前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

文字の大きさ
42 / 271
第一章 新しい生活の始まり

012-2

しおりを挟む
 メルは意外な事に雑食、って言うのはちょっと違うかな。草とか野菜とか穀物、果物を好んで食べるらしい。草しか食べないのかと思っていた。
 試しにラズロさんが大量に買い込んだ熟していないリンゴを出してみたところ、普通に食べていた。あまりに大量にあり過ぎて、フルールに食べさせるにしてもその前に悪くなりそうだと思っていたから、良かった。

 柔らかくなった端肉を、塩で煮込んで味を染み込ませて冷ましておく。すっかり冷めたところでネギとリンゴを適当な大きさに切って更に塩を追加して煮込む。
 食べる前に胡椒をふりかけて出来上がり。
 肉の筋の部分も煮溶けてるから、口に入れたらホロホロと崩れるぐらいには柔らかくなっていると思う。

 洗い物を終えて中庭を見ると、リンゴを無心に食べてるメルがいた。牛と同じで反芻するからなのか、リンゴ一つ食べるのも結構時間かかるみたい。
 そんなメルの足元でコッコが土を啄んでる。メルはほとんど動かないから大丈夫なんだろうけど、普通なら大きさが全然違うから足元をうろうろするのは危なさそう。
 一緒にいるって事は、仲良くなったのかな?
 ネロは食堂に用意したカゴベッドの中で丸まってる。このベッドを用意しないと、寒いのが嫌で、ずっと僕の肩の上に乗ってしまうから、仕方なく。
 食堂に来た人たちにはきまぐれに撫でさせたり、相手をしたりするけど、構われたくない時は僕の部屋に行ってるみたい。賢いなぁ。
 フルールは僕の側にいて、調理で出た不要な部分。野菜とか果物の皮とかをせっせと食べてる。
 ラズロさんは買い出しで、お店が売値も付かないようなものを置いてるとフルール用にもらって来てくれる。
 トキア様が沢山食べさせろとおっしゃってたから、ラズロさんからの差し入れ?は、とてもありがたいのです。

「うおっ! 良い匂い!」

 買い出しに出ていたラズロさんが戻って来た。
 端肉を煮てるので今日も僕はお留守番。

「おかえりなさい、ラズロさん」

 カゴいっぱいに入れた素材を台の上にドサドサと並べて行く。

「今日は粉類と塩と胡椒、ベーコンと腸詰、ハムを冬を越せる分頼んで来たから遅くなっちまった。悪ぃな、アシュリー」

「大丈夫ですよー」

「土産があるぞ」

 土産?
 ほら、と言って渡されたのは、紫色の塊だった。

「アシュリーはアマイモは初めてか?」

 アマイモ?

「この時期にな、ほんっとにたまにだけど南の国から入ってくるんだよ。蒸して食うんだけどな、甘くて美味いぞ」

 半分に割って、皮を剥いて齧れ、と言われたので、言われたように皮を剥く。凄い薄い皮! 中は黄金色で、甘くて良い匂いがする。
 フルールに皮と身の部分をあげると、鼻をひくひくさせてから、齧り付いた。
 僕も噛り付く。柔らかい! 甘い! 熱い!

「あつ……っ!」

 はははっ、とラズロさんは笑った。

「でも美味いだろ?」

 口の中にアマイモが入ってるから、こくこく頷くと満足げにラズロさんは笑った。

「また売ってたら買って来てやるよ」

「ありがとうございます!」

 にゃー、と足元からネロの鳴き声。僕の足をカリカリしてる。

「ネロも食べたい?」

 屈んで皮を剥いてから少しネロにあげる。ネロは器用に前足でアマイモを挟んで食べ始めた。美味しいのか、夢中になって食べてる。コッコとメルにも少しずつお裾分けした。
 コッコは恐る恐る突いた後、高速で突いて食べた。美味しかったんだね。
 メルはひと口で食べてしまったけど、べろり、と口のまわりを舐めていたから美味しかったんだと思う。

「ラズロさん、ありがとうございます、とっても美味しかったです!」

「動物にも分けてやるなんて、ほんっとアシュリーは良い子だよなぁ」

「そんな事ないですよ?」

 食べ終えたネロは肉球部分を念入りに舐めてる。満足 してくれたみたいで良かった。

「独り占めしようとしても、ネロに取られてたかも知れませんし」

 ははっ、とラズロさんは笑う。

「確かに良い食い付きだったな」

「でしたね。あ、そうだ。ラズロさん、煮込みの味見してもらえますか?」

「おっ! 遂に来たかー! いつ食えんのかと聞かれまくってたんだよ」

 えっ、そうなの?!

 ラズロさんは煮込みから取り皿に少しだけ移して口に入れた。

「うまっ! なんだこれ!」

 僕も味見をしたんだけど、お肉の旨味とリンゴの酸味とネギの甘味が出て、自画自賛しちゃうけど、美味しかった。

「これが端肉と捨てリンゴとは思えないな!」

「明日のお昼に出そうと思います」

「明日は売り切れ注意だな」

 ニヤ、とラズロさんが笑った。
 まさかそんな。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

処理中です...