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35 帰路
しおりを挟む僕達が第一階層で倒したボスは、死に際に転移魔法を発動する迷惑な魔獣だったらしい。
十年に一度現れる魔獣と言われており、僕達は、運が悪かったとしか言いようが無いらしい。
勿論、帰って来れた奴なんて居ないので、飛ばされる先は謎だったらしい。
僕達は、遺跡の管理者から呼び出され、尋問を受けている。
僕らのミスリル板に残された討伐記録が検証され、僕らは九十階層近辺に飛ばされていたことが判った。
まだ誰も辿り着いていない場所で、僕達が最後に戦った(虐殺?)ミノタウロスの階層が、最近やっと攻略された最下層だったらしい。
当然、何故そんな場所から帰れたのか、しつこく問い詰められた。
「無礼ですわよ。私達の実力なら当然ですわ」
「背後から襲うの不本意だったが、こいつらに無理強いされたのだ」
「最初に手に入れた腕輪の効果が大きかったんじゃないか」
「それに、最初の頃は、腰蓑に掴まって戦闘を避けましたし」
「下から階段を上ると、ボスって動かないんですよ」
鞄は、国宝級どころか伝説級の品物なので黙ってもらっている。
「信じて下さらないのなら、証拠をお見せしますわ」
ソフィアが魔剣を引き抜き、氷の刃を纏わせた。
部屋全体を冷気が包み、巨大な刃が窓を突き抜け、向かいの建物に突き刺さっている。
「まだ御不満でしたら、この建物を両断して差し上げますわ。如何いたします」
担当官が真っ青な顔をして首を振っている。
こんな時には、貴族の横暴さは便利だ。
執行停止書を書いて貰い、レオさんとトルテさんを引き取りに行く。
僕達が消えた直後に掴まって、ずっと牢に繋がれていたらしい。
牢の管理官の所へ執行停止書を持って行くと、二人は少し前に刑場を連れて行かれたと告げられた。
僕らは、慌てて後を追った。
町中でレオさん達を発見した。
見せしめのため、後手に縛られ、目隠しをされ、囚人同士数珠繋ぎにされている。
犯罪件数が多いのか、百人程が四列になって歩いている。
先導していた執行官に話を通し、二人を宿へ連れて来て貰った。
「うむ、正規の執行停止書であることを確認した。只今を持って、この者達を釈放する」
やっと二人の縄を解き、目隠しを外して貰った。
囚人は白装束を着せられて刑場へ向かうので、凄く目立つ。
縛られた二人が宿の食堂に入って来た時は、帰り支度をしていた生徒達が、初めて見る囚人の姿に固まっていた。
目隠しを外された二人は、やつれていた。
戸惑った様に周囲を見回し、唖然としている。
たぶん、覚悟を決め、斧を持った首切り役人が待ち構えていると思っていたのだろう。
僕達を発見して、レオさんが泣き崩れた。
そして、トルテさんが殴り掛かって来た。
何故か僕が前面に押し出され、トルテさんを受け止めることになってしまった。
同じ場面は、芸人宿で何度か目撃し、ファラ師匠の薄い本にも描いてあった。
二、三発殴らせた後は、距離を一気に詰めて強く抱きしめる。
これで相手のパンチ力が無力化する。
それでも暴れる時は、相手の顔を抱き寄せて唇を重ねる。
舌を絡める理由は良く判らないが、たぶん、相手の肺から空気を吸い込み、息をさせない様にするんだと思う。
上手く行ったようで、トルテさんが大人しくなった。
次は、唇を放し、相手の瞳を見詰める。
そして再び唇を重ね、芸人宿では抱き上げて自分の部屋へ連れて行き、ファラ師匠の薄い本だとその場で押し倒す。
トルテさんの瞳を見詰めると、何故か物凄く怒っている。
”グフッ”
膝蹴りを腹に食らい、殴り倒されてしまった。
「十年早いんだよ、このマセ餓鬼が」
如何やら修行不足と言うことらしいが、それでも落ち着いてくれた。
安堵して周囲を見回すと、ルイーズ達どころか、ウィルとタナスまで退いている。
公爵令嬢や辺境伯令嬢までもが、顔を引き攣らせている。
「あいつには、関わらん方が良いな」
そんな小さな呟きが聞こえて来た。
ーーーーー
「お前らは・・・・。まあ、無事なら良し」
教師に先導され、迷路のような町中を抜けて馬車の待機所まで辿り着くと、絶望との報告を受けていた僕らが、何食わぬ顔で混じっているので、学年主任の教師が絶句していた。
同じクラスの連中は、皆頬がこけ、ボロボロになって疲れ果てていたが、僕らだけ艶々で元気一杯だった。
「お前達だけ、一組に混じって楽をしていたな。狡いぞ」
「あいつらだけ、教師から情報がリークされてんだろ」
「私達だって大変でしたのよ」
「ええ、下の階層に飛ばされましたの」
「サイクロプスやミノタウロスの相手をしていましたのよ」
「嘘つくなよ」
「ええ、そんな魔獣は、御伽噺の中だけですわ」
結果的には、予定通りの日程で訓練をこなしたことになった。
無事、皆と一緒に帰りの馬車に揺られている。
「ユーリ、結局あの薄汚れた紙は何だったんだ」
「ええ、私もそれを知りたいですわ」
「たぶん、たぶんだけど、古代人の記憶だったと思う」
「まあ素敵、古代語を覚えましたの」
「いや、文字を知らない奴だった」
「えっ、だって宝箱に入っていた物でしょ、賢者や勇者の記憶じゃないの」
「うーん、普通の旅芸人の記憶だった」
「えーっ、それじゃただの紙切れと一緒じゃねーか」
「そーでもないぞ、影絵の芸を覚えた」
「それが何の役に立ちますの」
「広場で芸をする時の、客寄せになるぞ」
「・・・、結局役に立ちませんのね」
「そんな事無いぞ、結構面白いぞ。今見せてやる」
鞄からリュトルと白布を取り出した。
白布を窓に貼り、覚えたての英雄譚を披露した。
五人は夢中になって見入っており、帰りの馬車は退屈しなかった。
ーーーーー
学年末の一週間は春休みになっている。
ラクラス先生からの呼び出しも時々来るので部屋で待機し、実家に送る上級聖符と上級治療符の原紙を描いている。
我が家の主力商品なので、定期的に僕が描いて送っている。
先生の修行のおかげで、魔法陣を描く時の強弱のリズムも取得し、勢いに乗せて、素早く魔法陣が描けるようになっている。
勿論、符の効果は前より段違いに増している。
木箱に入れて梱包し、学院の売店から送る。
売店から出ると、ウィルとばったり会った。
「ユーリ、良い女いないか」
これは、ウィルとの定番の挨拶だ。
「自分で探せよ」
これも定番の挨拶だ。
「探したけど、居ないんだよ」
むむ、何時もと違うパターンだ、しかも目付きが真剣だ。
「なんだ、春休みなんで溜まってるのか」
「おまえと一緒にするな」
「なら、何だよ」
「アリス様から舞踏会の招待状が来たんだよ。女連れで男の甲斐性を絶対に見せろなんて、無茶なことまで書いてあるんだぞ、しかも明後日だぜ」
アリス様とは、ウィルの主家、辺境伯の令嬢だ。
「断れよ」
「馬鹿な事言うなよ。辺境の貴族は軍隊と一緒なんだぜ。断ったら、兄貴たちが国境の前線送りになっちまう」
何か、物凄く切羽詰まっているようで、ウィルの兄ちゃん達の、命に係わる事態らしい。
「緊急事態だ。タナスに協力して貰おう」
「えっ、タナスにはもう聞いたぜ。タナスの姉ちゃんは、その舞踏会の準備で忙しいって断られたぞ」
タナスの主家は、ウィルの主家の隣の辺境伯だ。
軍事行動も一緒に行う間柄で、何かあると、互いに協力するらしい。
「タナスに出て貰うんだよ」
「えっ、あいつは男だぜ」
「女装をさせるんだよ。あいつなら誤魔化せるぞ」
「・・・・・」
「緊急事態なんだろ、兄貴の命が掛かってるんだろ」
「そうだよな、多少のリスクは目を瞑るぜ。良し、タナスの説得に行こう」
「ああ、化粧とドレスは俺に任せろ」
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