求婚されても困ります!~One Night Mistake~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 面倒、だけどいい

1.このままの関係で……って無理だよね

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アニメを観ている楠木さんの顔を、私は見ている。
ついこのあいだ、彼が好きだと自覚した。
ならばいままで、友婚ならできるが彼の求める恋愛結婚は無理、と思っていたハードルが消えるわけで。
かといって彼の求婚を受け入れられるかといえば、複雑だ。
さらに私はまだ、――あの日の真実を彼に話していない。

「ん?」

視線に気づき、楠木さんが僅かに首を傾ける。

「麻里恵、どした?」

「あー、えと。
……なんでもない、です」

笑って誤魔化しつつ、心の中では重いため息をついた。

「そうか?
ここのところ浮かない顔をしていることが多いが、まだやっぱりあれがショックか?」

心配そうに眼鏡の下で眉間に皺を刻み、庇うように彼がその腕の中に閉じ込める。

「えーっ、と……」

会社帰り、不審者につけられたのは十日ほど前の話だ。
週もかわり、ようやく最近は後ろを気にしないでも歩けるようになってきた。
とはいえ、私のほうが遅い日は楠木さんが必ず迎えに来るし、彼のほうが遅い日は待たされるんだけど。

「麻里恵に怖い思いをさせるなんて許せない。
あのとき、捕まえればよかった」

楠木さんはどこまでの真剣だけど、……それで済みそうにない気がするのは、なんでだろう?
「それはもう、大丈夫なので」

「無理はしなくていいからな」

私の頬へちゅっ、と口付けを落とし、ぎゅうぎゅうと彼が私を抱き締める。
前ならすぐに抜け出て拒否していたが、いまはそれが嬉しかったりする。

「おやすみなさーい」

「おやすみ、麻里恵」

夜は必ず、隣だというのに楠木さんは送ってくれた。
ちゃんと私が鍵をかけるまで、ドアの前にいる。

「はぁーっ……」

ひとりになった途端、でっかいため息が落ちていった。

「好きは、好きっちゃけど……」

でも、身体の関係を求められたとして、応えられる気がまったくしない。
それで結婚とか無理なんじゃないだろうか。

「それにさ……」

あの日、およびそうになったとはいえ、実際にしたのはキスだけだ。
その真実を知れば、楠木さんは私と結婚したいなんて言わなくなるだろう。
だってこれは、償いのための結婚なわけだし。

「早く言わなきゃだよね……」

もうこのまま、ずっと黙っていたらいいんじゃないか、とか思ってしまう自分がいる。
真実を告げず、結婚をはぐらかし、いつまでもこの関係で。

……そんなの、無理だってわかっているのに。
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