93 / 129
第14話 お姉ちゃん?
4.押部家の内情
しおりを挟む
「そういえば侑岐さん、こっちの野々村さんって……」
途中、野々村がティーセットをワゴンで運んできてくれた。
ケーキスタンドの上の、色とりどりのプチケーキについ、顔がゆるんでしまう。
「やっぱりその話は気になるわよね……」
紅茶を一口飲んだ侑岐が、困ったように笑った。
野々村は結局、あとはやるからと侑岐に追い出されている。
「その、野々村さんにお子さんがいるんだったら、跡取りを尚一郎さんにって、こだわらなくていいんじゃないかって思うんですけど」
「それはそうなんだけど。
……野々村は彼女と子供、達之助おじいさまに殺されたから」
「え?」
侑岐の云っている意味がわからない。
いや、わかるからこそ理解したくない。
「野々村の彼女は本邸の使用人だったの。
でも、ある日、達之助おじいさまが」
「……」
かたかたとカップを持つ手が震える。
きっと昨晩、尚恭が助けてくれなければ、自分も同じ目に遭っていた。
「朋香?
大丈夫?」
「あ、……はい」
隣に座る侑岐の眉が心配そうに寄り、そっと肩を抱かれた。
温かい侑岐に、震えが治まる。
「やっぱりこの話、やめましょう?」
「続けて、ください。
きっと私が、知らなきゃいけないことだから」
ふるふると首を振り、侑岐の顔を見つめると、はぁっと小さくため息をつかれた。
「そうね。
当事者である朋香には、押部の複雑な事情を知る権利があるわ。
続けるけど、つらかったら云って。
すぐにやめるから」
「はい」
侑岐に手を握られると安心できる。
甘えるように肩に寄りかかると、ふふっと侑岐が苦笑いした。
「それでね。
何度も達之助おじいさまから陵辱された彼女は、妊娠してることに気付いたの。
思い悩んだ彼女は、その」
「……なんとなくわかります」
達之助はどれだけの人間を不幸にすれば気が済むのだろう。
腹が立つよりも、そんなことを簡単にしてしまう、達之助が恐ろしい。
「結局、達之助おじいさまが彼女に手を出し始めた時期と妊娠した時期に少しだけズレがあって、子供は野々村の子供なのか達之助おじいさまの子供かはわからない。
それでも、野々村は自分の子供だって信じてたみたい」
「……はい」
「これが、尚一郎が引き取られた年にあったこと。
達之助おじいさまは彼女が子供を産んでいれば、尚一郎をドイツに追い返せたって激怒していたらしいけど」
「酷い……」
血の通った人間なのだろうか、達之助は。
どうやったらあんな人間になるのだろう。
「でも、だったら野々村さんはお祖父さんを恨んでるんじゃ。
そもそも、野々村さん……えっと、うちの野々村さんだって、お祖父さんを恨んでるんじゃ」
「両方野々村じゃ、ややこしいわよねー。
本邸では野々村親、野々村子って呼び分けてるらしいけど、あんまりよね。
名前で呼べばいいんじゃない?
昌子と優希」
本邸の呼び方はさすがに酷いと思う。
いや、あの達之助の支配下にあるのだから当たり前といえば当たり前かもしれないが。
「じゃあ。
だいたい、お祖父さんにそんなことされて、どうして昌子さんはまだ、押部家に仕えているんですか?」
そもそもそこから謎なのだ。
達之助に暴行されてなお、押部家に仕え続けるなどと。
優希を押部家当主にするなどと、野心でもあるのだろうか。
日頃の昌子を見ていると、全くそんなことは想像できないが。
「そこはよくわかんないのよねー。
優希も達之助おじいさまは認知してないみたいだし。
それに対して昌子もなにも云わないみたいなのよね」
「どうしてなんでしょう?」
「ただいえるのは、野々村の家はそれこそ、押部が公家だった頃から仕えてきたってこと。
そういう因習とかしがらみとか?
そんなのに囚われてるのかも」
「……複雑なんですね」
祖先がそうだった、ってだけで恨みがある家に仕え続けるなんて理解できない。
それともなにか、自分には理解できないよっぽどの事情があるのだろうか。
「でも、尚恭おじさまは優希を、実の弟として可愛がっているわ。
そこだけは救いかも」
「そうですね」
笑う侑岐に笑って答える。
押部家の複雑怪奇な人間関係は、朋香には理解できない。
セレブがそうなのか、押部家が特殊なのか。
とにかく、そんな中で生きていくには、尚一郎に守れるだけではダメだと思う。
自分ももっと、強くならなければ。
途中、野々村がティーセットをワゴンで運んできてくれた。
ケーキスタンドの上の、色とりどりのプチケーキについ、顔がゆるんでしまう。
「やっぱりその話は気になるわよね……」
紅茶を一口飲んだ侑岐が、困ったように笑った。
野々村は結局、あとはやるからと侑岐に追い出されている。
「その、野々村さんにお子さんがいるんだったら、跡取りを尚一郎さんにって、こだわらなくていいんじゃないかって思うんですけど」
「それはそうなんだけど。
……野々村は彼女と子供、達之助おじいさまに殺されたから」
「え?」
侑岐の云っている意味がわからない。
いや、わかるからこそ理解したくない。
「野々村の彼女は本邸の使用人だったの。
でも、ある日、達之助おじいさまが」
「……」
かたかたとカップを持つ手が震える。
きっと昨晩、尚恭が助けてくれなければ、自分も同じ目に遭っていた。
「朋香?
大丈夫?」
「あ、……はい」
隣に座る侑岐の眉が心配そうに寄り、そっと肩を抱かれた。
温かい侑岐に、震えが治まる。
「やっぱりこの話、やめましょう?」
「続けて、ください。
きっと私が、知らなきゃいけないことだから」
ふるふると首を振り、侑岐の顔を見つめると、はぁっと小さくため息をつかれた。
「そうね。
当事者である朋香には、押部の複雑な事情を知る権利があるわ。
続けるけど、つらかったら云って。
すぐにやめるから」
「はい」
侑岐に手を握られると安心できる。
甘えるように肩に寄りかかると、ふふっと侑岐が苦笑いした。
「それでね。
何度も達之助おじいさまから陵辱された彼女は、妊娠してることに気付いたの。
思い悩んだ彼女は、その」
「……なんとなくわかります」
達之助はどれだけの人間を不幸にすれば気が済むのだろう。
腹が立つよりも、そんなことを簡単にしてしまう、達之助が恐ろしい。
「結局、達之助おじいさまが彼女に手を出し始めた時期と妊娠した時期に少しだけズレがあって、子供は野々村の子供なのか達之助おじいさまの子供かはわからない。
それでも、野々村は自分の子供だって信じてたみたい」
「……はい」
「これが、尚一郎が引き取られた年にあったこと。
達之助おじいさまは彼女が子供を産んでいれば、尚一郎をドイツに追い返せたって激怒していたらしいけど」
「酷い……」
血の通った人間なのだろうか、達之助は。
どうやったらあんな人間になるのだろう。
「でも、だったら野々村さんはお祖父さんを恨んでるんじゃ。
そもそも、野々村さん……えっと、うちの野々村さんだって、お祖父さんを恨んでるんじゃ」
「両方野々村じゃ、ややこしいわよねー。
本邸では野々村親、野々村子って呼び分けてるらしいけど、あんまりよね。
名前で呼べばいいんじゃない?
昌子と優希」
本邸の呼び方はさすがに酷いと思う。
いや、あの達之助の支配下にあるのだから当たり前といえば当たり前かもしれないが。
「じゃあ。
だいたい、お祖父さんにそんなことされて、どうして昌子さんはまだ、押部家に仕えているんですか?」
そもそもそこから謎なのだ。
達之助に暴行されてなお、押部家に仕え続けるなどと。
優希を押部家当主にするなどと、野心でもあるのだろうか。
日頃の昌子を見ていると、全くそんなことは想像できないが。
「そこはよくわかんないのよねー。
優希も達之助おじいさまは認知してないみたいだし。
それに対して昌子もなにも云わないみたいなのよね」
「どうしてなんでしょう?」
「ただいえるのは、野々村の家はそれこそ、押部が公家だった頃から仕えてきたってこと。
そういう因習とかしがらみとか?
そんなのに囚われてるのかも」
「……複雑なんですね」
祖先がそうだった、ってだけで恨みがある家に仕え続けるなんて理解できない。
それともなにか、自分には理解できないよっぽどの事情があるのだろうか。
「でも、尚恭おじさまは優希を、実の弟として可愛がっているわ。
そこだけは救いかも」
「そうですね」
笑う侑岐に笑って答える。
押部家の複雑怪奇な人間関係は、朋香には理解できない。
セレブがそうなのか、押部家が特殊なのか。
とにかく、そんな中で生きていくには、尚一郎に守れるだけではダメだと思う。
自分ももっと、強くならなければ。
1
あなたにおすすめの小説
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。
ねーさん
恋愛
「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。
卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。
親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって───
〈注〉
このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった
九戸政景
恋愛
新人小説家の由利美音は、ある日の夜に一人の女性を拾う。太刀川凛莉と名乗る女性との共同生活が始まる中、様々な出会いを果たしながら美音は自身の過去とも向き合っていく。
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる