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第二章 目指せ玉の輿
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予告どおり、五時頃に御子神社長が戻ってきた。
一旦、望と美妃を連れて実家へ行く手はずになっているんだけれど。
「どうしたんですか、これ?」
彼の車の助手席と後部座席には、チャイルドシートが設置してあった。
「ん?
買った。
大事な清子の弟妹を乗せるんだからな」
「はぁ……」
下がってもない眼鏡を大きな手で覆うように上げ社長は得意満面といった感じだが、そこまでする必要がどこにあるのか、私にはわからない。
それでもありがたく、助手席に望を、後部座席に美妃を乗せ、その横に私も収まる。
「実家までの道案内、頼むな」
「はい。
とりあえずこの道を真っ直ぐで、ふたつ目の角を右です」
「わかった」
私の案内で社長が車を走らせる。
実家のアパートまで徒歩十分程度なので、すぐに着いた。
こちらもうちと負けず劣らずのボロアパートだ。
「ママー、ただいまー」
私がドアを開けるのも待ちきれないみたいで、鍵が開いた途端に速攻で望が中へ入っていく。
「ただいま、真由さん」
「清ちゃん、今日は望と美妃を預かってくれてありがとうね」
私が抱いていた美妃を真由さんが受け取る。
すぐに後ろに立っていた御子神社長に気づき、そちらを見た。
「清ちゃん、こちらの方が?」
「あー、うん。
いわゆる〝紹介したい人〟ってヤツです」
どういう顔をしていいのかわからず、適当に笑っておいた。
「はじめまして、母上。
御子神彪夏と申します。
よろしければこちらをどうぞ」
いつ用意したのか社長が花束を真由さんに差し出し、彼女は器用に片手で美妃を支えてそれを受け取った。
「まあ……」
ぽっと真由さんは頬を赤らめているが、スーツ姿のイケメンからにっこり笑って花束を差し出されれば、そうなるだろう。
御子神社長が呼んだタクシーが来るまで、部屋に上がって待っていてもらった。
激狭2DKのおんぼろアパートとスーツのイケメンとのミスマッチは改めて笑える。
「おじちゃん、僕の宝物見せてあげる!」
意気揚々と望がおもちゃ箱から、飛行機の模型を持ってくる。
ちなみにフリマで飛行場セットとして二機の飛行機とその他で百円だったものだ。
「おっ、これは……」
社長は望を膝に乗せて機種の特定に入っているが、職業柄なんだろう。
それにしても初めはあんなに警戒していたのに宝物を見せる程度に懐くなんて、大好きな飛行機のキーホルダーをもらったからだろうか。
「清ちゃん、あんなイケメンとどこで知り合ったの?」
美妃の相手をしながら真由さんが聞いてくる。
「勤めてる会社の社長なの。
それで」
「まあ、社長さんなの……!」
真由さんは両手を胸の前であわせ、驚きの声を上げた。
「でも清ちゃんを幸せにしてくれる人なら、私は誰だってかまわないわ」
ふわふわうふふと笑う真由さんにため息が出る。
こういう人だから後先考えずに父などと結婚して、こんな結果になるのだ。
私はそうならないためにも結婚相手には、楽に暮らせる経済力と常識を最低限求める。
それからいくと、御子神社長はこの条件をクリアしているんだよね……。
いや、だからといって彼と本気で結婚したとかいう気持ちはまったくないけれど。
十分も待たずにタクシーが到着を告げた。
「店には話を通してありますから、心配せずに先に行っていてください。
私たちも息子さんたちを拾ってすぐに追いかけます」
真由さんたちをタクシーに乗せ、爽やかに御子神社長は説明している。
「なにからなにまですみません」
「いえ、将来の母親のためですから。
じゃあ運転手さん、これでお願いします」
さらに運転手に一万円札を渡し、社長はタクシーを送り出した。
「タクシー代までありがとうございます」
「いや、いいんだ。
それより弟たちを早く迎えに行こう」
促されて彼の車に乗る。
御子神社長へ向かう場所の指示を出しながら、弟たちに今から向かうと連絡を入れた。
彼らにはスマートフォンを持たせている。
といっても格安携帯会社の通信量1ギガプラン、さらに機体は中古の安いヤツだが。
いまどき、携帯を持っていないと不自由が多い。
それに健太と巧とは連絡が取れないとなにかと困るので、就職して若干余裕が出たのを機に携帯を持たせた。
小学生の真には贅沢品じゃないかと思われるかもしれないが、あの子は父の血を誰より濃く受け継いだいたのかよくいなくなるのだ。
なので携帯を持たせ、居場所を把握していた。
「清子姉さん。
この人が紹介したいって人?」
「う、うん」
巧の冷たい声でびくんと背中が揺れる。
素直に車には乗ってくれたが、なぜか健太と巧は機嫌が悪かった。
反対に真はといえば。
「すっげー!
かっけー!」
……男子小学生らしく高級外車に興奮していた。
「真、うるさい」
「だって巧にぃ、大家さんの車と全然違うじゃん!
オレ、こんな格好いい車、初めて乗る!」
「はぁっ」
言っても無駄だと気づいたのか、巧が諦め気味にため息をつく。
健太はずっと窓の外を見たまま、口すら開かない。
「なんかいろいろ……すみません」
健太も巧もいつもは愛想いい。
なのに今日はどうしちゃったんだろ?
「いや、いい。
いろいろ思うところがあるんだろう」
「思うところ……?」
社長が気にしていないのはよかったが、私よりも弟たちを理解しているようなところには少しムッとした。
でも、私が女だからわからないだけで、同じ男の社長だからわかる部分もあるのかな……。
一旦、望と美妃を連れて実家へ行く手はずになっているんだけれど。
「どうしたんですか、これ?」
彼の車の助手席と後部座席には、チャイルドシートが設置してあった。
「ん?
買った。
大事な清子の弟妹を乗せるんだからな」
「はぁ……」
下がってもない眼鏡を大きな手で覆うように上げ社長は得意満面といった感じだが、そこまでする必要がどこにあるのか、私にはわからない。
それでもありがたく、助手席に望を、後部座席に美妃を乗せ、その横に私も収まる。
「実家までの道案内、頼むな」
「はい。
とりあえずこの道を真っ直ぐで、ふたつ目の角を右です」
「わかった」
私の案内で社長が車を走らせる。
実家のアパートまで徒歩十分程度なので、すぐに着いた。
こちらもうちと負けず劣らずのボロアパートだ。
「ママー、ただいまー」
私がドアを開けるのも待ちきれないみたいで、鍵が開いた途端に速攻で望が中へ入っていく。
「ただいま、真由さん」
「清ちゃん、今日は望と美妃を預かってくれてありがとうね」
私が抱いていた美妃を真由さんが受け取る。
すぐに後ろに立っていた御子神社長に気づき、そちらを見た。
「清ちゃん、こちらの方が?」
「あー、うん。
いわゆる〝紹介したい人〟ってヤツです」
どういう顔をしていいのかわからず、適当に笑っておいた。
「はじめまして、母上。
御子神彪夏と申します。
よろしければこちらをどうぞ」
いつ用意したのか社長が花束を真由さんに差し出し、彼女は器用に片手で美妃を支えてそれを受け取った。
「まあ……」
ぽっと真由さんは頬を赤らめているが、スーツ姿のイケメンからにっこり笑って花束を差し出されれば、そうなるだろう。
御子神社長が呼んだタクシーが来るまで、部屋に上がって待っていてもらった。
激狭2DKのおんぼろアパートとスーツのイケメンとのミスマッチは改めて笑える。
「おじちゃん、僕の宝物見せてあげる!」
意気揚々と望がおもちゃ箱から、飛行機の模型を持ってくる。
ちなみにフリマで飛行場セットとして二機の飛行機とその他で百円だったものだ。
「おっ、これは……」
社長は望を膝に乗せて機種の特定に入っているが、職業柄なんだろう。
それにしても初めはあんなに警戒していたのに宝物を見せる程度に懐くなんて、大好きな飛行機のキーホルダーをもらったからだろうか。
「清ちゃん、あんなイケメンとどこで知り合ったの?」
美妃の相手をしながら真由さんが聞いてくる。
「勤めてる会社の社長なの。
それで」
「まあ、社長さんなの……!」
真由さんは両手を胸の前であわせ、驚きの声を上げた。
「でも清ちゃんを幸せにしてくれる人なら、私は誰だってかまわないわ」
ふわふわうふふと笑う真由さんにため息が出る。
こういう人だから後先考えずに父などと結婚して、こんな結果になるのだ。
私はそうならないためにも結婚相手には、楽に暮らせる経済力と常識を最低限求める。
それからいくと、御子神社長はこの条件をクリアしているんだよね……。
いや、だからといって彼と本気で結婚したとかいう気持ちはまったくないけれど。
十分も待たずにタクシーが到着を告げた。
「店には話を通してありますから、心配せずに先に行っていてください。
私たちも息子さんたちを拾ってすぐに追いかけます」
真由さんたちをタクシーに乗せ、爽やかに御子神社長は説明している。
「なにからなにまですみません」
「いえ、将来の母親のためですから。
じゃあ運転手さん、これでお願いします」
さらに運転手に一万円札を渡し、社長はタクシーを送り出した。
「タクシー代までありがとうございます」
「いや、いいんだ。
それより弟たちを早く迎えに行こう」
促されて彼の車に乗る。
御子神社長へ向かう場所の指示を出しながら、弟たちに今から向かうと連絡を入れた。
彼らにはスマートフォンを持たせている。
といっても格安携帯会社の通信量1ギガプラン、さらに機体は中古の安いヤツだが。
いまどき、携帯を持っていないと不自由が多い。
それに健太と巧とは連絡が取れないとなにかと困るので、就職して若干余裕が出たのを機に携帯を持たせた。
小学生の真には贅沢品じゃないかと思われるかもしれないが、あの子は父の血を誰より濃く受け継いだいたのかよくいなくなるのだ。
なので携帯を持たせ、居場所を把握していた。
「清子姉さん。
この人が紹介したいって人?」
「う、うん」
巧の冷たい声でびくんと背中が揺れる。
素直に車には乗ってくれたが、なぜか健太と巧は機嫌が悪かった。
反対に真はといえば。
「すっげー!
かっけー!」
……男子小学生らしく高級外車に興奮していた。
「真、うるさい」
「だって巧にぃ、大家さんの車と全然違うじゃん!
オレ、こんな格好いい車、初めて乗る!」
「はぁっ」
言っても無駄だと気づいたのか、巧が諦め気味にため息をつく。
健太はずっと窓の外を見たまま、口すら開かない。
「なんかいろいろ……すみません」
健太も巧もいつもは愛想いい。
なのに今日はどうしちゃったんだろ?
「いや、いい。
いろいろ思うところがあるんだろう」
「思うところ……?」
社長が気にしていないのはよかったが、私よりも弟たちを理解しているようなところには少しムッとした。
でも、私が女だからわからないだけで、同じ男の社長だからわかる部分もあるのかな……。
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