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第3章 友情婚と恋愛婚
10.これが好きってことなんだ
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「麻里恵」
ほとんど待つことなく、楠木さんが来てくれた。
息を、切らせて。
「楠木さん……!」
ちらり、と彼の視線が外の男へと向かう。
男もこちらを気にしていたみたいで、楠木さんに気づいたからか慌てるようにその場からいなくなった。
「いまの奴か?」
こくこくと黙って頷く。
「とりあえず、なにもなさそうでよかった」
なんの前触れもなく、彼の手が私の手を掴む。
さらに反対の手でスイーツの棚からシュークリームをふたつ掴んで会計を済ませ、店を出た。
「すまなかった。
今日は麻里恵、遅いってわかってたんだから迎えに行くべきだった」
「……別に楠木さんが悪いんじゃないので。
それよりも来てくれて、ありがとうございます」
楠木さんに手を引かれて歩く。
振り払おう、なんて気は起きない。
五分ちょっとでマンションまで帰り着いた。
部屋の前まで来ても彼は手を離さない。
それどころか合い鍵でドアを開け、一緒に部屋の中へ入ってきた。
「……麻里恵が無事でよかった」
ドアが閉まるのも待ちきれないかのように、楠木さんが私を抱き締める。
「ごめんな、怖かったよな。
なんで僕は最初から、迎えに行かなかったんだろうな。
ごめん、本当にごめん」
力一杯抱き締められるのは苦しいはずなのに、温かい腕の中はなぜか安心できた。
そのせいで一気に、気が緩んでくる。
「……怖かった」
「うん」
「怖かった……!」
ぽろりと落ちた涙を皮切りに、涙は次々に落ちていく。
わんわん泣く私を、楠木さんは黙って抱き締めていてくれた。
「落ち着いたか?」
大きな手が私の顔を包み込み、親指が目尻に溜まる涙を拭う。
「……なんか、すみません」
「いや、かまわない」
促されてようやく靴を脱ぎ、部屋に入る。
楠木さんは私をソファーに座らせ、その前に膝をついた。
「食欲はあるか?
ないならなんか、簡単に食べられるものを……」
「……で」
立ち上がった彼の、袖を掴んで止める。
「……いかんで。
傍にいて」
見上げた視線の先、レンズ越しに目があって初めて、自分が言ったことに気づいた。
「あ、嘘。
なんでもない、です」
笑って、慌てて誤魔化す。
いくら不安になっているからって、なんで?
「……行かない。
今日は眠るまで、傍にいてやる。
……とりあえず、いつ寝落ちしてもいいように、着替えろ?」
「そう、します」
正直、眠れるかなんて自信はない。
でも少しでもリラックスしたくて着替えた。
「キッチン借りたぞー」
寝室を出たら楠木さんがカフェオレを淹れてくれていた。
「飲め。
落ち着くから。
んで、食欲あるなら食べろ」
カップを私の前に置き、さらにコンビニ買ったシュークリームを勧めてくる。
「……ありがとうございます」
カフェオレは甘めにしてあって、ほっとした。
おかげで少しだけお腹が空いてきて、もそもそとシュークリームを食べる。
そんな私を楠木さんは黙ってカップを傾けて、見守っていた。
「食べたら今日はもう、寝ろ」
「……そう、ですね」
素直にベッドに入った私の枕元に、楠木さんが座る。
その手がそっと、私のあたまを撫でた。
「……私、自分が狙われたりするなんて、全然考えてなくて」
私に女を見ているのは、楠木さんくらいしかいない。
他にそんな人がいるだなんて考えもしなかった。
「それにそんなことになってもひとりで対処できるって、思っていました」
ゆっくり、ゆっくりとあたまを撫でる手が気持ちよくて、次第に眠くなっていく。
「でも、実際はこんなに弱いだなんて、知らなかった……」
もし、今日。
楠木さんが迎えに来てくれなかったら?
それ以前に楠木さんがいなかったら、私は誰を頼っていたのだろう。
「楠木さんがいてくれてよかった……」
瞼か重くて、もう持ち上がらない。
あんなに不安だったはずなのに、心地いい眠りへと落ちていく。
「僕は麻里恵を守るよ。
この命に替えてでも」
ちゅっ、と口付けが落とされる。
それが酷く、幸せで。
……ああ、きっと。
これが好きってことなんだ……。
満足したまま、意識は眠りの帳の向こうへ閉ざされた。
ほとんど待つことなく、楠木さんが来てくれた。
息を、切らせて。
「楠木さん……!」
ちらり、と彼の視線が外の男へと向かう。
男もこちらを気にしていたみたいで、楠木さんに気づいたからか慌てるようにその場からいなくなった。
「いまの奴か?」
こくこくと黙って頷く。
「とりあえず、なにもなさそうでよかった」
なんの前触れもなく、彼の手が私の手を掴む。
さらに反対の手でスイーツの棚からシュークリームをふたつ掴んで会計を済ませ、店を出た。
「すまなかった。
今日は麻里恵、遅いってわかってたんだから迎えに行くべきだった」
「……別に楠木さんが悪いんじゃないので。
それよりも来てくれて、ありがとうございます」
楠木さんに手を引かれて歩く。
振り払おう、なんて気は起きない。
五分ちょっとでマンションまで帰り着いた。
部屋の前まで来ても彼は手を離さない。
それどころか合い鍵でドアを開け、一緒に部屋の中へ入ってきた。
「……麻里恵が無事でよかった」
ドアが閉まるのも待ちきれないかのように、楠木さんが私を抱き締める。
「ごめんな、怖かったよな。
なんで僕は最初から、迎えに行かなかったんだろうな。
ごめん、本当にごめん」
力一杯抱き締められるのは苦しいはずなのに、温かい腕の中はなぜか安心できた。
そのせいで一気に、気が緩んでくる。
「……怖かった」
「うん」
「怖かった……!」
ぽろりと落ちた涙を皮切りに、涙は次々に落ちていく。
わんわん泣く私を、楠木さんは黙って抱き締めていてくれた。
「落ち着いたか?」
大きな手が私の顔を包み込み、親指が目尻に溜まる涙を拭う。
「……なんか、すみません」
「いや、かまわない」
促されてようやく靴を脱ぎ、部屋に入る。
楠木さんは私をソファーに座らせ、その前に膝をついた。
「食欲はあるか?
ないならなんか、簡単に食べられるものを……」
「……で」
立ち上がった彼の、袖を掴んで止める。
「……いかんで。
傍にいて」
見上げた視線の先、レンズ越しに目があって初めて、自分が言ったことに気づいた。
「あ、嘘。
なんでもない、です」
笑って、慌てて誤魔化す。
いくら不安になっているからって、なんで?
「……行かない。
今日は眠るまで、傍にいてやる。
……とりあえず、いつ寝落ちしてもいいように、着替えろ?」
「そう、します」
正直、眠れるかなんて自信はない。
でも少しでもリラックスしたくて着替えた。
「キッチン借りたぞー」
寝室を出たら楠木さんがカフェオレを淹れてくれていた。
「飲め。
落ち着くから。
んで、食欲あるなら食べろ」
カップを私の前に置き、さらにコンビニ買ったシュークリームを勧めてくる。
「……ありがとうございます」
カフェオレは甘めにしてあって、ほっとした。
おかげで少しだけお腹が空いてきて、もそもそとシュークリームを食べる。
そんな私を楠木さんは黙ってカップを傾けて、見守っていた。
「食べたら今日はもう、寝ろ」
「……そう、ですね」
素直にベッドに入った私の枕元に、楠木さんが座る。
その手がそっと、私のあたまを撫でた。
「……私、自分が狙われたりするなんて、全然考えてなくて」
私に女を見ているのは、楠木さんくらいしかいない。
他にそんな人がいるだなんて考えもしなかった。
「それにそんなことになってもひとりで対処できるって、思っていました」
ゆっくり、ゆっくりとあたまを撫でる手が気持ちよくて、次第に眠くなっていく。
「でも、実際はこんなに弱いだなんて、知らなかった……」
もし、今日。
楠木さんが迎えに来てくれなかったら?
それ以前に楠木さんがいなかったら、私は誰を頼っていたのだろう。
「楠木さんがいてくれてよかった……」
瞼か重くて、もう持ち上がらない。
あんなに不安だったはずなのに、心地いい眠りへと落ちていく。
「僕は麻里恵を守るよ。
この命に替えてでも」
ちゅっ、と口付けが落とされる。
それが酷く、幸せで。
……ああ、きっと。
これが好きってことなんだ……。
満足したまま、意識は眠りの帳の向こうへ閉ざされた。
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