魔符屋の倅・・・・・魔力は無いけど、オーラで頑張る

切粉立方体

文字の大きさ
35 / 56

35 帰路

しおりを挟む
 
 僕達が第一階層で倒したボスは、死に際に転移魔法を発動する迷惑な魔獣だったらしい。
 十年に一度現れる魔獣と言われており、僕達は、運が悪かったとしか言いようが無いらしい。
 勿論、帰って来れた奴なんて居ないので、飛ばされる先は謎だったらしい。

 僕達は、遺跡の管理者から呼び出され、尋問を受けている。
 僕らのミスリル板に残された討伐記録が検証され、僕らは九十階層近辺に飛ばされていたことが判った。 
 まだ誰も辿り着いていない場所で、僕達が最後に戦った(虐殺?)ミノタウロスの階層が、最近やっと攻略された最下層だったらしい。
 当然、何故そんな場所から帰れたのか、しつこく問い詰められた。

「無礼ですわよ。私達の実力なら当然ですわ」
「背後から襲うの不本意だったが、こいつらに無理強いされたのだ」
「最初に手に入れた腕輪の効果が大きかったんじゃないか」
「それに、最初の頃は、腰蓑に掴まって戦闘を避けましたし」
「下から階段を上ると、ボスって動かないんですよ」

 鞄は、国宝級どころか伝説級の品物なので黙ってもらっている。

「信じて下さらないのなら、証拠をお見せしますわ」

 ソフィアが魔剣を引き抜き、氷の刃を纏わせた。
 部屋全体を冷気が包み、巨大な刃が窓を突き抜け、向かいの建物に突き刺さっている。

「まだ御不満でしたら、この建物を両断して差し上げますわ。如何いたします」

 担当官が真っ青な顔をして首を振っている。
 こんな時には、貴族の横暴さは便利だ。

 執行停止書を書いて貰い、レオさんとトルテさんを引き取りに行く。
 僕達が消えた直後に掴まって、ずっと牢に繋がれていたらしい。
 牢の管理官の所へ執行停止書を持って行くと、二人は少し前に刑場を連れて行かれたと告げられた。
 僕らは、慌てて後を追った。

 町中でレオさん達を発見した。
 見せしめのため、後手に縛られ、目隠しをされ、囚人同士数珠繋ぎにされている。
 犯罪件数が多いのか、百人程が四列になって歩いている。

 先導していた執行官に話を通し、二人を宿へ連れて来て貰った。

「うむ、正規の執行停止書であることを確認した。只今を持って、この者達を釈放する」

 やっと二人の縄を解き、目隠しを外して貰った。
 囚人は白装束を着せられて刑場へ向かうので、凄く目立つ。
 縛られた二人が宿の食堂に入って来た時は、帰り支度をしていた生徒達が、初めて見る囚人の姿に固まっていた。

 目隠しを外された二人は、やつれていた。
 戸惑った様に周囲を見回し、唖然としている。
 たぶん、覚悟を決め、斧を持った首切り役人が待ち構えていると思っていたのだろう。
 僕達を発見して、レオさんが泣き崩れた。
 そして、トルテさんが殴り掛かって来た。

 何故か僕が前面に押し出され、トルテさんを受け止めることになってしまった。
 同じ場面は、芸人宿で何度か目撃し、ファラ師匠の薄い本にも描いてあった。
 二、三発殴らせた後は、距離を一気に詰めて強く抱きしめる。
 これで相手のパンチ力が無力化する。
 それでも暴れる時は、相手の顔を抱き寄せて唇を重ねる。
 舌を絡める理由は良く判らないが、たぶん、相手の肺から空気を吸い込み、息をさせない様にするんだと思う。
 上手く行ったようで、トルテさんが大人しくなった。
 次は、唇を放し、相手の瞳を見詰める。
 そして再び唇を重ね、芸人宿では抱き上げて自分の部屋へ連れて行き、ファラ師匠の薄い本だとその場で押し倒す。
 トルテさんの瞳を見詰めると、何故か物凄く怒っている。

”グフッ”

 膝蹴りを腹に食らい、殴り倒されてしまった。

「十年早いんだよ、このマセ餓鬼が」

 如何やら修行不足と言うことらしいが、それでも落ち着いてくれた。
 安堵して周囲を見回すと、ルイーズ達どころか、ウィルとタナスまで退いている。
 公爵令嬢や辺境伯令嬢までもが、顔を引き攣らせている。

「あいつには、関わらん方が良いな」

 そんな小さな呟きが聞こえて来た。
ーーーーー

「お前らは・・・・。まあ、無事なら良し」

 教師に先導され、迷路のような町中を抜けて馬車の待機所まで辿り着くと、絶望との報告を受けていた僕らが、何食わぬ顔で混じっているので、学年主任の教師が絶句していた。
 同じクラスの連中は、皆頬がこけ、ボロボロになって疲れ果てていたが、僕らだけ艶々で元気一杯だった。

「お前達だけ、一組に混じって楽をしていたな。狡いぞ」
「あいつらだけ、教師から情報がリークされてんだろ」
「私達だって大変でしたのよ」
「ええ、下の階層に飛ばされましたの」
「サイクロプスやミノタウロスの相手をしていましたのよ」
「嘘つくなよ」
「ええ、そんな魔獣は、御伽噺の中だけですわ」

 結果的には、予定通りの日程で訓練をこなしたことになった。
 無事、皆と一緒に帰りの馬車に揺られている。

「ユーリ、結局あの薄汚れた紙は何だったんだ」
「ええ、私もそれを知りたいですわ」
「たぶん、たぶんだけど、古代人の記憶だったと思う」
「まあ素敵、古代語を覚えましたの」
「いや、文字を知らない奴だった」
「えっ、だって宝箱に入っていた物でしょ、賢者や勇者の記憶じゃないの」
「うーん、普通の旅芸人の記憶だった」
「えーっ、それじゃただの紙切れと一緒じゃねーか」
「そーでもないぞ、影絵の芸を覚えた」
「それが何の役に立ちますの」
「広場で芸をする時の、客寄せになるぞ」
「・・・、結局役に立ちませんのね」
「そんな事無いぞ、結構面白いぞ。今見せてやる」

 鞄からリュトルと白布を取り出した。
 白布を窓に貼り、覚えたての英雄譚を披露した。
 五人は夢中になって見入っており、帰りの馬車は退屈しなかった。
ーーーーー

 学年末の一週間は春休みになっている。
 ラクラス先生からの呼び出しも時々来るので部屋で待機し、実家に送る上級聖符と上級治療符の原紙を描いている。
 我が家の主力商品なので、定期的に僕が描いて送っている。
 先生の修行のおかげで、魔法陣を描く時の強弱のリズムも取得し、勢いに乗せて、素早く魔法陣が描けるようになっている。
 勿論、符の効果は前より段違いに増している。
 木箱に入れて梱包し、学院の売店から送る。

 売店から出ると、ウィルとばったり会った。

「ユーリ、良い女いないか」

 これは、ウィルとの定番の挨拶だ。

「自分で探せよ」

 これも定番の挨拶だ。
 
「探したけど、居ないんだよ」

 むむ、何時もと違うパターンだ、しかも目付きが真剣だ。

「なんだ、春休みなんで溜まってるのか」
「おまえと一緒にするな」
「なら、何だよ」
「アリス様から舞踏会の招待状が来たんだよ。女連れで男の甲斐性を絶対に見せろなんて、無茶なことまで書いてあるんだぞ、しかも明後日だぜ」

 アリス様とは、ウィルの主家、辺境伯の令嬢だ。

「断れよ」
「馬鹿な事言うなよ。辺境の貴族は軍隊と一緒なんだぜ。断ったら、兄貴たちが国境の前線送りになっちまう」

 何か、物凄く切羽詰まっているようで、ウィルの兄ちゃん達の、命に係わる事態らしい。

「緊急事態だ。タナスに協力して貰おう」
「えっ、タナスにはもう聞いたぜ。タナスの姉ちゃんは、その舞踏会の準備で忙しいって断られたぞ」

 タナスの主家は、ウィルの主家の隣の辺境伯だ。
 軍事行動も一緒に行う間柄で、何かあると、互いに協力するらしい。

「タナスに出て貰うんだよ」
「えっ、あいつは男だぜ」
「女装をさせるんだよ。あいつなら誤魔化せるぞ」
「・・・・・」
「緊急事態なんだろ、兄貴の命が掛かってるんだろ」
「そうだよな、多少のリスクは目を瞑るぜ。良し、タナスの説得に行こう」
「ああ、化粧とドレスは俺に任せろ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...