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第二章 マレビト

031-1

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 蜂ヤニを朝・昼・晩と第一王子に出す食事に混ぜていく。少し濃い味の料理に、ちょっとずつ。
 一度に食べれば良いと言うものではないから、ちょっとずつちょっとずつ。今まではそれが毒で、今はそれが薬になった。
 味の変わらない毒を入れられていたって言うけど、第一王子は何処でそれが毒だって気付いたんだろう?

「王子はどうして毒を料理に入れられてるって分かったんだろう? 味もにおいもなかったんでしょう?」

 ネロとエノコログサで遊びながら、ベッドで横になってるパフィに質問する。

『気付く要素など色々あるだろう。それまで料理を運んでいた者が変わったとか、変わらずとも食べている自分をじっと見ていたり、少しずつ体力が削がれていったりすればな』

 そうか……もし、持って来る人が変わらないのに、ちゃんと毒の入った食べ物を口にしたかを確認する為にじっと見つめられたりしたら、凄いショックだよね。
 全部信じられなくなりそう。

「そこまで分かっている王子が、僕の作った料理をよく食べる気になってくれたね」

『王弟や魔法師長が言ったんだろうよ』

 あ、そっか。
 とは言え、食べるのに戸惑ったりしたよね、きっと。

『おまえの作った料理は残さず食べている。蜂ヤニは元々効果の高いものだが、ダンジョン蜂の作る蜂ヤニはそもそも数年に一度手に入るかどうかの稀少なものだ。
だが、おまえのスキルがそれを可能にした。解毒剤にもなり得る貴重な蜂ヤニを毎食口にする。
あの王子なら自分が口にしているものが何なのかぐらいは確認しているだろうよ』

 毎日、ちょっとずつ蜂ヤニをジャッロの子たちが分けてくれる。

『ベッドから出られるぐらいまで回復するのもそう遠くないぞ。奴らが動き出すのはそのあたりだろうな』

 にやり、とマグロが笑うものだから、少しだけ、あっちの人たちに同情する。でも、やってはいけないことをやり始めてしまったのは第二王子たちの方だから……まあ、仕方がない。
 マグロを見て呆れていたら、エノコログサをネロに取られてしまった。
 取り返そうと手を伸ばす。ネロはエノコログサを口に咥えたまま、僕の手の届く範囲からわずかにそれる。
マグロの二又のしっぽがぐるぐると回転して、ネロの持つエノコログサがふわりと光った。

「何をかけたの?」

『ん? 悪い事から守ってくれるただのまじないだ』

 そう言ってマグロは目を閉じて眠ってしまった。
 ネロがエノコログサを咥えたまま部屋を飛び出してしまった。
 うーん……魔女のまじないがかかったエノコログサって、大丈夫なのかな……。

『安心しろ。悪い事にはならん』



 翌日、第一王子の侍従をしている人が一人、いとまを出されたとラズロさんから教えてもらった。
 マグロのしっぽがゆらゆら揺れていて、多分、あの時のまじないの結果だろうなと思った。
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