清貧秘書はガラスの靴をぶん投げる

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第六章 弟たちのため?私は……

6-4

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主役の彪夏さんが登場したので、パーティが始まる。

「それじゃあ。
彪夏兄さん、誕生日おめでとうございます」

「おめでとう!」

巧の声にあわせてお祝いを言いながら、真と望がプレゼントを渡す。

「ありがとう。
プレゼントまで」

受け取ったプレゼントを彪夏さんは確認している。

「望は俺を描いてくれたのか?」

「そうだよ。
ちゃんとひゅうがおにぃちゃんのひこうきもかいたんだー」

「ほんとだな!
これは会社に飾らないといけないな」

得意げに笑っている望の頭を、嬉しそうに彪夏さんが撫でる。

「んで、真のはなんだ?」

「暗号解けないと開けられないようになってるんだ。
あとで頑張って開けてくれ」

「凝ってるな。
開けるのが楽しみだ」

真から受け取った紙を、彪夏さんは大事そうにパンツの尻ポケットにしまった。
 
「これは僕と健太兄さんから」

巧が差し出したのは綺麗にラッピングされた、小さな箱だった。

「開けてもいいか」

「ああ」

丁寧にテープを剥がし、彪夏さんが包装紙を剥いでいく。
箱を開けて出てきたのは、飛行機の形をしたタイピンだった。

「こんなの使うかどうかわかんないけど。
でも、航空会社の社長だし、ネタとして使えるかなと思って」

「いや、嬉しい。
話題作りになるしな。
ありがとう」

「えっ、いや、別に」

彪夏さんからお礼を言われ、いつもはクールな巧が照れている。
それくらい、彼はいい笑顔だった。

「彪夏さん、これ」

今度は真由さんが小さな袋を手渡してくる。

「いつもお世話になっているのに、これくらいしかできなくて申し訳ないけれど」

彪夏さんが開けた袋の中からは、紺地に白で彪夏さんのイニシャルが刺繍してあるハンカチが出てきた。
真由さんはハンドメイドもするので、刺繍は彼女の手によるものだろう。

「これくらいなんて。
嬉しいです、大事にします」

ハンカチを袋へしまい、彪夏さんはタイピンの箱と重ねて置いた。
それにしても真由さんまで誕生日プレゼントを用意しているなんて。
これでますますなにも準備していない私の肩身が狭くなった。
 
「それで、清子は?」

レンズの奥から期待を込めた目が私を見ている。
それに内心、だらだらと汗を掻いた。

「えっと……」

「あれだよ、清子姉さんは彪夏兄さんとふたりっきりのときに、……だよな?」

頷けと巧が視線を送ってくる。
あれは状況を理解して助け船を出してくれているんだと思うが、余計にハードルが上がっただけですが?

「う、うん。
そう。
あとで、改めて」

それでも曖昧に笑ってそれに乗った。
とりあえず今はこれで乗り切り、できた時間でなんとかしなければ。

「そうか。
楽しみにしとく」

「う、うん。
楽しみにしててください」

とか言いつつ、目が泳ぐ。
誕生日当日に渡すからってさらに伸ばせばどうにかなる……かな?
 
プレゼントも渡し終わったので食事になる。
我が家では誕生日といえばたこ焼きなので、もちろん今日もたこ焼きだ。
焼き肉のときに使ったホットプレートは、たこ焼きプレートもついている。

「喜べ、弟ども!
今日は魚肉ソーセージではなく、正真正銘タコだ!」

「おおーっ」

真と望の口からどよめきが起こる。
うちではいつもたこ焼きと言いつつ、魚肉ソーセージが定番だった。

「……ちょっ、巧。
ほんとに大丈夫なの?
お金、出そうか?」

鉄板に種を流し込んでいる巧につい、耳打ちしてしまう。
ケーキの材料もいつもよりもいいものを揃えていたし、さらに今日はオレンジジュースとコーラのペットボトルも鎮座している。
こんなに無駄遣いして、生活費は大丈夫なのか心配になる。

「大丈夫だよ、清子姉さん。
バイト代、もらってるんだし。
明日からはいつもどおりに戻すしね」

「なら、いいけど……」

巧は笑っているけれど、私の心配しすぎなのかな……。
 
たこ焼きなんてB級グルメで彪夏さんは大丈夫なのか心配になったものの。

「うまいもんだな」

「だろ?
もう慣れたよ」

器用に巧がひっくり返すのを、目をまん丸くして彪夏さんは見ている。

「ほら焼けたぞー」

適当な個数ずつ、巧は各自のお皿へたこ焼きを入れていく。

「ひゅうがおにぃちゃん、ソースかけてたべるんだよ」

「おおっ、そうか」

にこにこ笑いながら望が差し出すたこ焼きソースを彪夏さんは受け取った。

「今日は特別にマヨネーズも許す」

「やったー!」

「まことにぃちゃん、ひゅうがおにぃちゃんがさきだよ」

「そうだな。
彪夏にぃ、どうぞ」

大喜びで真の手がマヨネーズにかかったもののすぐに望から注意され、彪夏さんに譲る。

「ありがとう、真」

それを笑って受け取り、彪夏さんはたこ焼きにかけてまた真に渡した。

「うまいな、これ」

たこ焼きは彪夏さんの口にあったらしく、喜んで食べていてよかった。
それどころか。

「なかなか難しいな」

たこ焼きを焼くのも楽しんでいる。

「彪夏にぃ、下手」

「真に言われるのはなんかムカつくな」

真に指摘され、ムキになってたこ焼きをひっくり返している彪夏さんはなんか、微笑ましかった。
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