契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第16話 新婚旅行へゴー!

4.本音

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夕食はワインが有名な町だからか、ワインがでた。
ここら辺りでは珍しい、赤ワイン。
会えなかった二十年を埋めるように話すカーテの話を、ワインを傾けながら聞いていた。

「母さん、子供の頃の失敗まで話すなんて……」

翌日の朝食を約束して部屋に戻ると、尚一郎のあたまががっくりと落ちた。

「子供の頃の尚一郎さんって、すごく可愛かったんですね。
天使みたいだって云ってましたよ」

「恥ずかしすぎる……」

両手で顔を覆って隠してしまった尚一郎の耳は、酔っているだけではないように真っ赤に染まっていた。
そんな姿がまた新鮮で、ついくすくすと笑ってしまう。

「そういえば昼間、母さんとなにを話していたんだい?」

ごくごくと冷たい水を飲むと少し落ち着いたのか、改まって尚一郎が聞いてきた。

「んー、内緒ですよ」

きっと、カーテは朋香にだけに、胸の内を話してくれたんだと思う。
だから、話すべきじゃないと判断を下した。

「とーもーかー」

「うっ」

ジト目で睨まれると困るが、やはり話すつもりはない。
けれど。

「尚一郎さんってお義母さんが嫌いですか?」

「なんでそう思うんだい?」

「なんとなく、態度が硬い気がします。
会いに来るのも凄く、渋ってたし」

はぁーっ、深いため息を落とすと、尚一郎は朋香を膝の上に抱き上げた。

ぎゅっと抱き締められるとやはり、複雑な心境なのだと気が付いた。
抱き付いている尚一郎はまるで、縋るようだったから。

「二十年も会わなきゃ、そりゃどうしていいのかわからないよ。
でもこれは、僕が悪いんだよね」

「……」

「オシベの家のことを聞いていても、僕はいまいち理解してなかったんだ。
日本に来て現実を突きつけられて、こんなところに送り出した母さんを恨みもしたよ」

朋香に抱き付く尚一郎の手に力が入って、胸がずきんと痛んだ。

「でも一番腹が立ったのは、そんな日本に行く僕にあの人、『頑張って会社経営してみなさい?
きっと、尚恭にも私の足下にもおよばないでしょうけどね』
って高笑いしたんだよ!」

「あー……」

がばりと顔を上げた尚一郎はぷりぷり怒っているが、それは仕方ないだろう。

カーテの自業自得だ。

もしかして、尚一郎が尚恭に対して態度が硬いのも、淋しさや裏切られたという気持ちよりも、同じことを云われたんじゃないだろうかと想像してしまった。

「でも今回、母さんに会おうと思ったのは朋香のおかげだよ。
遠く離れてても会おうと思えば会えるんだから、ちゃんと会っとかないとね。
……もう二度と、お母さんと会えない朋香とは違うんだから」

改めて云われると、もうずっと心の奥底にしまい込んでしまっていた感情がじわじわと漏れ出してくる。

「母に尚一郎さんを紹介したかったです。
こんなに素敵な人と結婚しました、って。
絶対にお父さんとお母さんみたいに幸せな夫婦になります、って」

甘えるように抱き着くと、ゆっくりと尚一郎の手が朋香の髪を撫でる。

「天国のお義母さんに誇れるような夫婦になろうね」

「……はい」

じっと、尚一郎が眼鏡の奥から見つめている。
見つめ返して目を閉じた……瞬間。

コンコンコン。

「尚一郎!
云い忘れたことがあったわ!」

ノックの音とカーテの声に目を開けると、尚一郎が残念そうに深いため息を落とした。

「……だから母さんは嫌なんだ」
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