前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

文字の大きさ
82 / 271
第二章 マレビト

021-3

しおりを挟む
 タマネギ、余っていた野菜、端肉をラズロさんが刻んでくれている間に、芯をくり抜いて、キャベツの葉を一枚ずつ丁寧に剥がしていく。
 芯をフルールに渡すと、いつものようにシャクシャクと良い音をさせて食べている。この前試しに僕も食べてみたんだけど、美味しくはなかった。フルールの食べる音はちょっとした魔法だと思う。

「端肉もこれで終わりかー、また来いよー」

 端肉を煮込みに粒マスタードを付けて食べるのが好きなラズロさんは、端肉に語りかけながら刻んでいく。
 風魔法で刻んでも良かったんだけど、ラズロさんがやると言ってくれたので、お願いする。

「そう言えば、魔術師長のティール様は、どんな方なんですか?」

「変人」

 即答だ。これは、かなりの変人なんだろうな。心なしかラズロさんの目線が遠くを向いてるし……。

「魔法薬学のレンレンも大概だけどな、アイツはまだ、魔法薬学の素晴らしさを伝えて仲間に引き込もうとするだけだからまだ良いんだよ」

 はぁ、とラズロさんがため息を吐く。

「ティールはなぁ、魔術以外にまったく興味がなくってな、飯も食わねぇし、寝もしねぇ、なんて事がザラだ。
ナインを養子にとったからと言って、何ひとつ構ってやらないだろうな」

 なんでそんな人の元にいく事になったんだろう……?

「なんでそんな奴に、って思っただろう? 実際その通りなんだがな、あれでいて魔術ではそれなりに有名なんだよ、だからナインがいた国が、後になって返せと言ってきてもつっぱねられるだけの後ろ盾を付けようって事になったんだってよ」

 ナインさんは、凄い優秀なんだろうな。
 だからこうしてみんなが守ろうってしてあげてるんだと思う。

「色々あるんですね」

「まぁなぁ」

「ラズロさんって、情報通ですよね?」

茹で上がったキャベツを麺棒でゴロゴロし、固い部分を柔らかくしていく。

「ティールはオレの幼馴染なんだよ。ノエルとも知り合いだったからな。流れで城に出入りするようになって、クリフとも知り合ったってわけだ」

「そうなんですね。ラズロさんも実は凄い人なのかと、最近疑ってました」

 ぶはっ、と吹き出すと、ラズロさんは笑った。

「ないない、由緒正しき平民だよ、アシュリーと一緒だ」

「仲間ですね」

「おうよ、周りが異常な奴らばっかりだと、自分がおかしくなったんじゃないかって思えてくるから、危険だよな」

 ラズロさんの言葉に笑ってしまう。

「まぁ、でも、他所は他所、他人は他人、だ。同じである必要なんかねぇし、オレはオレの事がそれなりに気に入ってるぜ」

「ラズロさんは、人を惹きつける力がありますよね」

「えっ、なに、アシュリーさん。オレの事そんな風に思っててくれたの?」

 そんな風って、どんな風だろう?
 何処に行ってもみんなラズロさんの事を知ってて、こんな奴、みたいな言い方をされる事が多いけど、嫌な奴だ、って誰も思ってなくて。仕方ないなぁ、みたいな感じ。
 ラズロさんは僕の事を愛されてると言うけど、僕からしたらラズロさんの方がよっぽど愛されてると思う。

「ラズロさんはみんなに愛されてますよね」

「呆れられてるの間違いだろ」

「ほら、刻み終わったぞ、次は?」と聞いてきたラズロさんは、少し恥ずかしそうに笑っていた。
 照れてるみたい。

「卵を入れます。キャベツの中で崩れてないように」

「おー、つなぎなー? それなら粉も入れた方がいいんじゃねぇか?」

「そうですね、そうしましょう」

 卵と粉を入れて、キャベツを包む具を作って、ちょうど包みやすい大きさに分けていく。それをラズロさんがキャベツで包んでいく。
 僕だと手が小さくて上手く丸められないから、ラズロさんにお願いした。

「これ、初めて食うけどさ、絶対美味い奴だよな」

「僕の予定では、美味しくなる筈です」

 大きい鍋に、具を包んだキャベツを並べていく。火が入ってキャベツが崩れないように、なるべくぴっちりになるように並べる。
 春になって、再び行商を始める為に王都を出て行ったイースタンさんは、僕にトマトで作った濃いソースと、その作り方を書いた紙をくれた。
 そのトマトソースと塩、コショウを別の器の中で水に溶かしてよくかき混ぜておく。それをキャベツの上にかけて煮込みを開始する。

 スープの部分が煮立って、良い匂いがしてくる。

「これ、ノエルの分取っておかないと、殺されそうだな」

 隣でラズロさんがぽつりと呟いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

処理中です...