契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第16話 新婚旅行へゴー!

5.サプライズ

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翌朝は朝食がすんだとたん、カーテにまた拉致られた。

「母さん!
何度云ったらわかるんですか!?」

抗議する尚一郎を後目に、カーテは朋香をずるずると引きずっていく。

「うるさいわねー。
尚一郎は部屋に衣装を用意してあるからそれに着替えてて。
わかった?」

くるりと振り向いたカーテが尚一郎の鼻先に、命じるように人差し指をビシッと突きつけた。

「……衣装ってなんですか?」

ジト目で睨む尚一郎にカーテはなぜか、楽しそうにニヤニヤと笑っている。

「すぐにわかるわ。
それに、朋香はちょっと借りるだけだから大丈夫。
……いらっしゃい、朋香」

「母さん!」

カーテにまた引きずられながら振り返ると、尚一郎も従業員に引きずられながら去っていくところだった。

「心配しなくても大丈夫ですよ!
昨日も平気でしたから!」

「ともかー」

情けない声で角を曲がる尚一郎を見送りながら、朋香もエレベーターに乗せられていた。

「さあ朋香、準備するわよ」

「えっ、ちょっと!」

部屋に入るとカーテの手が朋香の服にかかり、あっという間に下着一枚にされてしまった。

「あの……」

後ろからやわやわと胸を揉まれると、抵抗していいのか困ってしまう。

「侑岐の見立ては正しかったみたいね。
これならきっと、サイズぴったりだわ」

「はい?」

どうしていま、侑岐の名前が出てくるのかわからない。

カーテが準備してあった箱を開けると、白のビスチェが出てきた。
ほかにもガーターベルトやフレアスカートなど、カーテに指示されるままに着けていく。

「苦しくないからしら?」

「はい、大丈夫です」

ビスチェの背中のホックを留めてもらう頃にはなんとなくだけれど、どういう状況になっているのか想像はできた。
下着の準備ができるとスタイリストらしき女性が入ってきて、隠すように衣装ラックにかけられていた布を外す。

「私と尚恭からのプレゼントよ。
気に入ってくれたかしら?」

中から現れた、予想通りの真っ白なドレスに、朋香はこくこくと頷いていた。


準備が終わり、待ち合わせにしているというロビーに降りると、タキシードの尚一郎が待っていた。

「朋香、Su……いたっ」

「はいはい、せっかくきれいにセットした髪が乱れちゃうから抱きつかないで」

「酷い……」

カーテに軽くあしらわれ、ふて腐れてしまった尚一郎に苦笑いが漏れる。

「凄くきれいだよ、朋香」

そっと頬にふれた、尚一郎の唇が朋香の唇にふれ、みるみるうちに顔に熱が上がっていく。

「しょ、尚一郎さんも、格好いい……です」

光沢のあるグレーのタキシードに身を包む尚一郎は、朋香の目からはまるで王子様のように見えた。
おかげで、目のやり場に困ってしまう。

「ところで。
これはいったい、どういうことなんですか?」

すてきな尚一郎にドキドキとしていた朋香だが、改めてカーテに向き直った尚一郎に我に返った。

突然ドレスに着替えさせられたものの、説明はいまだに一切ない。

「だって尚一郎、甲斐性なしだから式を挙げてないらしいじゃない?
確かに、結婚式は必ず挙げなきゃいけないものじゃないけど、花嫁は女の子の憧れよ」

「うっ」

尚一郎は言葉を詰まらせると、ばつが悪そうに視線を泳がせた。

そういえば式はふたりで挙げようとは云ってくれたが、それっきりになっている。
いろいろなことがありすぎて、すっかり忘れていた。

「私は事情が事情だったから、もちろん式なんて挙げてない。
別にそれに不満はない。
最愛の尚恭の子供……尚一郎、あなたを授かれたから。
でもやっぱり、ウェディングドレスを着てみたかったって気持ちはあるわ」

すっかり尚一郎は落ち込んで俯いてしまっている。
しかし朋香は自分と同じ思いをしないようにと、気遣ってくれるカーテの気持ちに胸がじーんと熱くなった。

「だから、尚恭と計画したの。
ちなみに、知らないのはあなたたちだけよ。
侑岐も、尚一郎の秘書の犬飼も協力してくれたわ」

「だからか……」

がっくりとうなだれる尚一郎のだからは、なにがだからなのかわからないが、侑岐については心当たりがあった。

一緒にエステに行った日、妙にボディチェックをされたのだ。

あと何キロ増やすようにとか、予約を入れておくからまめにエステに行って身体を磨きなさいだとか。

もしかしてあの頃から計画されていたんだろうか。

「その、……ありがとうございます、お義母さん」

「トモカ、カワイイ!!」

「えっ」

いきなり抱きつかれたかと思ったら、カーテから頬にキスされていた。

「離れて、母さん!」

「えー、ただの挨拶じゃない」

尚一郎に引き剥がされて不満そうなカーテに、ただ笑うことしかできなかった。
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