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第二章 マレビト
030-4
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ダンジョンに戻った僕は、そっとジャッロの巣に近寄った。直ぐに働き蜂たちが出てきた。
威嚇はされない。
「あの、もし良かったらなんだけど、女王蜜か、蜂ヤニをちょっとで良いから分けてもらえないかな」
勢いで来てしまったけど、ジャッロたちとは会話出来ないんだった……。
働き蜂たちはじっと僕を見た後、巣に戻っていって灰色の塊を口に咥えて戻って来た。
『手を出してみろ』
パフィに言われた通りに手を出すと、手の上に灰色の塊を落として働き蜂は巣に戻った。
緑がかった灰色の、塊。
『蜂ヤニだな。そのままでは使えんからな、戻って口に出来る形にしてやろう』
「うん」
巣に向かって、ありがとう、とお礼を言ってからダンジョンを出た。
「パフィ、この蜂ヤニとか、女王蜜って、凄く貴重なんでしょう? 何かジャッロ達にお礼出来ないかな?」
『蜂はな、蜜をひたすら溜め続けるが、溜まり過ぎても辛いんだそうだ』
「なんで?」
『やる事がなくなるからではないか? 分からんがな』
そういうもの、なのかな?
『さて、まさかこんなに簡単に蜂ヤニを手に入れるとは思わなかったぞ』
呆れたようにマグロが息を吐く。
『女王蜜のほうをもらうと思っていたんだがなぁ』
「蜜で渡しにくいからこっちをくれたとか?」
『おまえのその思考の単純さはなかなかのものだぞ』
「ごめんね?」
まぁ、良い、と呆れたように言うと、また息を吐かれた。
『この蜂ヤニから不要なものを排除するには、酒精や水で抽出する方法があるのだがな、この件が片付くまでは私がやってやろう。時間もないし、僅かにも無駄にしたくないからな』
僕の手から浮かび上がった蜂ヤニを、光が包み込む。
マグロのしっぽがぐるぐる回ってる。パフィは魔法を使う時に指をぐるぐる回す。マグロと共有してても、そう言うところは変わらないんだね。
光の中の蜂ヤニから、緑灰色の部分がじわじわと離れていって、ヤニ、と言われるだけあって、濃い樹液のような色になっていく。
『入れておく器を出しておけ』
「あ、うん」
保存するほどは出来ないだろうけど、木の容器を持って来てマグロの前に置く。
『蜂ヤニを食事に混ぜるのか?』
「うん。早く、殿下に良くなってもらいたいから」
『よっぽど腹に据えかねたのだな』
「僕がそう感じただけかも知れないけど、第二妃様も、伯父であると言う人も、第二王子のことを大切じゃないみたいに感じた」
悲願、って言ってたし……。
『貴族、王族なんぞそんなものだろう』
親子なのに。親子でも。
色んな関係があるんだな、って思った。
僕がそうじゃなかっただけ。
生まれる家が違えば。国が違えば。生き方がまったく違うものになることも珍しくないんだって、知った。
第二王子も可哀想な人かも知れない。でも、だからと言って何をしても良いってことじゃないと思う。
「第二王子が実績を作る前に、第一王子に良くなってもらって、諦めてもらいたいんだ」
『……諦めはすまい。早まった所で変わる事も多くはあるまいよ』
あっさりとパフィに否定されて、胸の中にわいてきたやる気がしぼんでくる。
『第一王子の目は死んでいてな』
「え?」
『自分の死を望む者がいる、自分がいるからこそ争いが起きる。自分さえいなければ──そんな事ばかり考えているのだ』
「そんな……第一王子の所為じゃないのに」
『それほどまでに心が痩せ細っているんだろうよ。食事に毒が混ぜられている事も知っていたようだしな。
魔法の長も、王弟も自分を大切にしてくれるが、打算が混じるものだ』
そんなことは、ないと思う。それだけじゃないと思う。
『おまえの食事は、第一王子の事をよくよく考えて作ってあったろう、少しでも食べてもらえるようにと食べやすい味、食べられる大きさ。
どんなに豪勢な食事よりもな、心配りが感じられる食事の方が、身体にも心にも染み渡るものだ』
「そう……かな。それなら、良いな」
半分血のつながった弟に、嫌われて、命を狙われる。
身体が弱くて、出来ないこともいっぱいあっただろうと思う。
『おまえはおまえの思いを貫くが良い』
「……うん」
僕は、僕の出来ることで、第一王子を元気にしたい。
今よりもっと元気になれるように。
美味しくて、身体に良いものをもっと作れるようになりたい。
威嚇はされない。
「あの、もし良かったらなんだけど、女王蜜か、蜂ヤニをちょっとで良いから分けてもらえないかな」
勢いで来てしまったけど、ジャッロたちとは会話出来ないんだった……。
働き蜂たちはじっと僕を見た後、巣に戻っていって灰色の塊を口に咥えて戻って来た。
『手を出してみろ』
パフィに言われた通りに手を出すと、手の上に灰色の塊を落として働き蜂は巣に戻った。
緑がかった灰色の、塊。
『蜂ヤニだな。そのままでは使えんからな、戻って口に出来る形にしてやろう』
「うん」
巣に向かって、ありがとう、とお礼を言ってからダンジョンを出た。
「パフィ、この蜂ヤニとか、女王蜜って、凄く貴重なんでしょう? 何かジャッロ達にお礼出来ないかな?」
『蜂はな、蜜をひたすら溜め続けるが、溜まり過ぎても辛いんだそうだ』
「なんで?」
『やる事がなくなるからではないか? 分からんがな』
そういうもの、なのかな?
『さて、まさかこんなに簡単に蜂ヤニを手に入れるとは思わなかったぞ』
呆れたようにマグロが息を吐く。
『女王蜜のほうをもらうと思っていたんだがなぁ』
「蜜で渡しにくいからこっちをくれたとか?」
『おまえのその思考の単純さはなかなかのものだぞ』
「ごめんね?」
まぁ、良い、と呆れたように言うと、また息を吐かれた。
『この蜂ヤニから不要なものを排除するには、酒精や水で抽出する方法があるのだがな、この件が片付くまでは私がやってやろう。時間もないし、僅かにも無駄にしたくないからな』
僕の手から浮かび上がった蜂ヤニを、光が包み込む。
マグロのしっぽがぐるぐる回ってる。パフィは魔法を使う時に指をぐるぐる回す。マグロと共有してても、そう言うところは変わらないんだね。
光の中の蜂ヤニから、緑灰色の部分がじわじわと離れていって、ヤニ、と言われるだけあって、濃い樹液のような色になっていく。
『入れておく器を出しておけ』
「あ、うん」
保存するほどは出来ないだろうけど、木の容器を持って来てマグロの前に置く。
『蜂ヤニを食事に混ぜるのか?』
「うん。早く、殿下に良くなってもらいたいから」
『よっぽど腹に据えかねたのだな』
「僕がそう感じただけかも知れないけど、第二妃様も、伯父であると言う人も、第二王子のことを大切じゃないみたいに感じた」
悲願、って言ってたし……。
『貴族、王族なんぞそんなものだろう』
親子なのに。親子でも。
色んな関係があるんだな、って思った。
僕がそうじゃなかっただけ。
生まれる家が違えば。国が違えば。生き方がまったく違うものになることも珍しくないんだって、知った。
第二王子も可哀想な人かも知れない。でも、だからと言って何をしても良いってことじゃないと思う。
「第二王子が実績を作る前に、第一王子に良くなってもらって、諦めてもらいたいんだ」
『……諦めはすまい。早まった所で変わる事も多くはあるまいよ』
あっさりとパフィに否定されて、胸の中にわいてきたやる気がしぼんでくる。
『第一王子の目は死んでいてな』
「え?」
『自分の死を望む者がいる、自分がいるからこそ争いが起きる。自分さえいなければ──そんな事ばかり考えているのだ』
「そんな……第一王子の所為じゃないのに」
『それほどまでに心が痩せ細っているんだろうよ。食事に毒が混ぜられている事も知っていたようだしな。
魔法の長も、王弟も自分を大切にしてくれるが、打算が混じるものだ』
そんなことは、ないと思う。それだけじゃないと思う。
『おまえの食事は、第一王子の事をよくよく考えて作ってあったろう、少しでも食べてもらえるようにと食べやすい味、食べられる大きさ。
どんなに豪勢な食事よりもな、心配りが感じられる食事の方が、身体にも心にも染み渡るものだ』
「そう……かな。それなら、良いな」
半分血のつながった弟に、嫌われて、命を狙われる。
身体が弱くて、出来ないこともいっぱいあっただろうと思う。
『おまえはおまえの思いを貫くが良い』
「……うん」
僕は、僕の出来ることで、第一王子を元気にしたい。
今よりもっと元気になれるように。
美味しくて、身体に良いものをもっと作れるようになりたい。
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