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第六章 弟たちのため?私は……
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トランプ大会まで開催され、夕方にはお開きになる。
「今日はありがとうな、プレゼントまで」
嬉しそうに彪夏さんは、もらったプレゼントを少し上げてみせた。
「喜んでもらえてよかった。
彪夏兄さんならもっと豪華なバースデーパーティを開いてもらえるんだろうけど」
不安だったのか、巧はほっとした顔をしている。
「いや。
今日のほうが何倍も嬉しい」
眼鏡の奥で目を細め、本当に嬉しそうに彪夏さんは笑った。
彪夏さんと一緒に実家を出た。
「送っていく」
「え、でもすぐそこですから」
「いいから」
断ったものの強引に私の腕を取り、彼は歩いていく。
すぐに近くの駐車場に止めてある、車に乗せられた。
車は私の住んでいるアパートへ向かう角をスルーして進んでいく。
「……どこへ連れていく気ですか?」
私の声は冷ややかだったが、仕方ない。
「さっきまでは家族とのバースデーパーティ。
ここからは恋人同士の時間だ」
「はぁ……」
視線をちらりとこちらに向け、意味深に彪夏さんが左目をつぶってみせる。
「それにどうせ、清子はプレゼントなんて用意してないんだろ?」
「うっ」
それに関してはなにも言い返せないので、おとなしくした。
彪夏さんが私を連れてきたのは、外資の三つ星ホテルだった。
「えっと……」
「まずはディナーだな」
戸惑う私を無視しして彪夏さんはエレベーターへと歩いていく。
「あの。
奢れと言われてもお金ないんですが……」
彼は私の懐具合を知っているはずなのだ。
なのに誕生日を祝えとこんなところへ連れてこられても、困る。
「貧乏な清子に奢れとか言うわけないだろ。
支払いは心配しなくていい」
「はぁ……」
私の顔をのぞき込み、彼がにかっと笑う。
自分の誕生日を自費で祝いたい人の気持ちはわからないが、彪夏さんがいいならいいか……。
彪夏さんが選んだのはフレンチのお店だった。
「素敵な俺の誕生日に」
「お、おめでとうございます」
シャンパングラスを上げる彪夏さんにあわせて私も上げる。
「まさか、清子の家族に祝ってもらえるなんて思わなかったな」
唇を緩ませて小さく、嬉しそうに彪夏さんが笑う。
私だって弟たちがあんなに、彼に懐くだなんて想像もしていなかった。
「これで清子と婚約破棄なんて、ますますできなくなったな」
「そう、ですね」
彪夏さんには心に決めた人がいる。
この婚約はこのあいだのパーティで会った女性社長のような、鬱陶しくつきまとう女性たちを避けるためのものでしかないのだ。
私と結婚するなんて、彪夏さんには不本意なはず。
なのに、嬉しそうなのはなんでなんだろう?
たわいのない会話をしながら、食事は進んでいく。
「今日の清子の服、可愛いな」
「ありがとうございます。
健太が用意してくれたんです」
服を褒められ、嬉しくなる。
やはり、健太の腕はいいのだ。
「俺の見立てに間違いはなかったな」
「え……?」
しかし続く言葉の意味がわからずに、手が止まった。
「健太にこういう服を作ってくれって頼んだんだんだ。
今日のそれはたぶん、健太からの誕生日プレゼントだろうな」
つい、自分の服を見下ろしてしまう。
これって彪夏さんの趣味だったの?
可愛くて気に入っていたけれど、複雑な気分だ。
「健太にはお礼をしないとな。
もちろん、巧たちにも」
彪夏さんは上機嫌で、にこにこしっぱなしだった。
食後、今日は泊まって帰るとスイートルームに連れ込まれた。
……うん。
想定はしていたよ?
だって、誕生日プレゼントを用意してないと見抜かれているんだもん。
代わりにアレ、でしょ?
わかってはいるんだけれど……。
シャワーを浴びたあと、当然のようにベッドに押し倒された。
「……清子」
レンズの向こう、艶やかに濡れて光る彼の瞳を見つめる。
我慢、しなきゃ。
今日、いつもよりもちょっぴり贅沢な誕生会で、嬉しそうだった弟たちの顔が蘇る。
もう、弟たちに我慢なんかさせたくない。
そのためには、これくらい耐えられる。
……それに。
ゆっくりと彪夏さんの顔が近づいてきて、目を閉じた。
「……無理はするな」
耳もとでぼそりと彼が呟く。
瞼を開けると目のあった彼は、するりと私の頬を撫でて離れた。
「清子の考えてること、当ててやろうか」
彼がなにを言いたいのかわからずに、ただ見ていた。
「弟たちのために俺を本気にさせて、結婚に持ち込みたい。
そのためだったら好きでもない人に抱かれるくらい、我慢する。
……違うか?」
私の考えをそっくりそのまま言われ、なにも言えなくなった。
そんな私へ、彼がさらに続ける。
「俺の気持ちを知らず、そんなふうに必死な清子は愚かだ」
これは彪夏さんには心に決めた人がいるので、どんなに頑張ろうと私には本気にならないということなんだろうか。
そう気づいた途端、心臓を締め付けられるかのように胸がぎりりと激しく痛む。
「……私は愚かですか」
傷ついた顔は見られたくなくて、彼に背を向けた。
「ああ、愚かだ」
どんなに頑張ったって、私は彪夏さんに好きになってもらえない。
その事実が、こんなに苦しいのはなんでだろう。
ああ、あれだよね。
弟たちの幸せが遠のいたから。
それに違いない。
「そんな愚かな清子が、愛おしい」
彪夏さんの手が、私を彼のほうへと向かせる。
私の髪を撫で、唇を重ねる。
それはその言葉を証明するかのようにどこまでも優しかった。
「今日は俺に付き合ってくれたってだけで、最高のバースデープレゼントだ」
私の頭を軽くぽんぽんし、彪夏さんは布団を掛けた。
そのまま、私を抱き締めてくる。
「今日はこれくらい、許されるよな」
「……いい、ですよ」
ふて腐れているフリをして、彼から顔を背けた。
「ありがとう」
すぐに隣から、気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。
……さっき、気づいた。
私は彪夏さんから迫られ、彼になら抱かれていいと……抱かれたいと思った。
苦しいのを弟たちのせいにしたが、嘘だ。
そう片付けないと心が壊れてしまいそうだった。
私は彪夏さんを、好きになっている?
隣で眠る、彪夏さんの顔をじっと見る。
どんなに頑張っても、彪夏さんは私を好きなってはくれない。
だったらこの気持ちは、私の胸に留めておこう。
「今日はありがとうな、プレゼントまで」
嬉しそうに彪夏さんは、もらったプレゼントを少し上げてみせた。
「喜んでもらえてよかった。
彪夏兄さんならもっと豪華なバースデーパーティを開いてもらえるんだろうけど」
不安だったのか、巧はほっとした顔をしている。
「いや。
今日のほうが何倍も嬉しい」
眼鏡の奥で目を細め、本当に嬉しそうに彪夏さんは笑った。
彪夏さんと一緒に実家を出た。
「送っていく」
「え、でもすぐそこですから」
「いいから」
断ったものの強引に私の腕を取り、彼は歩いていく。
すぐに近くの駐車場に止めてある、車に乗せられた。
車は私の住んでいるアパートへ向かう角をスルーして進んでいく。
「……どこへ連れていく気ですか?」
私の声は冷ややかだったが、仕方ない。
「さっきまでは家族とのバースデーパーティ。
ここからは恋人同士の時間だ」
「はぁ……」
視線をちらりとこちらに向け、意味深に彪夏さんが左目をつぶってみせる。
「それにどうせ、清子はプレゼントなんて用意してないんだろ?」
「うっ」
それに関してはなにも言い返せないので、おとなしくした。
彪夏さんが私を連れてきたのは、外資の三つ星ホテルだった。
「えっと……」
「まずはディナーだな」
戸惑う私を無視しして彪夏さんはエレベーターへと歩いていく。
「あの。
奢れと言われてもお金ないんですが……」
彼は私の懐具合を知っているはずなのだ。
なのに誕生日を祝えとこんなところへ連れてこられても、困る。
「貧乏な清子に奢れとか言うわけないだろ。
支払いは心配しなくていい」
「はぁ……」
私の顔をのぞき込み、彼がにかっと笑う。
自分の誕生日を自費で祝いたい人の気持ちはわからないが、彪夏さんがいいならいいか……。
彪夏さんが選んだのはフレンチのお店だった。
「素敵な俺の誕生日に」
「お、おめでとうございます」
シャンパングラスを上げる彪夏さんにあわせて私も上げる。
「まさか、清子の家族に祝ってもらえるなんて思わなかったな」
唇を緩ませて小さく、嬉しそうに彪夏さんが笑う。
私だって弟たちがあんなに、彼に懐くだなんて想像もしていなかった。
「これで清子と婚約破棄なんて、ますますできなくなったな」
「そう、ですね」
彪夏さんには心に決めた人がいる。
この婚約はこのあいだのパーティで会った女性社長のような、鬱陶しくつきまとう女性たちを避けるためのものでしかないのだ。
私と結婚するなんて、彪夏さんには不本意なはず。
なのに、嬉しそうなのはなんでなんだろう?
たわいのない会話をしながら、食事は進んでいく。
「今日の清子の服、可愛いな」
「ありがとうございます。
健太が用意してくれたんです」
服を褒められ、嬉しくなる。
やはり、健太の腕はいいのだ。
「俺の見立てに間違いはなかったな」
「え……?」
しかし続く言葉の意味がわからずに、手が止まった。
「健太にこういう服を作ってくれって頼んだんだんだ。
今日のそれはたぶん、健太からの誕生日プレゼントだろうな」
つい、自分の服を見下ろしてしまう。
これって彪夏さんの趣味だったの?
可愛くて気に入っていたけれど、複雑な気分だ。
「健太にはお礼をしないとな。
もちろん、巧たちにも」
彪夏さんは上機嫌で、にこにこしっぱなしだった。
食後、今日は泊まって帰るとスイートルームに連れ込まれた。
……うん。
想定はしていたよ?
だって、誕生日プレゼントを用意してないと見抜かれているんだもん。
代わりにアレ、でしょ?
わかってはいるんだけれど……。
シャワーを浴びたあと、当然のようにベッドに押し倒された。
「……清子」
レンズの向こう、艶やかに濡れて光る彼の瞳を見つめる。
我慢、しなきゃ。
今日、いつもよりもちょっぴり贅沢な誕生会で、嬉しそうだった弟たちの顔が蘇る。
もう、弟たちに我慢なんかさせたくない。
そのためには、これくらい耐えられる。
……それに。
ゆっくりと彪夏さんの顔が近づいてきて、目を閉じた。
「……無理はするな」
耳もとでぼそりと彼が呟く。
瞼を開けると目のあった彼は、するりと私の頬を撫でて離れた。
「清子の考えてること、当ててやろうか」
彼がなにを言いたいのかわからずに、ただ見ていた。
「弟たちのために俺を本気にさせて、結婚に持ち込みたい。
そのためだったら好きでもない人に抱かれるくらい、我慢する。
……違うか?」
私の考えをそっくりそのまま言われ、なにも言えなくなった。
そんな私へ、彼がさらに続ける。
「俺の気持ちを知らず、そんなふうに必死な清子は愚かだ」
これは彪夏さんには心に決めた人がいるので、どんなに頑張ろうと私には本気にならないということなんだろうか。
そう気づいた途端、心臓を締め付けられるかのように胸がぎりりと激しく痛む。
「……私は愚かですか」
傷ついた顔は見られたくなくて、彼に背を向けた。
「ああ、愚かだ」
どんなに頑張ったって、私は彪夏さんに好きになってもらえない。
その事実が、こんなに苦しいのはなんでだろう。
ああ、あれだよね。
弟たちの幸せが遠のいたから。
それに違いない。
「そんな愚かな清子が、愛おしい」
彪夏さんの手が、私を彼のほうへと向かせる。
私の髪を撫で、唇を重ねる。
それはその言葉を証明するかのようにどこまでも優しかった。
「今日は俺に付き合ってくれたってだけで、最高のバースデープレゼントだ」
私の頭を軽くぽんぽんし、彪夏さんは布団を掛けた。
そのまま、私を抱き締めてくる。
「今日はこれくらい、許されるよな」
「……いい、ですよ」
ふて腐れているフリをして、彼から顔を背けた。
「ありがとう」
すぐに隣から、気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。
……さっき、気づいた。
私は彪夏さんから迫られ、彼になら抱かれていいと……抱かれたいと思った。
苦しいのを弟たちのせいにしたが、嘘だ。
そう片付けないと心が壊れてしまいそうだった。
私は彪夏さんを、好きになっている?
隣で眠る、彪夏さんの顔をじっと見る。
どんなに頑張っても、彪夏さんは私を好きなってはくれない。
だったらこの気持ちは、私の胸に留めておこう。
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