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第一章 新しい生活の始まり
017-2
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リンさんが帰ってからしばらくして、ノエルさんがやって来た。
「アシュリー」
「こんばんは、ノエルさん。コーヒーですか?」
ううん、と答えて首を横に振る。
「週に一度はアシュリーのごはんが食べたいから、無理を言って出て来た」
そう言ってノエルさんはふふふ、と笑うけど、何となく嫌な予感と言うのか、何と言うのか。
でも、ちゃんとごはんを食べて欲しいとも思うし、難しいなぁ……。
「用意しますね」
「うん」
ノエルさんはフルールを抱き上げると、膝の上にのせてフルールのおなかに顔を埋めたり、抱きしめたり、頬擦りしている。……大分、お疲れみたい。
疲れた時にフルールの柔らかい身体に癒されるのは、何となく分かる。
ノエルさん以外にもお風呂上がりの人がやって来て、ごはんを頼まれたので、あらかじめ用意してあるパンを石窯の中に入れて焼き始める。
フライパンに油を落として温めている間に、保温しておいたスープをカップに注いで、ノエルさんや、他の人に出す。
「んー……しみる」
スープをひと口飲んだノエルさんが、しみじみと言う。
「五臓六腑に染み渡るよ、アシュリー」
「嬉しいですけど、褒め過ぎです、ノエルさん」
温まったフライパンに端肉のパン粉をまぶしたものを入れていく。端肉そのものはもう火が通っているものだから、中のネギもあらかじめ火を通してある。表面のパン粉がカリッと焼ければ大丈夫。
皿を並べて二種類の酢漬けをのせていく。
「アシュリーも、手慣れてきたね」
「来たばかりと比べると、大分慣れたかなって思います。
ラズロさんは料理して、話をしながら食堂内の状況を把握してるので、本当凄いと思います」
ラズロさんはとても器用だと思う。
「アイツは比較的何でも出来るんだけど、何をやってもつまらなさそうなんだよね。だから長く続かない」
つまらなさそう?
あんまりそうは見えないけど、内心はそう思ってるのかな?
「でも今の仕事は長く続いてる」
そんなような事、ラズロさんも言ってたなぁ。
砂時計が落ちたのを見て、外の石窯から焼き上がったパンをバスケットに入れて戻る。
ノエルさんが不思議そうにしながら砂時計を見ていた。
「アシュリー、これ何?」
「砂時計です」
「スナドケイ?」
完全に砂が落ちきってしまったので、上下を逆さまにする。サラサラと砂が下に溢れ落ちていく。
ノエルさんはそっと手を伸ばして砂時計を持つ。
「上の砂が下に完全に落ちるのに、その砂時計だと5分かかります」
魔女はこの砂時計をいっぱい持ってて、時間を正確に測ってた。
この前届いた荷物の中に、魔女からもらった砂時計が入ってて、嬉しかった。あるのとないのとだと、目安が変わってくるから。
「時間の経過を目視出来るなんて、凄い……」
「多分、それは村に頼んでも商品にするのは難しいと思います」
「どうして?」
「魔女しか作れないからです。頼んでも作ってくれない事がほとんどでした。僕は魔女の手伝いをよくしていたので、そのご褒美にいくつか作ってもらえましたけど」
そうなんだ、とがっかりした顔をするノエルさんに、出来上がった料理ののった皿を差し出す。
「ありがとー」
砂時計をカウンターに戻すと、ノエルさんは皿を受け取ってパンを口に入れた。
「んん、あったかい。あったかくてフワフワする。でも周りがカリッとしてる」
ノエルさんはちぎったパンを、隣の椅子に座るフルールにあげる。フルールはもくもくとパンを食べ始めた。
「冬に温かい食事を口に出来るだけで、病気が縁遠くなる気がするよ」
「冷えは万病の元ですからね」
「初めて聞く言葉」
「魔女がよく言ってましたよ。身体を冷やすな、って」
ノエルさんの横に僕も座って、一緒にごはんを食べる。
フルールはぴょこぴょこと上下しながら僕の隣に移動して来た。
多めに焼いたパンを渡すと、両手で持って、食べ始める。
「身体を冷やすと病気になるの?」
「えっと、身体の中にある、病気と闘う力が、冷えてると弱まる、みたいな事を言ってました」
「抵抗力の事かな?」
「あ、それです」
スープを飲む。スープの熱でおなかが内側から温まってくる。
「アシュリーの村の魔女に、会っておけば良かった」
「魔女とノエルさんが会ったら、ノエルさんは王都に帰れなかったかも」
なんで? とノエルさんが聞き返す。
「魔女は、カッコいい人が大好きなんです。多分会った瞬間にプロポーズされます」
「なにそれ凄いね?!」
今思い出しても、魔女は不思議な人だった、うん。
「気分屋さんな所もありましたけど、優しくて物知りで強くて、僕は大好きです」
「アシュリーがそこまで言うんだから、良い人なんだろうね」
「良い人ですよ。怒らせると怖いです。酒場の女将さんより何倍も怖いです」
「なるほどね?」
「お酒が大好きで、毎日のように二日酔いになってて、僕、その所為でパンがゆ作りが得意になりました」
毎日パンがゆを作らされてたから。
ノエルさんに頭を撫でられた。
「ラズロには作らなくて良いからね」
その言葉に思わず笑った。
ノエルさんはラズロさんにちょっと厳しい。
「アシュリー」
「こんばんは、ノエルさん。コーヒーですか?」
ううん、と答えて首を横に振る。
「週に一度はアシュリーのごはんが食べたいから、無理を言って出て来た」
そう言ってノエルさんはふふふ、と笑うけど、何となく嫌な予感と言うのか、何と言うのか。
でも、ちゃんとごはんを食べて欲しいとも思うし、難しいなぁ……。
「用意しますね」
「うん」
ノエルさんはフルールを抱き上げると、膝の上にのせてフルールのおなかに顔を埋めたり、抱きしめたり、頬擦りしている。……大分、お疲れみたい。
疲れた時にフルールの柔らかい身体に癒されるのは、何となく分かる。
ノエルさん以外にもお風呂上がりの人がやって来て、ごはんを頼まれたので、あらかじめ用意してあるパンを石窯の中に入れて焼き始める。
フライパンに油を落として温めている間に、保温しておいたスープをカップに注いで、ノエルさんや、他の人に出す。
「んー……しみる」
スープをひと口飲んだノエルさんが、しみじみと言う。
「五臓六腑に染み渡るよ、アシュリー」
「嬉しいですけど、褒め過ぎです、ノエルさん」
温まったフライパンに端肉のパン粉をまぶしたものを入れていく。端肉そのものはもう火が通っているものだから、中のネギもあらかじめ火を通してある。表面のパン粉がカリッと焼ければ大丈夫。
皿を並べて二種類の酢漬けをのせていく。
「アシュリーも、手慣れてきたね」
「来たばかりと比べると、大分慣れたかなって思います。
ラズロさんは料理して、話をしながら食堂内の状況を把握してるので、本当凄いと思います」
ラズロさんはとても器用だと思う。
「アイツは比較的何でも出来るんだけど、何をやってもつまらなさそうなんだよね。だから長く続かない」
つまらなさそう?
あんまりそうは見えないけど、内心はそう思ってるのかな?
「でも今の仕事は長く続いてる」
そんなような事、ラズロさんも言ってたなぁ。
砂時計が落ちたのを見て、外の石窯から焼き上がったパンをバスケットに入れて戻る。
ノエルさんが不思議そうにしながら砂時計を見ていた。
「アシュリー、これ何?」
「砂時計です」
「スナドケイ?」
完全に砂が落ちきってしまったので、上下を逆さまにする。サラサラと砂が下に溢れ落ちていく。
ノエルさんはそっと手を伸ばして砂時計を持つ。
「上の砂が下に完全に落ちるのに、その砂時計だと5分かかります」
魔女はこの砂時計をいっぱい持ってて、時間を正確に測ってた。
この前届いた荷物の中に、魔女からもらった砂時計が入ってて、嬉しかった。あるのとないのとだと、目安が変わってくるから。
「時間の経過を目視出来るなんて、凄い……」
「多分、それは村に頼んでも商品にするのは難しいと思います」
「どうして?」
「魔女しか作れないからです。頼んでも作ってくれない事がほとんどでした。僕は魔女の手伝いをよくしていたので、そのご褒美にいくつか作ってもらえましたけど」
そうなんだ、とがっかりした顔をするノエルさんに、出来上がった料理ののった皿を差し出す。
「ありがとー」
砂時計をカウンターに戻すと、ノエルさんは皿を受け取ってパンを口に入れた。
「んん、あったかい。あったかくてフワフワする。でも周りがカリッとしてる」
ノエルさんはちぎったパンを、隣の椅子に座るフルールにあげる。フルールはもくもくとパンを食べ始めた。
「冬に温かい食事を口に出来るだけで、病気が縁遠くなる気がするよ」
「冷えは万病の元ですからね」
「初めて聞く言葉」
「魔女がよく言ってましたよ。身体を冷やすな、って」
ノエルさんの横に僕も座って、一緒にごはんを食べる。
フルールはぴょこぴょこと上下しながら僕の隣に移動して来た。
多めに焼いたパンを渡すと、両手で持って、食べ始める。
「身体を冷やすと病気になるの?」
「えっと、身体の中にある、病気と闘う力が、冷えてると弱まる、みたいな事を言ってました」
「抵抗力の事かな?」
「あ、それです」
スープを飲む。スープの熱でおなかが内側から温まってくる。
「アシュリーの村の魔女に、会っておけば良かった」
「魔女とノエルさんが会ったら、ノエルさんは王都に帰れなかったかも」
なんで? とノエルさんが聞き返す。
「魔女は、カッコいい人が大好きなんです。多分会った瞬間にプロポーズされます」
「なにそれ凄いね?!」
今思い出しても、魔女は不思議な人だった、うん。
「気分屋さんな所もありましたけど、優しくて物知りで強くて、僕は大好きです」
「アシュリーがそこまで言うんだから、良い人なんだろうね」
「良い人ですよ。怒らせると怖いです。酒場の女将さんより何倍も怖いです」
「なるほどね?」
「お酒が大好きで、毎日のように二日酔いになってて、僕、その所為でパンがゆ作りが得意になりました」
毎日パンがゆを作らされてたから。
ノエルさんに頭を撫でられた。
「ラズロには作らなくて良いからね」
その言葉に思わず笑った。
ノエルさんはラズロさんにちょっと厳しい。
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