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第一章 新しい生活の始まり
012-3
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ラズロさんが言った通り、昼食時の食堂は入れない人が出た程だった。
「肉が! 口の中で溶ける!」
「美味い!」
食堂のあちこちから上がる声に嬉しくなる。
二日かけてコトコト煮込んで、味をゆっくりと染み込ませた豚の端肉とネギとリンゴの煮込みは、あっという間に完食されてしまった。
いつもよりも多めに作ったのに、なくなってしまうなんて思わなかった。
食べられなかった人もいたみたい。
「いつもよりも多めに作った筈なのに、どうして足りなくなっちゃったんでしょう?」
「普段ならあっちを使う奴等まで紛れ込んでたからな、足りなくなるに決まってる」
あっち?
「上級官までこっちに来てたんだよ、アシュリーは気付いてなかったろうけど」
「ジョウキュウカン?」
お城の中の事を全然分かってない僕に、ラズロさんが説明してくれた。
「城の職務は大概三つの等級に分かれてんだよ。上級、中級、下級ってな。この城には食堂が二つあるって話したろ?」
ラズロさんの問いに頷く。
「王族や大臣達はそれぞれ部屋に食事が運ばれるが、これはあっちの食堂で作った物を出す。素材もメニューも別だ。上級官と呼ばれる奴等はあっちで食うのが基本だ。別にこっちで食っても構わねぇけど、お高く止まった奴等が多いからな、大体来ねぇな」
ふむふむ。
上級官、中級官、下級官。
「中級官、下級官が使用して良いのがこっちの食堂だ。
金銭的にゆとりのある奴は少ねぇからな、いつもここに来て食ってく。だから今日アシュリーが作った量は絶対に足りる量だったんだよ。それ以上に用意もしてたしな。
普段なら寄り付きもしねぇ上級官が今日に限ってゴロゴロいたからな、足りなくなる」
「どうして今日、こっちに来たんでしょう?」
「二日に渡ってここから良い匂いが城内に漂ってたからな、興味がわいたんだろ」
「そう言うもの、なんですか?」
「そんなもんだ」
片付けをしながらそんな話をしていたら、食堂に誰かが駆け込んで来た。
「今日の!」
ノエルさんだ。
「今日のランチ、売り切れたって本当?!」
「売り切れだ」
ノエルさんは壁に額を付けて何かブツブツ言ってる。
何て言ってるのか聞こうと近付いたらラズロさんに耳を塞がれた。
「やべーこと言ってっから、アシュリーは聞くな」
ちょっとしてトキア様とクリフさんもやって来た。
丁度良かった。
「お昼は食べてしまいましたか?」
ノエルさんは俯きながら首を横に振った。……本当に大丈夫かな……?
「まだだが、本日のは大人気で売り切れと聞いたが」
トキア様までどうして知ってるんだろう?
「? みなさんのは取っておいてありますよ?」
途端にノエルさんの顔が明るくなって、抱き締められて窒息しそうになった。
そんなに楽しみにしてくれてたんだ。
トキア様、クリフさん、ノエルさん、ラズロさんと僕用に別に取り分けておいたのを、火にかけて温める。
「ちょっとカギ閉めてくるわ」
そう言ってラズロさんは食堂のカギを閉めた。
「売り切れた場合の札でも作るかな」
温めた煮込みを器に移して、テーブルに置く。ノエルさんとクリフさんがみんなが座る場所に置いてくれた。
スプーンとフォークを持って僕も座る。
「いただきます!」
ノエルさんは肉を口に頬張った直後、目を閉じた。
「お……美味しい……肉なのに……肉なのに口の中で溶けていく」
「これは……美味いな」とクリフさん。
「うむ……丁寧によくよく煮込まれている。これだけ手間のかけた料理は久しぶりだ。実に美味だな」
「うん、美味い」
僕も口にする。
味見でちょっと口にしたぐらいだったから、僕も全然食べれて無かったんだよね。
うん、口の中で肉がほろほろと崩れる。よく煮えてる。
美味しい。
「これ、もしかしてリンゴなの?」
スプーンで掬ったリンゴを食べる。
「とろりとしているのに、噛むとちょっとシャクッとする。不思議な食感だね。ネギもとろとろで口の中で溶けるよ」
気に入ってくれたみたいで、ノエルさんはにこにこしている。クリフさんも笑顔だ。トキア様の口角が上がってる。良かった、上手くいって。
「アシュリーのレシピをリンゴ農家の坊々に売り付けてやろうかと思ったけど、こりゃ、真似出来ねぇから売れないなぁ」
苦笑いしながらラズロさんが言う。
「アシュリーぐらいだよね、こんなに時間をかけて魔法で煮込み続けられるのは」
「そうだな」
クリフさんも頷く。
「端肉は全部使い終わったの?」
「いえ、まだあるので、暇を見て煮込んで、ペースト状にしようかと思ってます」
ペースト? と、みんなの声が揃った。
「端肉を柔らかくなるまで脂で煮込んで、ほぐしたものなんですけど、保存食になるんですよ。パンに塗っても美味しいですし、固めて焼いても美味しいんですよ」
父さんはよく、酒のつまみにちょっとずつ食べてたな。
きのこで作るペーストも美味しいんだよね。
明日の買い出し、連れて行ってもらおう。
「肉が! 口の中で溶ける!」
「美味い!」
食堂のあちこちから上がる声に嬉しくなる。
二日かけてコトコト煮込んで、味をゆっくりと染み込ませた豚の端肉とネギとリンゴの煮込みは、あっという間に完食されてしまった。
いつもよりも多めに作ったのに、なくなってしまうなんて思わなかった。
食べられなかった人もいたみたい。
「いつもよりも多めに作った筈なのに、どうして足りなくなっちゃったんでしょう?」
「普段ならあっちを使う奴等まで紛れ込んでたからな、足りなくなるに決まってる」
あっち?
「上級官までこっちに来てたんだよ、アシュリーは気付いてなかったろうけど」
「ジョウキュウカン?」
お城の中の事を全然分かってない僕に、ラズロさんが説明してくれた。
「城の職務は大概三つの等級に分かれてんだよ。上級、中級、下級ってな。この城には食堂が二つあるって話したろ?」
ラズロさんの問いに頷く。
「王族や大臣達はそれぞれ部屋に食事が運ばれるが、これはあっちの食堂で作った物を出す。素材もメニューも別だ。上級官と呼ばれる奴等はあっちで食うのが基本だ。別にこっちで食っても構わねぇけど、お高く止まった奴等が多いからな、大体来ねぇな」
ふむふむ。
上級官、中級官、下級官。
「中級官、下級官が使用して良いのがこっちの食堂だ。
金銭的にゆとりのある奴は少ねぇからな、いつもここに来て食ってく。だから今日アシュリーが作った量は絶対に足りる量だったんだよ。それ以上に用意もしてたしな。
普段なら寄り付きもしねぇ上級官が今日に限ってゴロゴロいたからな、足りなくなる」
「どうして今日、こっちに来たんでしょう?」
「二日に渡ってここから良い匂いが城内に漂ってたからな、興味がわいたんだろ」
「そう言うもの、なんですか?」
「そんなもんだ」
片付けをしながらそんな話をしていたら、食堂に誰かが駆け込んで来た。
「今日の!」
ノエルさんだ。
「今日のランチ、売り切れたって本当?!」
「売り切れだ」
ノエルさんは壁に額を付けて何かブツブツ言ってる。
何て言ってるのか聞こうと近付いたらラズロさんに耳を塞がれた。
「やべーこと言ってっから、アシュリーは聞くな」
ちょっとしてトキア様とクリフさんもやって来た。
丁度良かった。
「お昼は食べてしまいましたか?」
ノエルさんは俯きながら首を横に振った。……本当に大丈夫かな……?
「まだだが、本日のは大人気で売り切れと聞いたが」
トキア様までどうして知ってるんだろう?
「? みなさんのは取っておいてありますよ?」
途端にノエルさんの顔が明るくなって、抱き締められて窒息しそうになった。
そんなに楽しみにしてくれてたんだ。
トキア様、クリフさん、ノエルさん、ラズロさんと僕用に別に取り分けておいたのを、火にかけて温める。
「ちょっとカギ閉めてくるわ」
そう言ってラズロさんは食堂のカギを閉めた。
「売り切れた場合の札でも作るかな」
温めた煮込みを器に移して、テーブルに置く。ノエルさんとクリフさんがみんなが座る場所に置いてくれた。
スプーンとフォークを持って僕も座る。
「いただきます!」
ノエルさんは肉を口に頬張った直後、目を閉じた。
「お……美味しい……肉なのに……肉なのに口の中で溶けていく」
「これは……美味いな」とクリフさん。
「うむ……丁寧によくよく煮込まれている。これだけ手間のかけた料理は久しぶりだ。実に美味だな」
「うん、美味い」
僕も口にする。
味見でちょっと口にしたぐらいだったから、僕も全然食べれて無かったんだよね。
うん、口の中で肉がほろほろと崩れる。よく煮えてる。
美味しい。
「これ、もしかしてリンゴなの?」
スプーンで掬ったリンゴを食べる。
「とろりとしているのに、噛むとちょっとシャクッとする。不思議な食感だね。ネギもとろとろで口の中で溶けるよ」
気に入ってくれたみたいで、ノエルさんはにこにこしている。クリフさんも笑顔だ。トキア様の口角が上がってる。良かった、上手くいって。
「アシュリーのレシピをリンゴ農家の坊々に売り付けてやろうかと思ったけど、こりゃ、真似出来ねぇから売れないなぁ」
苦笑いしながらラズロさんが言う。
「アシュリーぐらいだよね、こんなに時間をかけて魔法で煮込み続けられるのは」
「そうだな」
クリフさんも頷く。
「端肉は全部使い終わったの?」
「いえ、まだあるので、暇を見て煮込んで、ペースト状にしようかと思ってます」
ペースト? と、みんなの声が揃った。
「端肉を柔らかくなるまで脂で煮込んで、ほぐしたものなんですけど、保存食になるんですよ。パンに塗っても美味しいですし、固めて焼いても美味しいんですよ」
父さんはよく、酒のつまみにちょっとずつ食べてたな。
きのこで作るペーストも美味しいんだよね。
明日の買い出し、連れて行ってもらおう。
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