魔符屋の倅・・・・・魔力は無いけど、オーラで頑張る

切粉立方体

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36 辺境伯邸

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 学院は休みでも、昼飯は普段通り食堂に用意されている。
 目の前で、落ち込んだウィルをタナスが慰めている。

「ごめんね、昨日急に姉ちゃんに応援頼まれちゃったんだ。もう必死でさ、断ったら殺されちゃうよ」
「ええ、私達の間でも噂になってるわ。人が足りないから、トリデニア辺境伯様が必死に女の子を集めてるそうよ」

 今日は食堂も空いているので、従者席でラーラにも同席して貰って、一緒に飯を食いる。
 騎士爵の子弟と平民という、軽い身分だから出来る芸当だ。
 トリデニア辺境伯は、ウィルの家の主家の辺境伯だ。
 メイド情報によると、辺境伯領は取り合えず身分は高いのだが、物凄いど田舎なので、辺境伯領の関係者は女の子にとって物凄く魅力の無い相手らしい。
 
「ヤカタニア辺境伯様と毎年交代で、聖都での舞踏会を開催されているんだけど、トリデニア様の時が特に人気が無いのよね」
「ああ、山賊領って呼ばれてるのは、俺も知ってるよ」

 ヤカタニア辺境伯はタナスの家の主家だ。
 ヤカタニア領には歴史の有る町が多いのに対し、トリデニア領は、開拓地が中心らしい。

「それにトリデニア領は、気性の荒い男の人が多いでしょ、必ず荒れるのよね。一度流民街の踊り子を呼んだこともあったらしいけど、今は断られるらしいわ」

 助平爺さんですら我慢する踊り子達が断るのだ、余程酷い状況なのだろう。
 勿論、ラーラにも頼んでみたが、伯爵家が開催する舞踏会でメイド仕事の応援を頼まれていると断られた。
 ”ユーリのお誘いだったら考えるけどね”と、耳元で囁かれたのは、ウィルに内緒だ。
 これだけ悪評が広がっておれば、手当たり次第メイドを誘って、すべて断られたというウィルの説明にも納得だ。

 昼飯を食った後の寮への帰り道、ウィルがしくしく泣き始めた。

「兄貴達、すまねー」

 あのウィルが昼飯を半分も残したし、これは重症だ。
 仕方がない。

「ウィル、一人だけ心当たりがある」
「えっ、ユーリ、本当か」
「ああ、ただしそいつは、貴族のダンスなんて踊れない。俺が覚えてそいつに教えるから、教えてくれる奴を探そう」

 真っ先に頭へ浮かんだのは、ルイーズ達三人だ。

「それなら、僕が教えるよ。姉さん達の稽古を見て覚えてるから」
ーーーーー

 当日の朝、僕は寮をひっそりと出て、ウィルの部屋へ向かう。
 そう、僕が女装して、ウィルの相手をすることにしたのだ。
 銀色の鬘を纏ったファラ師匠の妹バージョンなので、僕と気が付く奴はいないだろう。
 ドレスも、昨日布を買い求めて来て自分で作った。
 貴族のドレス姿なんて見たことがないので、ファラ師匠の薄い本を参考にした。
 
 ダンスも完璧だ、ウィルは下手くそだったが、タナスは、実に楽しそうに踊っていた。
 基本的には、単純な動作の繰り返しで、踊り子の舞よりずいぶん簡単なステップだった。
 上級者は独自にステップを合間へ加えるらしく、タナスが上手に演じて見せてくれた。

「あー、あー、あー」

 歩きながら裏声を出し、女性の声に変えて行く。

”コンコン”
「はい」

 ウィルの部屋のドアをノックすると、ウィルがすっ飛んで来た。
 ドアを開け、目を見開いてウィルが硬直した。

「ウィルさん、フィラと申します。今日は宜しくね」
「おっ、おっ、おっ、ぼっ、ぼっ、ぼっ、ひょろひく」
 
   なんだ、なんだ、ルイーズ達で免疫が出来ていると思ったのに、ウィルが挙動不審になっている。
 何をしたいのか、手が宙を彷徨っているし、目が虚ろになって泳いでいる。
 こんな化粧に騙されているようじゃ、将来絶対に悪い女に騙されるだろう。
 溜息を押さえてにっこりと笑う。

「さあ、いきましょ」
「ハッ、ヒッ、ヒャイ」

 ウィルは、この日の為に新調した燕尾服を着て、整髪剤で髪を後ろに撫で着けている。
 纏まった金が入ったので奮発したのだろう、まだ少年の面差しが残っているウィルでは、服に負けている。
 朝飯を急いで食っていたのだろうか、服の裾にパン屑が付いている。
 手を伸ばして払ってやると、ウィルが身体を硬直させて、ピックと跳ねた。
 スープの染みも心配だったので、裾とズボンを確認する。
 染みは無かったので、安堵して顔を上げると、ウィルが身体を強ばらせて震えている。
 このままじゃここから動きそうもないので、尻を叩いてウィルを部屋から追い出した。
 
 裏門へ向かう間、気持ちを解そうと、色々話かけてみた。
 その成果で、裏門に着く頃には、まだ緊張しているものの、なんとかウィルも普通にしゃべれるようになった。
 何故僕がこんなに気を使わなければならないのだろうか。
 凄く理不尽な気がした。

 裏門で客待ちしていた辻馬車を拾い、トリデニア辺境泊の聖都の屋敷へ向かう。
 貴族街は、離宮の表門前に広がっている。
 馬車は離宮の内堀沿いを表門へ向かう。
 新緑が芽吹き始めた並木が綺麗だ。
 
 今日は他の貴族も舞踏会を開催しているのだろう。
 表門前には、多くの馬車が集まって来る。
 
 表門前の渋滞を抜けると、馬車はスムーズに貴族街の中を進んだ。
 聖都を囲む塀沿いの広い敷地に、黒磨石で造られたトリデニア辺境泊の屋敷が見えて来た。

 正門で招待状(脅迫状?)をウィルが示すと、門番が敬礼して馬車を向かい入れた。

「騎士爵って、聖都じゃ貧乏貴族だけど、領では辺境軍の幹部候補生なんだぜ」

 ウィルが胸を張っている。
 まあ、幹部候補生でも家来は家来だ、馬車は裏口へ向かう。
 裏口で馬車を降りようとしたら、少し偉そうな兵士に止められた。

「おう、ウィル」
「おじさん」
「すまんが、女連れは表に回ってくれ。お館様の命令だ」

 女性もちゃんと来ることを、他の客に見せたいのだろうか。

 表口で降りると、凶悪な顔をしたおっさんが寄って来た。

「おう、ウィル」
「はっ、大隊長殿」

 ウィルが背筋を伸ばして敬礼している。

「上玉を垂らし込んで来たな、偉いぞ」
「はっ」
「誰かこの嬢ちゃんを控室へ連れていけ、あの小娘と交換だ。ウィル、お前は行って良し」
「へっ」

 僕はウィルと引き離され、重厚な革のソファーが置かれている部屋に案内された。
 入れ替わりに部屋から出て行った女性は、安堵した様な顔をして、嬉しそうに部屋を出て行った。
 メイドがお菓子とお茶を運んで来て、一応もてなしてくれているが、扉の前には兵士が立っているし、壁際に立っているメイドさん達が、僕を見張っている。
 ”拉致”という単語が、頭の中を過った。

 暫くすると、遺跡のボス部屋に出て来そうな大男が現れた。
 
「うむ」

 そう一言いって頷くと、僕を脇に抱えて歩き出した。
 何が”うむ”なのか良く判らないが、ファラ師匠の薄い本で同じ場面を見たような気がする。
 怖いので、次の場面は思い出さないようにした。

 連れて行かれた場所は、表玄関だった。
 うん、寝室とか納屋じゃなくて良かった。
 並ばされて大男の脇に立たされた。
 向かい側には、辺境伯令嬢の大女、アリスが僕を凄い目付きで睨んでいる。
 大男の隣には年配の上品な婦人、その隣は旦那なのだろうか、年配の怖い顔の大男が立っている。
 偉そうな貴族が馬車から降りて来る度に、何故か僕も一緒に頭を下げさせられた。
 たぶんこれは出迎えだ。
 何か、物凄く嫌な予感がする。
 
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