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第二章 目指せ玉の輿
2-1
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これでは話は終わり、帰ってもらえると思ったのに、今日のうちに義母へ挨拶へ行きたいなどと御子神社長は言いだした。
「え、今日ですか?」
「そ。
早いほうがいいだろ」
「はぁ……」
さもそれが当たり前のように言われたが、そんなに急ぐ必要があるんだろうか……?
「ちょっと義母に聞いてみますね……」
御子神社長がそうしたくても、きっと真由さんには都合がある……と、思いたい。
渋々ながら、真由さんに電話をかけながら美妃と望の様子をうかがう。
望は持ってきたおもちゃで、ひとりで遊んでいた。
美妃はそろそろ起きそうな気がするが、もうちょっとだけ寝ていてほしい。
「あっ、真由さん?
寝てたの起こした……?」
『ううん、お腹空いたからなにか食べようって思ってところー』
携帯の向こうから、ふわふわした声が返ってくる。
それは思ったよりも元気そうで、安心した。
「健太から風邪気味だって聞いたけど、具合はどう?」
『んー、昨日の夜はちょっと熱っぽかったけど、ゆっくり寝かせてもらったらもう平気ー』
「そう、ならよかった」
真由さんは平気と言っているが、油断はできない。
大丈夫と言いながら突然ぶっ倒れるのが真由さんなのだ。
「あの、ね。
その……真由さんに会わせたい人がいて。
今日の都合、どうかな?」
『会わせたい、人……?
……まあ、まあ!』
少し逡巡したあと、みるみる彼女の顔が輝いていっているのが見えなくてもわかった。
『それは大変だわ!
急いでお部屋の片付けしなくっちゃ!
ああ、なんでこんなときに健太も巧もいないのかしら?』
大興奮で真由さんが一気に慌てだす。
「真由さん、落ち着いて」
『そうだ!
お寿司でも取る?
それくらいだったらなんとかなると思うわ』
はぁーっと私の口から重いため息が落ちていった。
きっとこうなるのがわかっていたから、嫌だったのだ。
「あのね、真由さん」
『でも、こんな狭い部屋になんてやはり、失礼かしら?
どうしましょう』
私の言葉など聞く耳持たずで、真由さんの話は続いていく。
どうしようかと悩んでいたら、ちょいちょいと社長から肩を叩かれた。
「今日は俺が夕食に招待するから、なにもしなくていいと伝えてくれ」
「ありがとうございます」
抑えめの声でお礼を言い、また携帯に意識を向ける。
いまだに真由さんはあれこれ思案中だった。
「真由さん。
彼が夕食にご招待しますから、なにもしなくていいですよ、って」
『まあ、まあ!
そんなの、悪いわ!』
「気にしないでいいから。
夕方に迎えに行くね。
じゃあ、そういうことで」
返事は待たずに強引に通話を終える。
そうじゃないと真由さんは永遠に、いかに御子神社長をお迎えするか悩み続けそうだ。
こうやって決定事項にしてしまえば、ちゃんと聞いてくれるから大丈夫。
「お母上、どうだった?」
少し心配そうに、御子神社長が聞いてきた。
「大丈夫です、はい」
曖昧に笑ってそれに答える。
ああやっていろいろ考えてくれるのは真由さんのいいところだが、悪いところでもある。
「一度帰って改めて夕方、迎えに来るな」
まだかなり時間があるがそれまでどうしようかと悩んでいたら、御子神社長が帰ると言ってくれてほっとした。
さすがに結婚の許しを得るために親に会うのに、私服ではマズいと思ったようだ。
「あー、待ち合わせ場所を教えてくれたら、そこに行きますので大丈夫です」
「気を遣っているのか?
可愛いな、清子は」
へらっと締まらない顔で社長が笑う。
どこが可愛いのかわからないので、聞き流しておこう。
「でも俺が迎えに来たいから来るんだから、気にするな」
「いたっ」
その長い指先で軽く額を弾かれ、小さく悲鳴が漏れる。
迎えに来てくれるのは交通費が浮くし、望と美妃を連れてだと非常に助かるが、問題があるのだ。
「そう言ってくださるのはありがたいんですが、問題が。
御子神社長の車には全員、乗れないと思います」
「なんでだ?」
不思議そうに眼鏡の向こうで、彼が数度まばたきをする。
「望とそこの妹、母上と清子と俺だろ?
余裕で乗れるが」
社長の愛車であるドイツ製、白のミドルタイプSUVは五人乗りなのでこの人数なら確かに問題はない。
しかし。
「あと三人弟がいるので、無理かと……」
「……あと三人?」
少しのあいだ固まったあと、彼は長い指を額に考え込んでいる。
「あと三人も弟がいるというのか?」
「はい、そうですが」
何度確認されたところで、私の弟が減ったりするわけではない。
「ということは、清子は六人姉弟なのか?」
「はい、そうなりますね」
御子神社長は驚いているようだが……まあ、そうかもね。
三人姉弟ならまあいるが、六人となるとかなり稀少な部類だろう。
「一度、清子の給料について相談しようか」
なぜか、社長がぽんと私の肩を叩いてくる。
「はぁ……」
相談したところでなにがあるんだろうか。
社長がそうしたいのならいいけれど。
弟たちは現地集合という話も出たがまだ小学生の真が心配なので、真由さんに望と美妃を連れて先に行ってもらい、私が御子神社長と一緒に残りの弟たちをピックアップすることになった。
「じゃあ、五時にまた来る」
「はい、わかりました」
御子神社長を送り出して部屋の中に戻ってくると、ちょうど美妃が目を覚ましたところだった。
「はいはい、おむつ替えようねー」
ぐずりはじめた美妃の傍に膝をつく。
御子神社長の婚約者のフリなんて怒濤の急展開だったが、やっと一時だけれど日常が戻ってきた気がした。
「え、今日ですか?」
「そ。
早いほうがいいだろ」
「はぁ……」
さもそれが当たり前のように言われたが、そんなに急ぐ必要があるんだろうか……?
「ちょっと義母に聞いてみますね……」
御子神社長がそうしたくても、きっと真由さんには都合がある……と、思いたい。
渋々ながら、真由さんに電話をかけながら美妃と望の様子をうかがう。
望は持ってきたおもちゃで、ひとりで遊んでいた。
美妃はそろそろ起きそうな気がするが、もうちょっとだけ寝ていてほしい。
「あっ、真由さん?
寝てたの起こした……?」
『ううん、お腹空いたからなにか食べようって思ってところー』
携帯の向こうから、ふわふわした声が返ってくる。
それは思ったよりも元気そうで、安心した。
「健太から風邪気味だって聞いたけど、具合はどう?」
『んー、昨日の夜はちょっと熱っぽかったけど、ゆっくり寝かせてもらったらもう平気ー』
「そう、ならよかった」
真由さんは平気と言っているが、油断はできない。
大丈夫と言いながら突然ぶっ倒れるのが真由さんなのだ。
「あの、ね。
その……真由さんに会わせたい人がいて。
今日の都合、どうかな?」
『会わせたい、人……?
……まあ、まあ!』
少し逡巡したあと、みるみる彼女の顔が輝いていっているのが見えなくてもわかった。
『それは大変だわ!
急いでお部屋の片付けしなくっちゃ!
ああ、なんでこんなときに健太も巧もいないのかしら?』
大興奮で真由さんが一気に慌てだす。
「真由さん、落ち着いて」
『そうだ!
お寿司でも取る?
それくらいだったらなんとかなると思うわ』
はぁーっと私の口から重いため息が落ちていった。
きっとこうなるのがわかっていたから、嫌だったのだ。
「あのね、真由さん」
『でも、こんな狭い部屋になんてやはり、失礼かしら?
どうしましょう』
私の言葉など聞く耳持たずで、真由さんの話は続いていく。
どうしようかと悩んでいたら、ちょいちょいと社長から肩を叩かれた。
「今日は俺が夕食に招待するから、なにもしなくていいと伝えてくれ」
「ありがとうございます」
抑えめの声でお礼を言い、また携帯に意識を向ける。
いまだに真由さんはあれこれ思案中だった。
「真由さん。
彼が夕食にご招待しますから、なにもしなくていいですよ、って」
『まあ、まあ!
そんなの、悪いわ!』
「気にしないでいいから。
夕方に迎えに行くね。
じゃあ、そういうことで」
返事は待たずに強引に通話を終える。
そうじゃないと真由さんは永遠に、いかに御子神社長をお迎えするか悩み続けそうだ。
こうやって決定事項にしてしまえば、ちゃんと聞いてくれるから大丈夫。
「お母上、どうだった?」
少し心配そうに、御子神社長が聞いてきた。
「大丈夫です、はい」
曖昧に笑ってそれに答える。
ああやっていろいろ考えてくれるのは真由さんのいいところだが、悪いところでもある。
「一度帰って改めて夕方、迎えに来るな」
まだかなり時間があるがそれまでどうしようかと悩んでいたら、御子神社長が帰ると言ってくれてほっとした。
さすがに結婚の許しを得るために親に会うのに、私服ではマズいと思ったようだ。
「あー、待ち合わせ場所を教えてくれたら、そこに行きますので大丈夫です」
「気を遣っているのか?
可愛いな、清子は」
へらっと締まらない顔で社長が笑う。
どこが可愛いのかわからないので、聞き流しておこう。
「でも俺が迎えに来たいから来るんだから、気にするな」
「いたっ」
その長い指先で軽く額を弾かれ、小さく悲鳴が漏れる。
迎えに来てくれるのは交通費が浮くし、望と美妃を連れてだと非常に助かるが、問題があるのだ。
「そう言ってくださるのはありがたいんですが、問題が。
御子神社長の車には全員、乗れないと思います」
「なんでだ?」
不思議そうに眼鏡の向こうで、彼が数度まばたきをする。
「望とそこの妹、母上と清子と俺だろ?
余裕で乗れるが」
社長の愛車であるドイツ製、白のミドルタイプSUVは五人乗りなのでこの人数なら確かに問題はない。
しかし。
「あと三人弟がいるので、無理かと……」
「……あと三人?」
少しのあいだ固まったあと、彼は長い指を額に考え込んでいる。
「あと三人も弟がいるというのか?」
「はい、そうですが」
何度確認されたところで、私の弟が減ったりするわけではない。
「ということは、清子は六人姉弟なのか?」
「はい、そうなりますね」
御子神社長は驚いているようだが……まあ、そうかもね。
三人姉弟ならまあいるが、六人となるとかなり稀少な部類だろう。
「一度、清子の給料について相談しようか」
なぜか、社長がぽんと私の肩を叩いてくる。
「はぁ……」
相談したところでなにがあるんだろうか。
社長がそうしたいのならいいけれど。
弟たちは現地集合という話も出たがまだ小学生の真が心配なので、真由さんに望と美妃を連れて先に行ってもらい、私が御子神社長と一緒に残りの弟たちをピックアップすることになった。
「じゃあ、五時にまた来る」
「はい、わかりました」
御子神社長を送り出して部屋の中に戻ってくると、ちょうど美妃が目を覚ましたところだった。
「はいはい、おむつ替えようねー」
ぐずりはじめた美妃の傍に膝をつく。
御子神社長の婚約者のフリなんて怒濤の急展開だったが、やっと一時だけれど日常が戻ってきた気がした。
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