。
可愛いから結婚したい。
結婚したいから麻里恵にいろいろ尽くしているのに、いい返事がもらえないのは……なんでだろうな?」

「うっ」

きゅるん、とレンズの奥で瞳を潤ませ、可愛い顔をして見つめられ、言葉が詰まった。

「まあ、焦って決めることはない。
僕は麻里恵がその気になるまで、気長に待つつもりだし」

楠木さんの手がリモコンを掴み、見逃してしまったシーンを巻き戻す。

「それより、ほら。
大佐との再会シーンは集中して観たいだろ?」

「そうですね」

ソファーに座り直し、改めてテレビの画面を見る。
そのシーンの少し前から再び再生された。
感動的なシーンで、楠木さんはのめり込んでいたが、私はさっきのことが気になって集中できなかった。
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